12話
そうして、トレーニングが終わった。
「そういや東川先輩と西山先輩一緒にいるけど、秘密じゃなかったか?何か言われなかった?」
「まあ、社長愉快犯だから、当日に驚かせたかっただけだから。当日にパフォーマンスするのに、さすがにぶっつけ本番は難しいからね。でも、2人は口を滑らせたことは注意されたみたいだ」
「仕事で知り得た情報を漏らすのは、一社会人として、問題ですからね」
「実際、知らないまま、当日だったら、やばかったけどな」
次は、いよいよダンスの練習となった。
「そういや、俺何の曲やるか聞いてないんだよな。オリジナル?」
「さすがにデビューも確定してない。元はメンバーも分からなかった私たちに、オリジナルなんて作りませんよ」
「nanaだよ。ナーナ」
「nana…」
その言葉を聞いて、英人は気づかれないくらいだが、声のトーンが落ちていた。
「へえ。よくnanaのカバーできましたね」
「まあ、社長がnanaのマネージャーしていましたからね。その縁で」
nanaというのは、6年間活躍していた男性ソロアイドルである。
彼がデビューしてすぐに、老若男女誰にでも愛される人気アイドルになった。
そして、瞬く間にトップへと上り詰めていった。
彼が表舞台から姿を消して、4年が経つが、その歴史は伝説として、今も多くの人の心に残っている。
「多分聞けば、分かるんじゃね。5年前に流行ったやつだし」
そうして、曲が流れていく。
始まりからアップテンポで、思わず手拍子をしたくなる曲。
確かアニメの主題歌にもなっていたのではないか。
nanaの人気曲の一つだった。
「これって、ダンスの難易度はそこそこ。でも、たくさん動くから、大変なんだよな」
英人は懐かしむようにつぶやいた。
「私はダンス経験少ないので、ひと月もらって、ようやく覚えられたところなんですよね」
「俺は、もうちょい難易度高くてもよかったけどな。曲自体は好きだし、悪くねえけど」
「じゃあ、もう覚えているんですか?」
「当たり前。1週間もありゃ、パーフェクトだったな」
楽しそうに、得意げに笑う様子からは、本当にダンスが好きなんだなと読み取れた。
「これ歌詞も入っているけど、当日って踊るだけなんですか?」
「いや、歌ももちろんやるぜ。さすがに歌いながらは慣れていないから、一苦労だったが」
「初めて、2人で合わせる。しかも、この入れ替わっている状態なんです。まずは、ダンスから様子を見ようかと思いまして」
曲が流しっぱなしのままだったので、巻き戻していき、最初の状態になった。




