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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
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ボス階層へ

『休憩階層 王都中央広場』〜『ボス階層 八本脚』


 この『休憩階層』の中央の噴水広場に座り込む青年と青い鳥の姿があった。

 そこでもぐもぐと、口を動かしながらゆっくりと味わうように食事をするテフラ。


 ハピネスがかつての知り合いの商人の家で涙をこぼした時から時間が経っていて、すでに彼女も落ち着きを取り戻している。

 最初はハピネスにも食べさせようとしたが、残りの食糧数的にハピネスは遠慮をした。


 そう、もう食品はテフラの母からもらったカバンに残された、ダンジョンの中でドロップした白パン一個だけになってしまっているのだ。


「さて、少年。食事をしながらで良いから聞いていてほしい」


 テフラの正面でハピネスが話を始める。

 口を咀嚼のために動かしながら、テフラは首肯。ちびちびと齧るチーズが少しずつテフラの胃に収まっていく。

 ゆっくり食べている理由は、たくさん咀嚼することで満腹感を増やす作戦だ。


「そろそろ食糧が尽きてしまうのは分かっているね? それを解消するためには、当然『休憩階層』を出ていかないといけないわけだよ。『休憩階層』で口にできるものは、この噴水のように水くらいしかないからね。そして、私たちが『休憩階層』を抜けた先には……!」


 ハピネスがテフラの眼前で、いつかのように体をウニョウニョうねらせる。ハピネスが真剣にそんなことをするのが面白いので、テフラは咽せそうになるが胸を叩いて我慢した。


「強大なボスモンスター『八本脚』が待っている! 少年、覚悟はいいかい!」

「ン」


 口にチーズを入れて味わいながら、テフラはぶんぶんと首を縦に振った。テフラのやる気を感じ取ったのか、テフラの背中にくっついていたなぜか浮遊するようになってしまった『鏡面の盾』も二人の周りをぐるぐる回る。斧は沈黙を保ったまま鈍い光を放っている。


 この『休憩階層』に来てから、丸一日ほど時間をハピネスの話を聞きながら訓練に当てたテフラ。

 一般的な二食分の量の食事を細く食い繋ぎ、出来るだけ『八本脚』という敵がしてくる攻撃をイメージトレーニングしていたのだ。


 今は睡眠をしっかりと摂った後の、この『休憩階層』での最後になる食事をしている所だった。


 もぐもぐ……。ゴクン。

 大きな嚥下音が響く。

 そしてテフラは噴水の水で喉を潤すと、大きく伸びをしながら立ち上がった。


「ぷはっ、うし! 気力満点だぜ!」

「頑張るぞぉー! 大丈夫、少年ならやれるさ! 私の護り人はすごいんだって所を見せつけてやるんだ!」

「モリ……。おう、よくわからねぇけど任せときな!」


 立ち上がったテフラはハピネスを肩に乗せ、今までその反対側で担いでいた大きくなった斧マスターキーを背中に収める。

 少しだけ時間を使い背中の手斧用だったホルダーを改造し、斧がきっちりと止められるようにしたのだ。

 急な戦闘時に取り出せるように抜き出しの練習もして、腰のウエストバッグに干渉しないように上手く出来た。


 トントン、と数回その場で跳ねて体の調子を確認する。

 するとテフラは口角を上げて不敵な笑顔。どうやら調子気力共に完璧そうだ。

 ハピネスもその肩の上で、羽をムン! と膨らませている。この階層に来た頃の絶望していた様子はどこかに行ってしまったようだ。


「よしハピネス忘れ物はないか?」

「大丈夫。別れの挨拶はしてきたよ」

「何だそれ……。まぁやり残したことがないならいいさ」


 テフラは歩き出す。

 噴水の向こう側、大きく地面に口を開くダンジョンの階段。


 そこへ後ろを振り返らずに進んでいく。

 ハピネスは少しだけ後ろを振り返りそうになったが、テフラの横顔を見て小さく首を振って、テフラと同じように前を見つめ続けた。


 テフラとハピネスが、地面に開いた階段の口へと降りていく。

 そして『休憩階層』から全ての人影が消えた。


 ざぁざぁ、と誰もいない広場に噴水の音だけがずっと響き続けるのだった。



 ◇



 コツコツと高い足音を鳴らしながら、テフラは快活に階段を行く。

 ハピネスはテフラが勝利すると信じていても、緊張はしてしまっているのか饒舌な様子は鳴りを潜めてしまい、テフラのマフラーの中で大人しくなっていた。


「ハピネス」

「う、うむ! なんだい少年!」

「へへ、そんなにガチガチになってたら、もしもの時にマフラーからポーンと飛んでいっちまうかもしれないぜ?」


 普段はハピネスの方から話しかけている事が多いのだが、言葉が少なくなってしまったハピネスにテフラが緊張をほぐすような言葉をかけてやる。


「そんなミスしないよ! ……あ、でも少年はいつも激しいからなぁ」

「……その言い方、なんか嫌だぞ」

「む、少年。何か変だったかい? 少年は戦う時に激しく体を動かすじゃないか。マフラーで縛られているとはいえ、私の小さな体でよく受け切っていると思うよ? あ、でも少年がやりやすいように体を動かすのが私としては一番だからね、少年!」

