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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
39/66

生贄ダンジョン麓7

生贄ダンジョン麓6F


『換金の鞄』を手に入れた後、テフラとハピネスは生贄ダンジョン6Fを進んでいく。

 その道中『魔法の地図』を見て赤い光点のある、敵がいるはずの小部屋をそっと覗き込む。

 地図上では敵が示されているのに、目視確認はできない。


 二人は顔を引っ込め、そっと息を吐く。

 どうやらこの階層で非常に厄介な敵と思われる、姿の見えない敵『ナニモノ』も地図上では表示されるようだ。 

 いることさえわかれば何とかなる、そう思って見えない姿を暴く『鏡面の盾』を眺めて頷き、テフラは通路に『換金の鞄』を置いて、ナニモノを倒すために小部屋へと飛び込んでいくのだった。



 ◇



 始まりこそ苦戦をしたが、うまく戦えるようになってきたテフラは、階層を進んでいく。

 モンスターの種類は、先ほどの階層にいた不思議な杖を使ってくる『ワル魔導』とお腹を減らす踊りをしてくる『スカルマン』、そして姿を消して襲ってくる『ナニモノ』の三種類だ。

『鏡面の盾』の成長のおかげで、順風満帆の道のりに見える。

 だが、道行くテフラの顔色はあまり優れない。

 一つ、解決していない問題があるのだ。


「なぁ『八本脚』がいる階層って後何階なんだ?」

「あ、言ってなかったかな、少年。ええと、今が六階だから……『休憩階層』を一度含めて、四階かな」

「つまり、実際は残り三階で、不思議なアイテムを集めないといけないわけか……。ちょっと今のペースだと厳しい、かもな」


『魔法の地図』と睨めっこしながら、テフラは唸る。

 地図上には、落ちているアイテムを示す青い光点がたった二つ。


 しかも、恐らく片方はミミックである。


 テフラはボスモンスターを、己の肉体一つで薙ぎ倒せるとは思っていない。

 一世代前の村長マクキタラの兄が、大剣一本で切り抜けたという話を聞いても、フィジカルモンスターな自分の父の背中を思い出しただけだ。少なくとも、組み手で善戦することはあっても、一度も父を地につけることができた試しがない。

 やはりテフラは、自分の腕力だけで勝てる気がしなかった。


 となれば『八本脚』に勝利するためには、ダンジョンで手に入れる不思議なアイテムを入手する必要がある。


 後ろ髪を掻いて、『換金の鞄』を見る。

 じゃらら、と中で金コインdcが揺れている。


「『帰還の洋燈』で、あの『休憩階層』から仕切り直すことも考えてたんだけど……。ちくしょう、やっちまったぁ……」


 お金に代わってしまった『帰還の洋燈』を思い返し、テフラは嘆息する。

 そのテフラの様子を見ながら、肩に乗ったハピネスが青い翼と尾羽をゆらゆらと揺らす。


「少年、ドジを嘆いても帰ってこないよ。比較的に『帰還の洋燈』は手に入れやすいんだろう? だったら、諦めずに敵を倒してドロップを祈ろう」

「……俺はドジじゃねぇ、少し失敗することが多いだけだ。でも、そうだな。結局前に進むしかないんだ」


 パチン、と軽く自分の頬を打ってテフラは、自分の目的を思い出す。

 この『生贄ダンジョン』を攻略して、尾根の神様も助けて、ニシキの村にいるみんなに良い報告をするのだ。


 急に俺が消えたと思っているだろうイッサとサキに何気ない顔で挨拶してやったり、マクキタラとラカブに祝福された『鏡面の盾』を見せて度肝を抜いてやったり、カイズミ爺さんに『成長』した手斧マスターキーを見せてやったり。


