16話
明かりのつかない、朝日が隙間から入ってくる部屋で千蔭は起き上がった。
「はあ」
起きて早々大きくため息をついた。
「何で最近昔の夢ばかり見るんだろ」
だらだらと廊下を歩き、ばしゃばしゃやる気なく顔に水をかける。
「お兄ちゃん、おはよう」
千春がやってきたので、横によける。
がしゃがしゃ歯磨きをしている。
「休みの日にこんな早く起きるなんて珍しいね」
うがいをして、話し出す。
「今日バイトだからな」
「ああ、英人さんの芸能事務所の!」
洗面所から出て、歩き出す。
「裏方とはいえ、その前髪はやめた方がいいんじゃない?ヘアピン貸してあげようか」
「いいって。本当に表には出ないから」
「でも、勿体ないよ。顔は悪くないのに」
「まあな」
「お兄ちゃんって、陰キャの癖に顔の良さには何故か自信あるよね」
千蔭をじと目で見る。
「ちゃんとした服装でいきなよー。お兄ちゃん、ほっといたらティーシャツにジーンズというシンプルなの選ぶから」
「大丈夫だって。上はライブ用のシャツ着るから」
案の定、シンプルな格好にリュックサックを片肩にかけ、電車に乗った。
流れていく電車の窓の景色を何の感情もなく、眺めていた。
ミニライブとは名ばかりで、一大イベントとなっていた。
会場は野外公園にあるステージ。
その周りには、ライブグッズや飲食できる屋台が出ていた。
出演するネクストプロダクションの芸能人たち目当てで、まだ開場していないのに、人だかりができていた。
「規模がデカすぎんだろ」
「俺もびっくりした」
隣に英人が来ていた。
「この会場見るの、今日初めてなんだけど、こんなにぎやかとは思わなかった」
「事務所見た感じ、こんな盛大なのができるところとは思わなかった」
「人の事務所に対して、失礼なこと言うなあ。まあ、設立したばかりの頃から、ずっと事務所変わってないからな。人は増えたみたいだけど。1人しかいなかったときからよくやったよ」
「社長とそんな昔からの知り合いだったのか?」
「ま、まあな…」
英人は口よどんでいた。
千蔭は更衣室に行き、ライブ用ティーシャツに着がえる。
「これ、俺が必要なのか?」
「この人だかりだから、売店の人手に何人いても問題はないけどさ…」
周りを見渡す。
「やっぱり、あいつらのサポート手伝ってくれねえ?」
「だと思った。それでも、給料は出るんだよな?」
「もっちろん!俺たちは2人で1人のあいつらのマネージャーだからな」
意気揚々と英人が無理やり肩を組む。
千蔭は引きずられながらも、足を進めだした。




