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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
56/66

閑話『観ていた者達』

『???』


 青年と青い鳥が『八本脚』を倒した頃。

 その同刻、別な場所。


 ──ぱちぱちぱち。

 拍手の音が響く。


 コロッセオの観客席のような場所。

 広い空間。

 何百何千を収容可能な施設だった。

 しかし、その劇場は寂れきっている様で影は二つのみ。


 一人は深く黒いローブを被り、横の席へ無造作に大鎌を置いている者。

 もう一人は糸目でバニーガールの格好をしたウサミミ女。

 その二人が、一様に手を叩き合わせてたった今目の前で行われていた()に拍手を送っていた。


 しばらくしてその音が終わり、ウサミミ女がカツカツと高い足音を立てて黒いローブのものに歩み寄る。

 そして、しっとりとした声音で話し始めた。


「うふふ、不敵な子でしたねぇ。あんな大物相手に大立ち回りでしたねぇ。最近はダンジョンにはいる人間達って徒党を組みますから、一人で切った張ったの中々面白い演目でしたぁ。あなたはどう思いますぅ? 人間が恐れる代表の『掃除人』さん?」

「s────s──」


 ぐるり、糸目バニーガール『店主』に話しかけられた黒いローブの者『掃除人』が、その恐ろしい髑髏の相貌をフードから覗かせて言葉を返す。だが、声として出力する器官が備わっていないのか空気が漏れる音だけが悲しく響いた。

 話しかけた店主は首をかしげる。いくら自慢のウサミミが地獄耳とはいえ、言葉の程をなさない言葉の意味までは聞き取れない。

 申し訳なさそうに眉根を寄せて、掃除人の近くの空いた席に腰を下ろす。


「……その、申し訳ないけれどぉ。声帯付きの姿に代わってもらってもぉ?」

「s──。……了解した」


 黒いフードがはためき、一瞬恐ろしい死神の姿がぶれた。

 すると。

 質素な喪服に身を包み、顔の半分を黒いベールで隠した女性が現れた。首元や手先まで黒い布でぴっちりと覆っているのに体のラインがしっかりと出て、どこか艶かしい雰囲気を感じる。

 その女『掃除人』が店主の要望に応え、言葉少なに言葉を返した。


「うふふ! その姿でダンジョンに現れればあなたのことを恐ろしく言う人も少なくなるんじゃないんですかぁ?」

「否定をする。私がダンジョンに降りる時、立ち塞がる人間は全て刈り取るので……寄って来られても困る」

「うふふ、お互い仕事が多いので大変ですねぇ」


 くすくすと笑いながら店主が紅い瞳を見せながら言葉を吐き。

 それに対し顔を覆うベールを揺らしながら薄い唇で掃除人が言葉を返した。


「そちらは黄金に囲まれるのが好きなだけだろう?」

「そちらは劇にメリハリをつけたいだけでしょう?」

「「フフ、どちらも趣味か」」


 二人とも軽口を叩き、微笑をこぼす。

 二人の間に流れる空気は悪くなく、お互いがお互いを尊重しあっているのがなんとなくわかる応酬だった。

 再び店主が最初の質問に戻す。


「ではぁ、親交の軽口も終わったことですしぃ? どうでした今回の演目は」

「可もなく不可もなく」

「おや、手厳しいですねぇ。祝福まであげている子なのにぃ」


 二人は観客席の先、八本脚を倒した後に地面に座り込んだ青年に視線を向ける。

 店主の言葉に、ふん、と鼻で笑ったのか、掃除人の顔を覆ったベールがゆらりと揺れた。


「嫌いな奴を出し抜いたのと、弱い者を見捨てない勇気を賞賛しただけ。他意はない」

「とか言ってぇ、数階前に自分が降りる時間になったときソワソワしてませんでしたかぁ? お気に入りなんじゃないですかぁ? あの子がダンジョンに入ってからずっと見てましたよねぇ?」