「いや……。いや、何でもない」

「???」


 思春期らしさが出てしまったテフラの思考を読みきれないハピネスだった。

 テフラは後ろ髪を掻いて、ハピネスの居ない肩の方にそっぽを向くのだった。ハピネスは首を傾げて、そんなテフラを不思議そうに眺めている。

 そんなアホらしい会話をしていると緊張をほぐすために話しかけたテフラの方が緊張が抜けていった。


 しばらく歩いていくと、ついに階段の終わりが見えてくる。

 テフラは立ち止まりはしないが、大きく息を吸って大きく息を吐いた。

 ハピネスもその真似をして二人一緒だ。


 テフラは拳を打合せ、肩のハピネスに一言声をかけた。


「いくぜハピネス!」

「いくよ少年!」


 マフラーから顔だけ出したハピネスと共に声を出したのを合図に、テフラは背中から斧を抜き放ち駆け出す。


 そして、光差す階段の先へと飛び込んだ! 


 飛び込んだテフラの眼前には広い円形の部屋。

 まるで闘技場のような部屋。


 これが『ボス階層』だ。

 テフラの知っている知識と整合する。


 壁は上の階層で見た灰色の岩石だけで構成されていて、床は砂利の地面に、時折草が生えている。

 テフラは目を細め、顔を険しくする。

 斧を構えて周囲を警戒しながら、軽く足を左右に擦る。

 コケたら痛そうだが、戦闘の踏み込みに支障がある感じではない。

 内心でホッと息を吐く。

 その時、マフラーの中でハピネスが小さく告げた。


「……くるよ、少年」

「おう!」


 背中の階段が、ゆっくりと消えた。

 じわり、返事をするテフラの掌が汗で滲む。


 パキ、パキパキ! 

 テフラが見ていた視線の先、円形の部屋の中心。


 そこの空間に黒いひび割れが起きる。


 まるで卵の殻が割れるように。

 空間が縦に砕けていく。

 このダンジョンを作った神の力を、まざまざと視覚から感じられる瞬間。


 ああ、正にこの場は『神々の娯楽劇場』と感じられる。

 たった今この時、ここから現れるボスモンスターと戦いその戦いぶりを神々に献上するのだ。


 テフラの頬が吊り上がる。

 犬歯を剥き出しに、腰だめに構えた。

 斧を両手で握り下段に構えて、そのテフラの周りを『鏡面の盾』がどこから攻撃が来てもいいようにぐるぐると漂う。


「ちゃんと捕まってろよ、ハピネス」

「う、うむ……」


 言った瞬間──! 

 ビシリ! ひび割れた空間から、八本の触手が勢いよく飛び出してくる!! 


 ぬらぬらと粘液で光る先は細く奥は太い吸盤付きの触手。

 その根本から大きく膨らんだ風船のような大きな頭。

 膨らむ頭の上は苔むしていて、緑色の苔と体表の粘液のせいで生理的嫌悪感を煽る。

 人間のテフラから見ると、まるで家のような巨体がそこにあった。


 それがハピネスの恐れるモンスター『八本脚』の全貌だった。

 完全にひび割れた空間から『八本脚』と呼ばれるボスモンスターが降臨した。

 ボスがひび割れから完全に外に飛び出すと、階段が消えるようにひび割れも空気に溶けるように消えていく。


 現れた『八本脚』は八本の触手を体の周りに槍のように掲げ、頭の下にあるこれまた悍ましいクチバシのような口から涎を撒き散らしながら叫ぶ。

 それは目の前のボスの産声であった。


『────────!!』


 対するテフラとハピネスは。


「うるせぇな。へへへ、想像してたより怖くねぇなァ!」

「テフラ、勝利を……!」

「おう、任せなぁ!」


 テフラは名状し難い悲鳴のような高音を叫ぶ『八本脚』に向かって犬歯を剥き出しにして鋭い眼光を向け、ハピネスは体を震わせながらもテフラの体にしっかりとしがみつく。


 そして叫び終えた『八本脚』は。


 ────右に掲げていた触手のうち一本を、テフラに向かって槍のように鋭く突き出すのだった。


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