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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
54/66

土墨煙

『ボス階層 八本脚』


 テフラを逃げ場なく捕まえるように、地面から触腕が飛び出す。

 それを地を流れるように跳んだテフラが、現時点最高の一撃を無防備に頭を晒した『八本脚』に放つ。


 ゴッ!! まるで火薬が弾けるような会心の一撃! 

 ビカァ! と斧刃が()()()()()()()()()()()()()、強い衝撃を放出する! 叩きつけた場所から波紋のような衝撃波が巻き起こり、『八本脚』の頭に凄まじいダメージを与える!! 


『────!?!』

「ッ!? ……そういうことかっ!」

「わーッ!?」


 ビリビリビリ! テフラの腕にまで痺れるほどの反動が返ってくる。ハピネスがマフラーの中で必死に飛ばされないようにしがみつき、全身をビリビリと震わせた。


 ついにテフラは斧マスターキーの性能に気がついた。

 さきほど触手に飛び上がり攻撃した時やたった今の会心の一撃のように、強い力で斧を振るったときに斧刃が強く光り輝き、攻撃の威力が上がっているのだ。

 上層では斧は片手で使い、取り回しやすいように加減して使っていたので気が付かなかった真実。


 ──この斧は所有者の攻撃が強ければ強いほどそれを増幅するのだ……! 


 歯を食いしばって反動を耐え、歯を剥き出しに笑うテフラはすぐさま次の行動に移る。

 相手はボスだ。

 この一撃程度ではまだまだ倒せない。

 だが、この斧の性能の引き出し方がわかったなら……! 


 空中に浮いたままのテフラは強く足元に『鏡面の盾』が来ることを意識する。主人の意志を汲み取った『鏡面の盾』はすぐさまテフラの片足が乗る場所に配置され──。


「っっ〜!! っ、すぐに正面から撤退して攻撃だ少年! 頭に攻撃した時の反撃行為がくるよ!!」


 ────無理矢理空中に足場を作って、強くそれを踏み込み後ろへと跳ぶ。ハピネスの指示に従い、地面に着くとすぐさま『八本脚』の後ろに回り込むように逃げる! 


 斧マスターキーを顔面に叩きつけられた痛みに絶叫する『八本脚』の咆哮が鳴り響く。

 地面に突き入れていた触手も引き戻され、先ほどテフラがいた場所に向けて全ての触手が一斉に何度も何度も叩きつけられる。

 触手が地面を潜り、テフラに向かってきていた時よりもはるかに激しい音と振動。


「目ェ瞑って、捕まってろォ!!」

「しょうねーん!?」


 テフラは回り込み、逃げた先で斧マスターキーの柄の一番先をギシリと音が鳴るほど握り、ハンマー投げの要領でその場で回転。ハピネスが遠心力で飛ばされないように必死でマフラーに抱きつく。


 そして一番加速した時、『八本脚』の膨らんだ頭に向けて……! 


「オラァアアアアア!!」

「ぐるっぐるぅー!? しょう、しょうね、きゅ〜〜!?」

『────!!!』


 全力の回転撃を放つ! 再び斧刃が光り輝き、先ほどよりは小さいが衝撃の波紋を生み出す!! 

 再び頭にダメージを受けたことで、『八本脚』がテフラが今まさに攻撃を放った場所へ先ほどと同じように攻撃をしてくる。

 テフラは同じ要領で、『八本脚』の本体に凄まじい一撃を放っていく。マフラーに捕まるハピネスの目がもうずっとぐるぐるしている。

 このまま同じことを続けていけば倒せてしまうのではないか、とテフラは思ってしまいそうになる。


 だが。

 ────その程度で終わらないからここは『ボス階層』なのだ。


 攻撃を受ける『八本脚』が暴れる度に、地面が、床が、円形の部屋の中に土煙が満ちていく。

 それはまるで煙幕。

 タコのことを知っているものがみれば、墨のようだと思っただろう。


 そして。


「きゅ〜……、ってはっ!? 『八本脚』が跳ぶよ! 少年、外周まで!!」

「おう、分かった!」


 たった今まで『ボス階層』の中心から一切動かなかった『八本脚』が────跳んだ。


 凄まじい速度で空へと跳び出した『八本脚』に追従し、凄まじい空気の流れを作り出し充満していた土煙が部屋中に満ちる! 

 テフラはハピネスの指示通り、部屋の外周へと逃げながら『八本脚』が跳んだ上に目を凝らす。

 だが、充満してきた土煙のせいで敵影は一切見えない。


 すぐに視線を前へと戻す。

 土煙で外周の壁が見えない。

 いや、違う。

 これは……土煙のせいで一直線に壁の方へと逃げ切れていない……!? 


「しまっ……!?」


 ゾクッ!! とテフラに悪寒が走る。

 咄嗟にハピネスのいる場所を押さえ、体を丸めて地面に転がる! 


 瞬間。

 地面に凄まじい衝撃! 

