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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
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生贄ダンジョン麓14

生贄ダンジョン麓8F〜『休憩階層』


 テフラとハピネスは頭を悩ませる。

 何に悩んでいるかというと、自分達の手札。

 ボス『八本脚』と目の前に広げたアイテム群で、どう戦うかを悩みに悩んでいるのだ。

 使用に当たっての優先順位をつけ、確認をしていく。


 一、『鈍足ワンド(1)』

 ボスモンスターは状態異常が効きにくいという前情報有り。


 二、『パワーアップの薬』

 効果時間が短く、ここぞという場面でしか使えない。


 三、『吹き飛ばしワンド(5)』 

 ……ボスを吹き飛ばせるのかわからないが、距離を取るために使用可能かもしれない? 


 四、『ワープの薬』

 ボス部屋は、一つの部屋で戦うことになっているので、一瞬だけ見失わせることができるか……? 


 五、『太陽のペンダント』

 未鑑定品。不足の事態に陥るのを防ぐために使用は推奨されない。


「『八本脚』の情報があるのが救いだけど、太い八本の触手による物理攻撃が主で、他には?」

「うーん、少年の言っていた通り状態異常系の杖なんかを使った子は、少しの時間で解除されて苦戦して亡くなった子も……」

「ウゥン……」


 テフラは頭を抱えて、自分の担いでいる斧を見る。

 やはり、コイツを万全に使いこなせなくてはボス戦での戦いは厳しいものになるだろう。

 せめて『成長』してから見える斧の光っている意味などがわかってくれれば良いのだが。


 悩むテフラの上で、ハピネスが跳ねる。


「少年、ここで考えていても始まらない。とにかく今は最後の階層であるここで、出来るだけ敵を倒して運良くアイテムがドロップすることを狙わないと。大丈夫、少年なら平気さ」

「それはそうなんだけどな……。いや、そうだな! 前向きに今できることをするぜ!」

「うんうん! その意気だよ少年! きっと大丈夫。大丈夫さ……」


 まるで自分に言い聞かせるようにハピネスが何度も大丈夫と呟く。それを見て、テフラはハピネスが精神をやられ始めていることに気がついてしまった。

 何とも言えない顔で、後ろ髪を掻く。

 まぁ動けるだけ動くしかない。

 テフラは再び進み出す。


 広げたアイテム群を仕舞い込み、隠れていた通路から出るテフラとハピネス。

 そうして、すでに階段の場所を見つけていた二人は天井が夕暮れになるまで、ダンジョンの階層内を彷徨って歩く。



 ────収穫は、なかった。



 ◇



 コツコツと足音を鳴らして、階段を降りていく。

 テフラとハピネスの間に言葉が少なかった。


「……その」

「おう、どうした?」

「いや……」


 テフラの肩の上で悩むように、ハピネスがゆっくりキョロキョロする。

 どことなく気まずそうだ。

 テフラもそれを察しているので、ハピネスを軽く指で撫でてやる。

 対するテフラに関しては、かなり飄々とした雰囲気で歩いている。片手で大きくなった斧を担いでいなければ、頭の後ろで手を組んでいそうな気配。

 そんなテフラが意気消沈しているハピネスに声をかける。


「大丈夫だよ、ハピネス」

「何か、いい案が思いついたのかい……?」

「現状だとハピネスの言った通り、迫ってくる触手をドバンズバンするしかねぇかな」


 テフラは肩をすくめて、ハピネスに返した。


 結局上の階層で、テフラが手に入れることが出来たものは『鞄拡張の本』と『吹き飛ばしワンド(5)』だけだった。ハピネスは何度も考えていたが、結局テフラが『八本脚』に勝つためには『成長装備』を使いこなすしか思いつかなかった。


