29話
「あの人って、いつもああなの?」
社長との話が終わり、まだ所属はしていないものの、治喜と空高がレッスンをしているので、合流することにした。
「ああって、何だよ」
「あの人とは、社長のことですか?」
心当たりがあるのか、治喜は苦笑い。
「ああ、社長か」
「西山先輩にとっても、社長は喰えない人なんすね。あの人、俺が入れ替わっていることにも勘づいていたみたいで」
「マジか」
「私たちは言われるまで気づかなかったのに」
空高は目を丸くして、驚いていた。
「あの社長なら、2人が入れ替わったことを話してもいいんじゃないですか?というかもう気づいている気もする」
「そのことはお披露目が終わって、落ち着いたあともしかしてとも思ったけどな」
「頼って、弱味を握られたくもないんですよね」
はあ、と大きなため息をついた。
社長はどれだけ厄介な人物なんだ、と千蔭は顔を引きつらせる。
「そういや千蔭は俺のこと名前で呼んでいいぞ。同じグループになったんだし」
「じゃあ、空高さんと、治喜さん?」
本当に呼んで、失礼じゃないかと首をかしげる。
「何で疑問形なんですか。何なら、地蔵堂さんみたいな呼び方でもいいですよ。名前も長いでしょうし」
「年上の人相手にいきなりそこまで距離詰められませんって」
「まあ、英人の奴は初対面であだ名呼びだったけどな」
「英人はコミュ力高いからなあ…」
そのコミュ力の高さで、千蔭になってくすぶっていた自分が助けられたことを懐かしく思っていた。
「話って、地蔵堂さんのことですよね」
「治喜さんも気づいていたんですね」
「あんなに分かりやすいからな。気づいてないのは、英人だけだ。社長のブラコンぶりは」
空高も気づいていて、呆れていた。
「まあ、正確にはきょうだいではないですけど。似たようなものですよね」
「本人的にはどうなんです?英人のために利用されたようなものですけど」
「練習中や入れ替わりでそんなこと今まで考える余裕もなかったんですよね。それでも、抜擢されたからには、ちゃんとやり抜きますよ」
「俺も英人がそれなりの技術を持っているのは知っているし。本人がやりたいって言うなら、受け入れる気はあるけどよ。ま、それまでは今のグループでやるしかないだろ」
「…2人とも英人に対して、マイナスなこと思わないんすね」
踏み台扱いされたなら、恨みとまではいかないが、不快感は抱くかもと思っていたので、意外だった。
「まあ、彼とも2年以上の付き合いですからね。何の実力もないのに推しているなら、不満はあったと思いますが」
「それにあいつのキャラクターがそれをさせないんだよ。東川と喧嘩しても、あいつなだめられたら止まっちまうし。笑顔にさせる才能でもあるんだろうな」
「…それは同感ですね」




