20話
「それ、本当か?」
5年生の終わりの3月。
毎日の日課通り、光と千蔭は2人歩いていた。
「うん。父さんの転勤が決まったんだ」
千蔭は顔をうつむかせていた。
「だから、家族一緒に引っ越すことになった」
「…そっか。寂しくなるな」
声から落ち込んでいるのがうかがえて、光も顔をうつむかせた。
「もう、一緒に帰ることもなくなるんだな」
「…ごめん」
「謝るなって」
しんみりした空気を変えようと、無理してからから笑おうとする。
それでも、寂しさを隠しきれなかった。
今にも泣き出しそうに見えた。
「僕、手紙書くから」
「…え?」
「僕だって、光くんと離れるの寂しいよ!だって、光くんが僕の、初めての、1番の友達だもん!」
「千蔭…」
光と千蔭が話すようになって、1年が経つ。
光自身が気に入って、光が強引に連れ回して、光だけが友達と思っているのではないかと、内心不安に思っていた。
でも、一方通行ではなかった。
千蔭も光のことを友達だと思ってくれていた。
そのことがうれしくて、涙がこぼれてしまった。
「ひ、光くん泣かないでよ。僕、僕だって…」
それにつられて、千蔭も泣き出してしまう。
少年たちの泣き声が土手中に響いていた。
「…ごめん、取り乱した」
「…ぐすっ。僕も泣いたし」
2人は目をこすったり、鼻をすする音も聞こえる。
「そうだよな。離れていたって、俺たちは友達だもんな!」
目も鼻も赤いまま、光は千蔭に笑いかける。
たくさん泣いて、すっきりしたのか、気分も晴れ晴れしていた。
「それに、戻ってくるんだろ?」
「え?」
「だって、俺たちは2人でアイドルになるんだろ?」
光は千蔭に対して、拳を突き出す。
「…うん!」
千蔭も拳を突き合わせ、グータッチをした。
「ああ。こんな顔で今日の練習どうしよう?」
「先生たちに心配されちゃうね」
ようやく、気分が安堵していた。
そのときだった。
「あっ…」
光は土手の草に滑り、倒れかかる。
「光くんっ!」
千蔭は必死に叫び、手を伸ばす。
手を取り合ったものの、千蔭も倒れる光に巻き込まれる。
そして、土手の斜面を2人は転げ落ちていった。
転げ落ちた先は、草むらがクッションとなり、2人が大きな怪我をすることはなかった。
しかし、頭を軽くぶつけたため、一瞬気を失っていた。
数分後、転げ落ちたときの擦り傷の痛みを感じながら、目を覚ます。
「光くん、大丈夫?」
「ああ。千蔭も巻き込んでごめんな」
だんだんと頭も覚醒していき、目を開いた。
それぞれが目の前に座り込んでいた。
しかし、2人が目にしたものは普通じゃなかった。
「「何で俺/僕が目の前に!?」」
2人は同時に叫んでいた。
「何で俺がいるんだよ!千蔭はどうした!?」
と、千蔭。
「僕が目の前に見えるなんて、幻覚?光くんはどこにいるの!?」
と、光。
2人が辺りを見回しても、探している人は見つからない。
そして、目の前にいる自分の姿が言っていることもおかしいと気づいた。
「お願い、こっち来て!」
光の体が千蔭の体の手を取り、引っ張って連れて行く。
静かに流れる川の近くまで来た。
2人は川をのぞき込む。
「やっぱり…」
光の体は、口元を歪め、顔を引きつらせる。
千蔭の体は座り込んで、さらに川に近づく。
千蔭の前には光の体。
光の前には千蔭の体があったから。
「僕たち、入れ替わったってことだよね?」