 ハピネスがみた『八本脚』というモンスターはそれほどまでに強力だった。

 地面をのたうつ強大な触手で、幾人もの儀式の人間を絡め取って動けなくして、壁や地面に叩きつける。最後にはその巨体で全てを押し潰して、天井の映像が終わってしまう。

 それがハピネスの見てきた『八本脚』戦だ。

 不思議なアイテムを使いこなす子供たちと、例外のフィジカルお化けが突破をしていただけだ。


「何だよ、ハピネスビビってんのか?」

「……少年、少し楽観的すぎないかい? もしかして自暴自棄になっているわけじゃないだろうね!」

「そんな訳あるかよ、俺はお前の命も預かってるんだぜ? ……お、次の階層についたぞ」


 特段、攻略法を考えついていないのに飄々とするテフラに、ハピネスが怒った。

 流石に楽天的すぎないかと、ハピネスが毛を逆立てる。


 そんな会話の時。

 階段が終わり、階層が見えてくる。

 そこは『休憩階層』と呼ばれる場所。

 ダンジョンの中だというのに、どこか美しい街並み。

 よく見ると、いくつか建物に入るための扉が見れる。

 あの中にベッドや体を休めるところがあるのだろうか? 


 ここは、体調を万全に整えることくらいしかできない場所。

 モンスターが現れないし、不思議なアイテムが落ちていることもない。

 本来であれば、落ち着ける場所のはずなのだが……。


 テフラの背中の方で、たった今降りてきた階段がゆっくりと消えていく。

 それを尻目にようやく立ち止まれる。とテフラが大きく伸び。


「なぁハピネス」

「……」

「心配なのは分かるし、ろくなアイテムがないのも本当だ。でも、諦める理由にはならない」

「ならない、けど……! どうするの!」


 テフラは自分の手を顔の前にやって、ハピネスを手の方へと誘導。

 そして目を合わせて会話を始めた。

 再びテフラは肩をすくめる。


「俺たちには他の『八本脚』に挑んだ人が持ってないものを持ってるんだ。それを生かすしかねぇぜ」

「……『魔法の地図』かい?」

「へへ、アレは戦いの役にはたたねぇよ!」


 じゃあ何があるの? というハピネスの視線に。

 テフラは、ニッと笑った。


「そもそも、前の人たちは『八本脚』っていう敵がいるってことも知らずに挑んでるんだ」

「……情報があったって、活かせなきゃ意味がないじゃないか」


 ハピネスの顔色はすぐれない。

 だけど、キョトンとした顔でテフラは言葉を返した。


「いや、お前が言ったじゃねぇか」

「?」


 もう片手に握った斧を軽く揺する。


「俺がこれを使いこなせりゃ勝てるんだろ? ここで動かし方を覚えてやるぜ!」

「食料品も少ない、時間がないんだ……! 本気で言っているのかい!?」

「本気も本気。だってやれば勝てるんだろ?」


 ハピネスは気がついた。

 この男、本気で言っている、と。


「じゃあやるさ、俺はやる男だ! 何たって俺はニシキ村の森番の倅テフラだからな!」

「えぇ……」


 脳筋極まり。

 なんの根拠もなく胸を張るテフラ。

 ロジックもクソもない励ましに、今まで困難を一緒に乗り越えてきたハピネスでも頭を抱えてしまう。


「そうだ、ハピネスお前にも仕事があるんだからな?」

「え? 何をするんだい?」

「出来るだけ正確に、開幕からの相手の行動パターンを教えてくれ」


 そういって、テフラは頭を抱えて動かなくなってしまったハピネスを肩に戻して『休憩階層』の中を進んでいく。

 テフラが思い出しているのはボスモンスターの『パローレミングス』を瞬殺したという、ラカブの言葉だ。


「物資がない時や速攻を決める時なら『頭』を叩けってな」


 青年の中に、ニシキ村の教訓が生きているのは確かだった。



 ◇



 清潔感の保たれた宮殿のような『休憩階層』に風切り音が響く。


 上半裸で斧だけを握ったテフラが、全身を使って演舞をするように斧マスターキーを振るっていた。細い体の中にぎっちりと詰め込まれたテフラの筋肉が、演舞中に徐々に型を作っていく。


