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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
33/66

生贄ダンジョン麓1

生贄ダンジョン麓5F

同一ダンジョンなので、後ろが境界から麓に変わりましたが、階層自体は境界4Fから麓5Fへと変わります。


 湿る手で手斧を握りながら、テフラは降り立った階層で武器を構える。

 周囲の壁と床は一つ上では青混じりの岩場だったのが、完全に茶と灰の岩場テクスチャへと姿を変貌させていた。

 狭い通路を進む先は、『魔法の地図』にあった赤い光点の一つある場所。

 要するに、今まで出来るだけ避けていたモンスターがいるところだ。

 なぜそんなことをしようとしているかというと、前の階層で会った『ダンジョンショップ』の店主から聞いた言葉が原因だ。


 それを知らないテフラのマフラーの中に潜り込んだハピネスが、テフラに質問をする。


「少年、本当にやるのかい? 今まで通り敵はなるべく避けるべきなんじゃ……」

「いや、どうやら敵を倒すことで強くなれるかもしれないってあの店主が教えてくれたからさ。できるだけのことはやろうと思う」


 テフラは自分が身につけた手斧『マスターキー』と『鏡面の盾』を見つめて、前の階層のことを思い出しながら説明を始めた。



 ◇



 ハピネスが、まだ気を失っている時の事だ。


「お客さぁん、その装備ってどうされたんですぅ?」

「へ? ええっと、こっちの斧は親父と鑑定屋の爺さんからの餞別で、こっちの盾は……一つ前の階層でドロップしたのを拾いました」


 ()()()()()()()、『手錠の腕輪』で手に入れたお金がすっからかんになった時、糸目バニーガール店主がテフラに声をかけてくる。

 それは、テフラの背中の手斧と左腕についた盾についての話。


「……ちなみにそれらをお売りになられたりしませんかぁ? うふふ、大変良い値段がつきますよぉ?」


 具体的には、このくらい! とテーブルの上に先ほどとは比べ物にならない量のdcがジャラジャラジャラと黄金の山を作って、崩れて床までこぼれていく。

 テフラはその光景に理解がついて行かず、そのままピシリと石像のように固まった。

 そんなテフラに対して、テーブル越しに胸部の谷間を見せつけながら糸目バニーガールが囁く。


「いろいろ聞きたい事ありますよねぇ。ナ・ン・デ・モ、聞けちゃいますよぉ?」

「なんでも……!?」

「うふふ」


 ボンッと真っ赤に顔を染めてテフラは仰け反った。

 そしていやいや! と首を横に振ってすぐに断る。


「これがないとこの先死ぬってば!」

「……色つけてあげますよぉ? 先ほどご覧になっていた武器買えちゃいますよぉ?」

「すいません、本当にダメです。斧も、盾も、大事なんです」

「でもでもぉ、欲しくないですかぁ? 買えちゃいますよぉ」

「売れません。大事な物なんです」


 キッパリ。

 前のめりになって誘惑をする店主と、しっかり糸目に目線を合わせてテフラは断る。目線を合わせないと胸のほうにいきそうだとかそういうわけでは……ない! 


