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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
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沢のほとりダンジョン6


 芳醇な匂いをさせるチーズを、イッサとサキが半分半分で分けて背負い鞄にしまって持ち運ぶ。空っぽだった鞄なのに、既にぎゅうぎゅうになっている。


 そんな中。


 ぐぅ〜。

 小さな腹の虫が鳴いた。

 テフラが腹を抑えて、自身の灰色髪を掻いた。


「……腹減ってきたな」


 ダンジョンに入ってから、数時間が経過している。

 木々の生えるダンジョンの天井は燦々と照らす光でとっても明るいが、昼頃にダンジョンに入ったことを考えると、ダンジョンの外はもう日が暮れ始める頃であろう。特にテフラは罠に注意して緊張しながら進んでいたし、戦闘などで体も使っているので空腹を感じてきたようだ。

 まぁトドメは美味そうなチーズのせいであるが。


「軽く飯だけは済ませるか? どこかおかしなダンジョンである以上、休憩階層があるか分からん」

「僕、休憩階層みてみたいです!」

「寝るところがあるって聞いたのですよ! ないのです……?」

「……やれやれ。そうだな、あるといいな。で、どうするテフラ」


 ダンジョン内には休憩階層と呼ばれるものが設置されていることがある。

 それは階層が深くなると、体力を回復するための寝床が現れることがあるのだ。それは一階層が一部屋の小部屋のようになっていたり、はたまた宿屋のようなものが突然現れたりする。現れるその全てが『掃除人』やモンスターの現れない階層となっているので、長居することも可能である。

 風の噂では、アイテムを購入することができる不思議なお店なるものも存在するらしいが、ニシキの村では眉唾物扱いである。

 なお、本当に宿だけでモンスターも現れない。なので、休憩階層に居座り続けると、食料品などを手に入れる術がなく普通に餓死してしまう。

 眠気や体力が回復し終えたら、すぐに探索に戻った方が良いとされている場所だ。

 休憩階層が存在する詳しい理由はわかっていないが、神々が楽しむのに人間に元気があった方が良いとされているとか、神々の慈悲だとか、いろいろなことが言われているのであった。


 閑話休題。

 軽い食事を勧められたテフラだったが、横に首を振った。


「まだ階段が見つかっていないからなー。休憩をするにしても、階段を見つけてからにしようぜ」

「……そうだな。いつ『掃除人』が現れるとも限らない。階段さえ見つけていれば平気だろうし、そうしよう。双子も平気かい?」

「「うん、まだ平気!」」


 現在はまだ三階層。

 村長マクキタラの推測を考えれば、このダンジョンは長くてもあと二階層あるはずだ。それ以上長ければ、流石に休憩階層もあってもおかしくはないだろう。どのみち先に進むより、終わりの階層がどこか把握する方法もないのだ。

 ……ダンジョンの終わりがわかる不思議なアイテムなんかも、ダンジョンで見つかることもあるのだろうか? ふとテフラは考え、打ち消すように首を振った。


「……今無い物をねだるより、前に進んだ方が建設的だな」

「「?」」

「? 腹が減りすぎて、空腹で目を回して倒れるなんて事もあるからな。テフラ、限界に近くなったら早めに言えよ」

「おう!」


 気合を入れ直したテフラは、相棒の手斧を肩に担ぐと再びダンジョンを歩き出すのであった。



 ◇



 道中襲い掛かってくるスラットを、テフラはあっさりと倒していく

 ドロップアイテムは全滅。何も手に入っていない。


「ちぇ。俺も何か良いもの欲しいんだけどなぁ」

「ハハッ! 案外、双子には初めての開封ってジンクスが効いているのかもな」


 口を尖らせて不貞腐れるテフラに、タレ目を細めてラカブが声をかける。

 ぐぬぬ。と、テフラは恨めしげに双子の鞄を見つめる。大人気ないが、まだ青年なのでセーフだ。

 イッサとサキはテフラが何度モンスターを倒してもアイテムが落ちないことで、ようやく自分達が運が良かったことを理解していく。


「ラカブのおっさん、ダッシュアップルン見かけたら狙おうぜ」

「ふぅむ、アリと言えばアリだな。アイツは高頻度でアイテムを落とす」

「あ、アイツを倒せるんです?」

「スラットよりしゅばばって素早いのですよ?」


 金髪をサラリと揺らしながら、双子は首を傾げた。

 大仰にくねくねと体を揺らし、飛んでくる石礫をモノともせずに逃げ去った等身大リンゴ(足付き)の姿を思い出す。とてもじゃないが倒せるようには思えなかったのだ。

 それにテフラとラカブは、苦笑いしながら目を合わせた。


「へへへ、コツがあるんだよ」

「まぁ、単純なことだ。狭いところで挟み撃ちするとか、通路に逃げ込んだ所を遠距離から仕留めるんだ」


 いわゆる通路で、機動力を殺すのだ。

 そのラカブの解答に、テフラが口を尖らせる。


「ラカブのおっさんは広い場所でも倒せるじゃん」

「ハハッ。おじさんは経験値と装備が違うからねぇ」

「よし、じゃあ次ダッシュアップルンを見かけたら、おっさん頼んだぜ!」

「……おいおい若人。自分で倒すという気概ってのは大事だぜ?」


 ラカブは投げナイフを投げるモーションを、無手で見せて笑う。テフラはそんなラカブにニヤリと笑ってねだる。残念ながら、テフラはダッシュアップルンを確実に仕留める技を持ち合わせていないのであった。