 テフラの拙い想像力で生み出された『八本脚』の幻影と、自身の心の中でイメージトレーニングをしていく。

『八本脚』の一番厄介な点はその触手と、ハピネスが言っている。

 触手は吸盤というものが存在していて、それに触れてしまうと武器や盾がくっついて奪われたり行動を封じられたりしてしまう。


 片手で振るっていた斧を、テフラは()()()握る。

 いつも通り『鏡面の盾』は左腕についているが、話を聞く限り、装備を奪われるリスクのある巨体攻撃を受け流す等の行動が取れるとは思えなかったのだ。


 であれば、最初から攻撃に全振りしてしまえば良い。


「少年、次は本体からの体当たり! 周囲には触手!」

「ラァ!」

「囲まれてるよ!」

「『ワープの薬』、……はさっき使ったんだっけ!? あ、くそ!」


 腰から何かを抜き取るモーション。

 だが、何かに気がついたように動きを止める。

 すると。


「はいだめー! 少年はその場に止まってるから、触手でぐるぐる巻きにされました!」


 覚悟を決めたというか、やけっぱち気味に見えるハピネスが声を張り上げた。

 それを機会に、汗だらけになったテフラがどさりとその場に座り込む。

 トトト、と細かく跳ねながらハピネスが寄ってきた。


「……やっぱ質量攻めが問題だな。『吹き飛ばしワンド』で本体を弾けねぇか」

「過去に使っていた子はいたけど、本当に仰反る程度しか効かないよ?」

「へへ、それだけあれば十分さ。よし、次だハピネス。最初からやるぜ?」

「うん!」


 反省会を終えて、テフラが再び立ち上がり、ハピネスが離れていく。

 離れた場所にいる『八本脚』を知っているハピネスが、テフラの想像幻影に外部から不規則な動きを与え、それ課題としてテフラが戦うというもの。


 昔、ニシキ村での座学で行っていたこと。

 その時は『パローレミングス』との疑似戦であったが、それを生かしていく。

 これがテフラの言っていた『他の人たちが持ち得なかった物』だ。他の人間は、どこにボス階層があるかもわからない中で戦っていたのだ。であれば、テフラとしても過去の人たちに胸を張れるように、そして自分とハピネスのために絶対に負けるわけにはいかない。


 それを数十回。

 普通の階層内であれば、掃除人が一度湧いてもおかしくない程の時間が経っていく。


 ぐぅ〜、とテフラのお腹が鳴り、一度休憩を挟む。

 なんだかんだ、ハピネスを救い出してからかなりの時間が経っている。

 テフラもダンジョンを切り抜けた後の修練には、体がこたえたのか瞼が落ちかけていた。


 この『休憩階層』には中央に噴水があったので、そこを水浴び場としてテフラは汗を流す。

 ちょうどいい具合にあった本日寝る予定以外のベッドの布を、体を拭うのに使ったり本当に好き勝手にやっている。

 その様子を目を閉じ……薄目で眺めていたハピネスは、過去の王都広場によく似た作りの『休憩階層』の扱い方に、『王様』が苛立っているだろうなぁと想像の翼を飛ばす。

 大体その通りである。


 テフラのあまりの自由さに、少しだけ不安が紛れるハピネスなのであった。



 アイテムがほとんどない状態でのボス戦感をもう少し出したかった……。

 この話を書いてて思い出したのは、某MMOの木人をひたすら無心で殴っていた記憶と動画を見ながらコンテンツの予習をしていた記憶でした。

 ボス前のヨシュウダイジ……。

 オナジミスデ、ナンドモカイメツ……。


 明日から19時頃の1日1回更新になります。

 ブクマいいね評価感想等よろしくお願いします!

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