2話
千蔭の通っている高校は、都内の男子高である。
かといって、クイズ大会に出るような名門校ではなく。
不良漫画に出てくるような荒れた生徒が集まっている学校でもない。
平均的な男子が集まるごく普通の学校であった。
小学校中学校と女子と関わることのない生活を送っていたので、男子だけしかいないのが楽に感じたのだった。
そんな学校に遅刻しないでやってきた。
「チカ、おはよー」
「はよ、英人」
この学校で1年生の頃から同じクラスの友人の地蔵堂英人である。
髪を軽く梳かして、片目だけを前髪で隠す無造作な千蔭と違い、英人は毎朝髪をワックスでおしゃれにまとめている。
顔の造形も整っており、校門前で他校の女子からたまに告白されるのも見かけられる。
告白なんか全くされたことのない千蔭とはタイプの違う友人である。
最初の席が前後だったというきっかけではあったが、気さくに話しかけてくれたため、2人の付き合いは今も続いている。
「今日の課題終わっているか?」
「まあ、やってあるけど…」
「頼む、見せてくれ!」
パンと、手を合わせて、必死に頼みこむ。
成績も上位常連と中の下と差はついてしまっている。
机の中をガサゴソと探しだし、ノートを取り出す。
「昨日はゲーム夢中になって…」
「だから、目の下ひどいクマできてるんだな。お前、ただでさえ顔色悪いんだから、ちゃんと睡眠取れよな」
「うっせえ」
「ご飯は?朝ごはんはちゃんと食べたか?昨日とかお昼は栄養食品だけだったし…」
「今日は弁当持ってきたよ!英人は俺の母親か!」
普段適当に過ごす千蔭に対して、このようにすごく世話を焼いているので、光とは違うタイプでひどくコンプレックスを抱かずに済んでいた。
取り出されたノートを書き写していく。
「そういや、チカは今週末暇?」
「特に用事はないけど…」
「もし大丈夫だったら、俺のバイト手伝ってほしくて」
「英人のバイト先って…」
「芸能事務所、ネクストプロダクション。ミニライブやるんだけど、人手が足りなくてさ」
千蔭は思わず、顔をしかめる。
華々しく活躍する前島光と、くすぶっている自分。
かつての夢を見たばかりで、昔のことを思い出してしまい、あまりいい思いはしない。
「もちろん給料は出るからな!」
「まあ、英人にはいつも助けられているから、それくらい…」
「ありがとうな!チカがいるだけで心強い!」
「大袈裟な。初心者だから、分からないことばかりだぞ」
「いや、だって…!」
「てめえ、いい加減にしろよ!」
窓の外からそんな怒鳴り声が響いてきた。