1話
それから数年後。
明かりのつかない暗い部屋に、スマホのアラームが鳴り響く。
ベッドの中で青年は身じろぎしながら、起き上がる。
カーテンを開くと、太陽の光が入ってきて、その眩しさに目を抑えた。
黒い寝癖でボサボサした髪で、前髪は目を隠す程伸びている。
青年はのそのそと起き上がり、ドアを開き、部屋を出た。
廊下をまっすぐ歩き、突き当たりのドアを開くと、リビングであった。
制服を着たツインテールの少女がトーストをかじっているところだった。
目の前の皿には、目玉焼きとサラダがある。
「お兄ちゃん、おはよー」
「おはよう、千春」
青年は、千春の反対側に座る。
右側にはテレビが見え、芸能ニュースを伝えている。
『本日の特集は、10代の若い女子の間で人気沸騰中のEternalです!』
青年は体をびくっとさせる。
青年と同年代の男性4人がテレビに映る。
「あら、光くんじゃない」
年配の女性が台所から出てくる。
「あの子もすっかり大きくなったわよねえ」
「何、お母さん、光の子供の頃とか知ってるの?」
「言ってなかったっけ?小学校の頃、千蔭と仲良かったのよ」
「うっそ!」
千春は目を見開き、大袈裟なくらい驚いた。
「昔の話だよ」
千蔭は無愛想に答える。
「小6になる前に引っ越してから、会ってないし」
「それにしても、光とお兄ちゃんって、住む世界違いすぎない?」
千春はまじまじと千蔭を眺める。
数年経っても、千蔭の陰気さは変わらず。
むしろ子供の可愛らしさが無くなった分、さらに陰気さは増したように感じられた。
「引っ越したばかりの頃キャラ変だか知らないけど、明るく振る舞って、友達増やそうとして。結局元に戻ったけど」
「うっせえ。…俺もらしくないことしたと思っているよ」
ぼそっと、聞こえないくらいの声でつぶやいた。
『大活躍のEternalの皆さんですが、注目すべきはその歌声!特に前島光さんは、唯一無二の美声の持ち主ですよね』
『はは。ありがとうございます』
インタビュアーの質問に、光は爽やかに笑った。
『僕が小学校の頃、クラスメイトにとても歌が上手い友達がいたんです。彼にコツを教えてもらったり、一緒に歌ったりしたことが、上達したきっかけですね』
「へえ。その人、お兄ちゃんは知っている?」
「さあな」
千蔭はテレビから視線を外す。
「ねえ、お兄ちゃんは光に会えないの。せっかくまた東京に戻ってきたのに」
ねえねえと、千春は千蔭の体を揺すってすがる。
「連絡先知らないし、会える訳ないだろ。千春が言ったんだろ。俺とあいつは住む世界が違うって」
「ちぇー」
千春は口を尖らせ、すねた。
「あいつもよく言うよな。友達に教わったなんて」
千蔭は、はっと呆れたように笑うのだった。