21話
ステージには、光が中心になっていた。
治喜と空高は訳が分からず、戸惑っていて、次の動きに移れない。
「天野…?」
「一体どうしたんですか…?」
「合わせてください。この場を台無しにしたくないでしょう」
小声で2人に、促す。
サビに入り、ステップを踏んでいく。
千蔭の後から2人も続いていく。
そんなバラバラに始めたので、みんな合わさっていない。
でも、千蔭だけは笑って、踊っていた。
周りを気にする余裕がないだけかもしれない。
マイクがない分、誰よりも大きな声を響かせて、歌う必要があるからかもしれない。
でも、この場の誰よりも楽しく、パフォーマンスをしていた。
(やっぱり、千蔭もバク転できるじゃん!)
千蔭と光は入れ替わっていた。
元に戻れないまま、5年が経とうとしていた。
千蔭の体は運動神経が悪いことは知っていたが、実際に千蔭の体になってみると、光の体でできたことができないことを思い知った。
バク転もできるところを全く見れなかったし、千蔭の体になった後も、体にしみついている恐怖からか、回ることができなかった。
そんな経験が増えていき、親友のことを嫌いになりそうになった。
それが嫌で、頑張ることをあきらめた。
運動神経を並程度に押し上げたが、それまでだった。
千蔭のフリもできない。
でも、もう光でもない。
そんな精神で数年を過ごしてきた。
でも、自分と同じように入れ替わって、それでもアイドルを目指す人たちに出会った。
nanaの曲は、昔2人で練習していたときに使っていた曲だ。
入れ替わったあとも、また2人でアイドルをやることを目指して、一人でも練習してきた曲だ。
その頃を思い出して、家に帰ったあと、思わずステップを踏んでいた。
鏡に映るのは、自分ではない。
たった1年でも巡り会えた、下手でもひたむきに頑張ってきた親友の姿。
そのたった数日間の練習だけで、ステージに飛び出してしまった。
(前のときも思いましたが、天野さん素人じゃありませんよね)
(このフリ見たの数日前だから、まだ荒削りだ。だが、手の動きやステップが基本に忠実だ。こいつ、本当に初心者かよ)
2人の目線から、そんなことがうかがえた。
(確かにこの曲のフリは見たままを踊っているだけ。でも、基本的なところは心が覚えている)
光は、物心ついた頃から、芸能事務所事務所社長の母親から歌やダンスのトレーニングをしていた。
遊ぶ時間が少なくなって、小学生の光にとってはつまらないものだったが、今回はその積み重ねが助けとなった。