 そんな軽口を叩いて歩いていると。


「あ」

「「居たです!」」

「……やれやれ」


 クネックネッという擬音が似合う歩き方。

 特徴的な見た目。噂をすればダッシュアップルンの登場だ。

 細い通路から小部屋に入った時、ダッシュアップルンを見つけた。

 こちらが見つかる前に、テフラ達は慌てて通路へと戻り身を隠す。

 そっと、小部屋を通路から覗く。


 部屋の中心でくるくると踊っているダッシュアップルンが居た。常日頃から、鍛錬(?)を欠かしていないようだ。


「テフラ、おじさんがやるのかい?」

「……ああ。ここまでドロップが少ないなら、狙える稼ぎは狙った方がいいかなって」

「もっと良いアイテムが次の階層で手に入るかもしれないぞ?」

「その時は、必要だと思うアイテムに持ち替えれば良い。それに、さっき双子が拾った『帰還の洋燈』がある。一人が先に脱出するのもありだ」


 真剣そうな表情でテフラはラカブに意見をする。その意見にラカブは頷いた。


「よし、分かった。そこまで考えているなら良い」

「ありがとーおっさん! イッサ、サキ見てろよー? ラカブのおっさんはナイフ投げの達人だからな!」

「「わぁ……!」」


 ハードル上げないで欲しいねぇ。ラカブは苦笑いを浮かべ、狭い通路で隊列を変える。

 そして、一番前に立つと自分の目でダッシュアップルンの位置と小部屋の通路などを確認。

 どうやら小部屋の奥に、ヘタを打つと逃げられそうな通路が一つあるようだ。


「おや? この部屋階段もあるな」

「まじ!? じゃあダッシュアップルンのドロップアイテムで飯だな!」

「ハハッ! そりゃいいな!」


 ダッシュアップルンの横に階段が見えた。それを後ろに報告すると、テフラが腹を押さえながら雰囲気を上げる。

 体に巻いた布。投げナイフが入ったホルダーから指に三本ほど絡めとる。


「じゃ、おじさんの技見せますか」


 部屋に飛び込むように入る。きちんと射線を通すためだ。

 入ってきたラカブに気がついたダッシュアップルンは、驚いたようにその場で垂直ジャンプ。

 まるで、飛び立つ白鳥を思わせる美しいジャンプだ! 


「お、ラッキー。飛んでくれた」

「!?」


 それに惑わされずに、ラカブは一投。

 胴体ど真ん中ストレート。

 ダッシュアップルンは空中でどうやっているのかわからないが、キラキラマークを周囲に飛ばしながら横回転を決めて華麗に回避。

 だが、ラカブはそれがわかっていたように、残り二本を同時に投げていた。


 最初の一本がストレート。

 残り二本はダッシュアップルンが元々いた空間の左右を狙う正確な投擲。

 時間差をつける、三方向投擲。

 スコン。


「当たり」

「──!?」


 どこが口なのかわからないが、ダッシュアップルンが金切り声を上げる。

 しかし、倒すには至っておらず、ダッシュアップルンは着地後なりふり構わず逃げ出そうとする! 

 小部屋の奥、先ほどラカブが確認した狭い通路にスライディングするように──。


 ──スコン。


 ぱっかーん、ダッシュアップルンが真っ二つになって地面に倒れる。

 投げナイフを素早く再装填したラカブが、それをくたびれた顔で眺めていた。


「ま、こんなもんかね」

「本当に倒しちゃったです」

「ラカブおじさんすごいのです!」

「ハハッ、年の功だよ。君たちも大きくなればできるようになるさ」


 ダッシュアップルンがダンジョンに食われていく。

 そこには先ほどスラットを倒した時と同じように、麻袋が落ちた。


「よっし! おっさんドロップしたぞ!」

「僕取ってくるです!」

「私もいくのです!」


 当事者のラカブをおいて、テフラと双子は喜び合う。

 双子が先駆けに、麻袋のある小部屋へと飛び出す。



 そう、ここが。

 神々の娯楽劇場。

 危険な『ダンジョン』であることも忘れて、飛び出す。



「──オイッ!」

「止まれ!!!」


 気がついたテフラとラカブが血相を変えて、遅れて叫んだ。

 ラカブの長い手が、双子の一人、イッサの首根っこを捕まえ──。 


 ──カチッ。


 軽い音。


 わずかに先行したサキの足が空を切る。


「ぁ、ぇ?」


 サキが踏み込んだ場所の地面が消えていた。


 黒々とした穴があった。

 人を一人、地面へと飲み込むことが出来そうな黒い穴。

 『落とし穴』の罠。


 複数人で入るダンジョンで最も悪辣な罠。

 これに落ちたものは強制的に、次の階層へと送られ。

 落とし穴は、すぐさま消え去る。


『ダンジョンを脱出及び攻略するまで、決して仲間と合流することができない罠』


 すぐに階段を降りても無駄。

 階段でいく先とは違う、全く別なエリアに送られる最悪の罠。


 ひゅんとする浮遊感。

 足元がなくなったサキが、事態を理解しきれず白痴のように惚けた声をあげて。


 ──堕ちていく。


 サキが『帰還の洋燈』を持っていれば話は別だが、今このパーティで持っているのは入る前に受け取ったテフラ。そして、ダンジョン内で拾った、ラカブの腕の中で押さえ込まれたイッサの腰に下がっている物のみ。

 残された双子のイッサが、ラカブに首を掴まれたまま、落ちていくサキに手を伸ばす。

 届かない。


「──ッラぁ!」


 強い足音! 


 空を掻くように、暴れていたサキの手を。

 我が身を顧みず穴へと飛び込んだテフラが掴んで、サキを空中で抱きしめ、


 地面に空いた黒い穴は、瞬きと共に消え去った。


 その場に残されたのは、険しい表情をしたラカブと事態についていけない様子のイッサだけであった。


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