 ────親父とお袋に、成長した姿を見せてやろう。


 へへ、と鼻を擦って笑う。

 気負いはない。絶望もない。


 それこそが、この青年の一番の取り柄。


 テフラは一番大事なことを何度も胸の内で反芻する。

 急に笑ったテフラに、ハピネスがキョトンと首を傾げた。


「少年?」

「へへへ。生贄ダンジョンを出たらさ、やりたいことがいっぱいあるなっと思ってさ」


 テフラは先ほど思ったことを、つらつらとハピネスに語る。


「ふふ、大変いいことだよ少年。それが君のここぞという時のパワーになるんだからね!」


 二人はくすくすと笑う。

 そして、思い出したようにテフラが笑うハピネスに質問した。


「ハピネスは?」

「うん?」

「いや、ハピネスはこのダンジョンを出てからやりたいことってないのか?」


 テフラはこの青い鳥がこの生贄ダンジョンを出てやることは尾根の神様を救うこととしか聞いたことはなかったと思い至ったのだ。


「……それは、尾根の神様を救うんだ」

「それは俺とお前が一緒にやることだろ? その後だよ」

「……」


 その問いに、青い鳥は押し黙り……。

 何かを思い出すように、ダンジョンの天井の向こうに視線を送る。


 そして、風にさらわれてしまいそうな小さな声で。


「尾根の、向こう────。いや、忘れてしまったよ」


 何かを喋ろうとして、やめてしまうのだった。

 踏み込むか迷うテフラだったが、『魔法の地図』の上で赤い光点が向かってきていることに気がつき、ハピネスをマフラーに入るように伝える。


「ハピネス、話の途中だけど敵だ」

「うん、すぐに隠れるよ。頑張れ少年!」

「おう! ……けどよ、一個だけ」


 接敵する前に、テフラは武器を構えながら一言だけ、おしゃべりのくせに自分の事は何も語らないハピネスに言葉を送る。


「ハピネス、お前が全部忘れたっていうならさ」


 先ほどのどこか遠くを見ていた様子は、ハピネスが何かを忘れたようには決して見えなかった。

 ハピネスが喋らなかったことには何か理由があるんだと思って、彼女の心情を汲み取る。そのうち言いたくなった時に言ってくれればいい。それが何年先でも、大丈夫だ。

 だから、今は……。


「……外に出たら、祝いにお袋謹製のタマゴサンドでも一緒に食べようぜ! 美味いって言ってただろ?」

「……少年」

「ほら行くぜ! 舌噛むなよ!」


 せめて新しい理由になってやろう。テフラはそう思うのだった。

 その青年の言葉は、何かの覚悟をしている青い鳥の心に少しだけ響いた。


「……うん」



 ◇



 がちゃん! 

 いつも通り斧で開けた宝箱がダンジョンに喰われていき、その場にアイテムがドロップする。

 話を終えた二人は『魔法の地図』で、この階層のアイテムを示す場所まで来たのだ。


「……盾だなぁ。多分」

「盾だねぇ……。多分」


 トゲトゲ棘ッ!! 

 相手に突き刺さりまくりそうな棘が、表面についている強力そうなナニカ。

 地面に転がっているソレは、多分盾だった。

 いや、盾だよね? 盾とは……?? 二人は首を傾げる。


 相手の攻撃をこの盾で受けたら、相手の体がズタボロになるんじゃないか? と思うほどの攻撃に全振りしている謎の盾がドロップした。

『トゲトゲシールド』とでも言うべきか? いや、シールドを名乗らせていいのかわからないアイテムだった。


「……換金するかい、少年?」

「盾は、間に合ってるしなぁ。はぁ……」

「少年、しょうがないよ」


 成長した『鏡面の盾』を見て、テフラは嘆息した。

 できることなら不思議な杖や不思議な本などの、攻略に役立てそうなアイテムがドロップしてくれるのが望ましいのだが、欲しい時に出てきてくれない。ほんの少しだけ、店主に『稲妻ワンド』と『吹き飛ばしワンド』を売ってしまったことを後悔してきてしまう。

 いや、あれは必要経費だったから……、とテフラは首を横に振った。嘆いたところで、過去の行動は変わらないのだ。


「仕方ないけどよぉ……。敵も全然アイテムを落としてくれないからなぁ」

「そうだねぇ。……でも歴代の子たちもこんな感じだったよ! 次に行こう次!」

「だな。地図上にはまだ宝の位置が示されているし、こいつはさっさと換金するぜ!」


 棘だらけの『トゲトゲシールド』を、怪我しないように『換金の鞄』の中に入れていく。

 すると『帰還の洋燈』と同じように……いや、それより遥かに大量のdcが鞄の中に溢れていく。

 恐らくあのダンジョンショップで目にした『手錠の腕輪』を売った時の金額と同じくらいの量にも見える。

 そこで、ハピネスが首を傾げた。


「少年、これ持てるのかい? 重くないのかい?」

「ん? おう、なんかよくわからねぇけど重さは変わらないな」


 鞄が重たくなりそうなものだが、なぜか最初と重さが変わった様子はない。

 そして、テフラはふと思いついた。


「もしかしてさ、この鞄を持って帰れば無限にdcが手に入るんじゃ……!」

「うーん、そんなにうまい話はないと思うけど……。でも、戦闘の時に毎回地面に置いて、また拾いに行ってるから結構邪魔だよこれ。少年、急な戦闘の時に邪魔になるんじゃないかい? 何なら、咄嗟に少年が投げて全部失う未来まで想像できてしまうけど」

「……」


 ハピネス、テフラの性格をよく見ていた。

 言われたテフラも、急に敵に襲われたら中身の詰まった『換金の鞄』を敵に投げて、反撃すると納得してしまう。その場合は『換金の鞄』は、投擲物扱いでダンジョンに攫われていってしまうだろう。


 しょんぼりとした顔で、テフラはハピネスに言葉を返す。


「やっぱ、この階層を降りる時に壊すぜ……」

「それが多分正解だね、少年」


 よしよし。

 ハピネスは落ち込むテフラのほっぺたを、翼で優しく撫でるのだった。



 ◇



 ダンジョンを攻略する二人の様子を『王様』が見ていた。

 これで捕らえられると思ったのに、ことごとく覆される。


 激情に支配されそうな『王様』だったが、冷めた目で客席から劇場を見下ろす。


 見ていたのは青年の手にある紙切れ。

 至極大事に持ち歩く、薄汚い羊皮紙。


 思考の海に沈んでいく。


 ギリギリと歯噛みしながら、『魔法の地図』を睨みつけるのだった。


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