「……してないが? 見てないが??」

「うふふ! そういうことにしておきましょうか。その方が面白いですしぃ」

「s──s──」

「あ、拗ねて姿変えないでくださいよぉ」


 からかいの言葉を飛ばす店主の言葉に、どこから見ていたんだコイツと思う掃除人だった。

 で、と店主が言葉を続ける。


「何かこのダンジョンおかしくないですかぁ? 本当にたまーにしかここには来ないので、なんにも知らないんですよねぇ。ルール違反……というより後付けの変更点が多数見受けられますし、管理してる神も代理になってますし、姿を現さないし、難易度がそもそもおかしいし? 今の青年が熱血だからギリギリ及第点の劇になってますけど、他の人間だったらすぐに折れてつまらないですよぉ?」


 この流れで会話を続ける気かコイツ? と掃除人は肉のついていない頬をげっそりとさせた。


 イラッとした掃除人は骨だけの手でお金マークを作ってみせる。

 店主がたじろいだ。

 店主が掃除人の様子を見ていたように、掃除人だってダンジョンでの店主のことは見ていたのだ。

 掃除人にとっても眼下の青年が金を払って情報を買うという行為には目から鱗だった。


 つまり、知りたければお前の大好きなお金を払えと掃除人は店主に言っている。

 店主の頬にたらりと汗が一筋ながれ、むむむと顔を顰める。


「s──」

「えぇ……お金って……。100dcでどうでしょう?」


 話にならないな。と、掃除人は置いていた大鎌を持って立ち上がる。

 慌てた店主が掃除人のローブに縋り付く。

 店主の柔らかい肉体が骨だけの体に押し付けられるが、何も気にしない様子でずるずるとそのまま歩き出した。

 ずるずると地面を引き摺られる様子はどこか滑稽だった。


「あーん、待ってくださいよぉ! あの子ウブだし発想が面白いんですよぉ、限定文句に弱いのが気になるんですよぉ!」

「……」

「1000dc! あ、ずりずりずり……、うぅん、5000dc!」


 一瞬掃除人は足を止め──フェイントだ! 

 掃除人は面白くなって駆け出した。


「みゃああ、まだだめぇ!? うえええ、むむむ……10000dcッ……じゃなくて100000dcだーッ!!」


 そこでようやく掃除人は立ち止まった。引き際を弁えているとも言う。

 姿が先ほどの喪服姿に切り替わった。

 引き摺られていた店主は自慢のウサミミをヘニョらせて涙目だ。

 どこからともなくジャラジャラと黄金のコインが溢れてきて掃除人の周りを囲む。

 パチン、と掃除人が指を鳴らすとどこか虚空へと、それらが消えていった。

 涙目で店主はそれを見送る。


「ぅうう、私の黄金ちゃん……」

「貴様にしてみれば大した額じゃない。どうせ私から聞いた情報をあの子に売るつもりだろう」

「ぎっくぅー!?」


 ピィーン! とウサミミが跳ねる。糸目バニーガールが体をくねらせてそっぽを向いた。

 そして言い訳がましく呟く。

 すごい早口だ! 


「いやぁ各ダンジョンを転々とする私としてはですねぇ色々知っておきたいと言いますかぁ」

「さらに貴様、自分があまり知らないから横で寝ていた青い鳥の記憶を読んで、これ幸いと語り出したな?」

「う、うふふ。でも顧客は満足してくれたので! それに少量の金額だったので!」

「ふーん? その割に重要そうな部分はぼかしたよな貴様」


 疑わしそうな掃除人の視線に滝汗を流して、がっくりと店主は肩を落とした。


「……罪悪感があるので、きちんとした情報を次に渡せるようにですよぅ」

「ふん」

「それに見てましたかぁ? 私の売った財布にいっぱい黄金ちゃんを詰め込んで、うっふふぅ!」

「はぁ……、まぁ貴様はそういう神だ」


 ため息をついて、再びその辺にある空いた席へと掃除人は腰を下ろし、居住まいを正した店主に詳しい話を始めるのだった。


「では、このダンジョンについてだったか。そもそもこのダンジョンは私の知り合いのダンジョンで────」


 その話の最中。

 眼下では青年が立ち上がって冒険の続きを始める。


 そのせいで話をする掃除人の気がそぞろになって、話があちこちに飛んでいったりして、店主が金額分話されていないと掃除人とおしくらまんじゅうを始めることになるのだが、────それはまた別な話。


この世界の神様は割と好き勝手生きてます。

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