26話
事務所にやってきた。
今日行くのは、前に来た地下のトレーニングルームではなく、1Fの社長室。
いかにも高級そうなつやつや反射する茶色のテーブルに、同じく高級そうな革の2人がけのソファが2つ向かい合っている。
これは、社長のところにお客さんが来たときに使われる。
ドアを開けたテーブルの向こう側には、一人分の机と椅子がある。
資料やパソコンがあり、これは社長用だ。
「じゃあ、座って待ってて」
「え…。俺、一人で?」
「これから大人のマネージャーと打ち合わせがあるからさ」
そう言って、千蔭は一人残された。
数分待っていると、ドアが開き、社長がやってくる。
20代後半の若い青年だった。
「英人の奴も、お茶とかお茶菓子出さないとか気がきかないね」
「まあ、友人同士なんで、そこまで考えなかったと思いますよ」
社長は自分の机に回り込み、しゃがんでごそごそ動く。
「お饅頭でいい?俺いつも仕事で疲れたとき用の甘いものを常備しているからさ」
「お気遣いなく」
お盆の中に饅頭と、湯呑みに緑茶がある。
社長は緑茶をずずっと飲む。
「まだ自己紹介をしてなかったね。ネクストプロダクション社長の真中詩音です。英人の保護者でもあるかな」
「初めまして。天野千蔭です」
お互い頭を下げる。
「うちの事務所に所属したいってことでいいんだよね?」
「そうなんですけど。…今さらですが、いいんですか?俺、素人なのに」
「あれだけ話題になっているのに、芸能人にさせない選択肢なんてないよ。千蔭くんが出たのは、うちのイベントなんだし」
社長の机から紙を数枚取り出す。
「本人に書いてもらうのはもちろんなんだけど。保護者にも許可取らないといけないんだ」
「そういや、話すの忘れてた」
「あ、じゃあ話してから、まとめて書いてもらおうか。保護者に反対されて、駄目になったこともあるし」
資料をまとめて、封筒に入れた。
「じゃあ、ちょっと雑談タイムでもしよっか」
「はあ…」
千蔭は湯呑みを手に取った。
まだ、詩音がどういう人間かつかみづらかった。
「英人って、学校でどう?」
「…え、保護者と教師の面談ですか?」
「だって、英人の奴学校のこと全く話してくれないんだもん」
ほっぺを膨らまして、すねている。
大人らしいひょうひょうとしているかと思ったら、こんな子供な一面もあるとは意外だった。
「まあ、勉強とか運動できるから、クラスの人気者って、感じっすね。知っての通り、男子高なので、モテるとかはないですけど」
「まあ、俺もその学校通ってたしな」
「へえ。そもそも2人って、どんな関係なんすか?」
「ああ。英人の兄が俺の親友でな。亡くなったから、代わりに面倒見ているんだよ」
「…すいません」
重い話題になってしまった。