 自身のすぐそばに流星でも落ちてきたのではないかと錯覚する。

 体を丸めたテフラの体が、ゴム毬の如く地面を跳ねた。

 まるで地面が消えたような感覚を味わう。


「がッ……!?」


 だが、激痛に喘ぐテフラは知っている。

 これは天高くまで跳び立った『八本脚』が地面にその身を叩きつけた攻撃だと。

 予想以上にダメージを受けているのは、土煙で壁端までの距離を見誤ってしまい、中心に近い場所で攻撃を受けてしまったせいだろう。


 要は自身の失敗のせいだ……! テフラはこんな時に出てしまった自分の悪癖に歯噛みする。


 土煙の向こう。

 再び地面に戻ってきた『八本脚』の黒影を、白飛びする視界の中でテフラは確認した。


「に──ッ──がっ!?」


 ハピネスが何かをしゃべっているような気がするがテフラには伝わらない。

 あまりの衝撃と音に脳と三半規管が揺さぶられ、意識がぐらぐらと揺らいでいるのだ。

 それでも必死で地面を這うように、テフラは四肢に力を入れる。

 その度に四肢がガクガクと震え、体が故障してしまったようにその場から動かない。


 ──くそ、直接攻撃を受けたわけでもないのにこれかよ……! 


 揺れる視界の中、起き上がろうと努力するテフラが悪態をつく。

 不思議なアイテムなしでは勝利することは非常に難しい。ハピネスがそういっていたのが走馬灯のように思い出される。

 幸いなことに、まだ土煙が消えていないので『八本脚』もテフラとハピネスの居場所には気がついていない。だがボスであるが故に、『八本脚』はこちらがダンジョンに食われていないことに気がついている。

 すぐに立ち上がらないと、今は充満している土煙だがすぐに晴れてしまう。

 このままでは『八本脚』に見つかり、トドメを刺されてしまう。


「────ん!」


 地を這い震えるテフラの口元に、ハピネスの柔らかな羽毛が当てられる。

 どこか嗅いだことのある匂い。


 ────テフラはソレを口を開けて舐め。


「にっガァ!?」


 ごくりと飲み込んだ! 

 マフラーから飛び出してきてたハピネスが、差し出していた翼を引っ込めプンプンと尾羽を振り散らかす。


「乙女の翼を舐めといて失礼な! って、そんなことより早く立ち上がって!」

「そんなすぐ効く薬でも……。ああくそ、今すぐ動くぜ……気合いだ! んで、ハピネスは無事か?」


 四肢にじんわりと暖かさが戻ってくるテフラは、先程までとは違って四肢の震えを押し殺しなんとか立ち上がる。

 立ち上がったテフラは真っ先に、同じ位置で衝撃を受けたハピネスの心配をする。


「うむ、少年が庇ってくれたからね! ……あとちょっとだけその苦いのつついたよ。そんなの飲むなんて正気じゃない……」

「それはうちの村人に言ってくれ……。というかそれってお前と間接……って鳥だもんなぁ」


 ハピネスがマフラーから飛び出して、テフラの口元に押しつけたのは緑色の丸薬。


 そうニシキの村で使われている回復薬である! 


 鳥とはいえ女性のハピネスに口で触れるのはどうなんだと一悶着あったりしたが、ハピネスから死んでは元も子もないという言葉でテフラはマフラーの中に丸薬を仕込むことを許可したのだった。

 といっても、激しい戦闘だ。

 何粒も抱えていたところで飛んでいってしまう。


 今のがハピネスが咄嗟に与えられる最初で最後の一粒。


 ハピネスに丸薬を渡せばとも思うが、土煙が晴れて行ってしまう。どうやらそんな時間はなさそうだ。


 晴れた先『八本脚』の姿。

 それは、先ほどまでとは全然違っていた。

 先ほどまでは、粘液まみれの茶色気味の姿。


 そして、今は全身が真っ赤染まり、まるで怒りを表しているような姿に変化していた。

 うねる触手も赤く染まり、湯気が立っているようにオーラが見える。


 それがテフラとハピネスの方へと、ジリジリと中央から距離を()()()()()()()()()()


「へへ、マスターキーの一撃一撃は効いてたみたいだな……」

「そうだね少年。ボスの二段階目、ここからが踏ん張りどころだよ」


 二段階目。

 それは『パローレミングス』であれば、スラットが倒し切られ本体が動いてくるような物。

 この『八本脚』は体色が真っ赤に染まり、中央から動き出すというもの。


 あの巨体が動き出し、押しつぶされて死ぬ過去の儀式の人間もいたそうだ。

 テフラはまだ僅かに痺れが残る四肢に激を打ち、壁際から離れるように駆け出す。



 ────そしてベルトから鈍色の宝石がついた杖を、勢いよく抜き放つのだった! 


 斧くん脳筋仕様。

 攻略法を知っていたので早いペースで二段回目になりました。


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