 しばらく二人が見つめあっていると、店主がため息をついて対面に座り直した。

 スゥッとテーブルに乗るどころか地面まで溢れたdcが空気に溶けるように消えていく。

 拗ねるように店主が呟く。


「お客さんのその装備欲しかったなぁ。絶対高く売れるのになぁー」

「……あの、確かに使いやすいですけどそんなに良いものなんですか?」

「良いもの? 良いものですよぉ! その武器と盾、『成長装備』じゃないですかぁ! 片方は祝福もらってるし、片方は成長してるしぃ!」


『成長装備』? テフラは首を傾げた。

 そのテフラの様子に店主が小さな声で猫に小判やら豚に真珠など呟いて、がっくり項垂れた。


「お客さぁん、武器が泣きますよぉ? その斧、一段階成長してるじゃないですかぁ」

「???」

「……お気づきになっていなかったので?」


 背中から斧を取り出して、まじまじとテフラは見つめた。

 握り心地は特に変わっていないが、確かに斧刃部分が太く鋭くなっているような……。といった具合の鈍感さを店主に見せつける。


「…………そのぉ、あまりにもその武器が可哀想なんで説明をさせてください」

「お金、かからないなら……。その、お金ないんで」


 テフラ、現在一文なしの素寒貧である。

 受け取ったウサちゃんガマグチがひもじくて泣いているように見えた。少し早まったかなぁと糸目バニーガールはうさ耳をヘニョらせる。


「この先進むにあたって重要だと思いますよ? さっきの話の『王様』をぶっ飛ばしたいんですよねぇ?」

「はい!」

「ウゥン、返事は良い! けどお金なぁーい!」

「ぐぬぬ……。お金が欲しい……」


 唸るテフラはまだ回数が余っていた『稲妻ワンド』と『吹き飛ばしワンド』を取り出して、机の上に差し出して売りますと告げた。悲しいかな、現在はそれくらいしか手放せるものがなかった。

 店主はそれにニコニコと応じる。

 ほんのちょびっとだけ、テフラの目の前にdcが出てきた。雀の涙といった具合だ。

 テフラはすぐさまそれを店主の前に滑らせ、これで話せそうな分だけ話してくださいと告げた。


 貰ったなけなしのdcを手のひらで弄びながら、店主は話を始める。

 じゃら、と少ないdcの山を崩して、別な山を作り始めた。その新たなdcの山が徐々に形を変えて、黄金の砂時計が出来上がる。


「それではぁ、──」


 店主が言葉を話すたびに、黄金の砂時計の砂が下に降っていく。

 これは、先ほどテフラが別な話を聞いた時もやっていた事。砂時計の砂の分だけ、テフラは話を聞けるという視覚的にわかりやすくするものだ。


「──まず『成長装備』は、敵を倒すと成長していきますぅ。成長は装備それぞれで、武器なら鋭く大きく、盾なら固く不思議な護りを与えてくれるようになったりですかねぇ」


 不思議な護り? とも思うが、下手に質問して砂が目減りしても困る。テフラは聞きたくなる口を頑張って閉じた。


「弱い敵とずっと戦っていても、武器は成長しませぇん。うふふ、お客さんも何か強い敵と戦った覚えはありませんかぁ?」

「……『パローレミングス』」

「うふふ、おっきいネズミさん一家ですねぇ。あのくらいのレベルを倒すとぉ、一気に成長が進みまぁす」


 テフラは手斧を見る。確かにあの大量の敵をこの斧で倒したんだと思い出した。あの時はまだ、斧の刃が少し小さかったような覚えがある。

 糸目バニーガール店主はテフラの様子を見ながら、言葉を続ける。


「幸いなことに、このダンジョンは強敵に事欠きませんー。だから、なるべく敵と戦って武器を成長させるのも良いかもしれないですねぇ」

「モンスターが『成長』するようなものなのかな?」

「うふふ。その辺とは原理がまた違うのですが、今話すと砂が落ちきっちゃいますからやめときますねぇ」


 黄金の砂時計の砂がどんどん落ちていく。

 早い気もするが、今回渡したdcは少額なので仕方ないだろう。


 目の前の店主が無言になって、ニコニコと笑みを浮かべている。

 砂時計も、ぴたりと動きを止めた。


 あと、ほんの少しだけ砂が残っている。


 テフラからの質問を待っているのだろう。

 その質問に答えれば、おそらくこの砂時計は役目を終える。

 テフラは慎重に質問を考える。

 先ほど気になった不思議な護りや、どのくらい敵を倒せば成長するか? など喉から出そうになる。

 けれど、多分今聞くべきはそれじゃない。


 横で、すやすやと眠っている鳥のお姫様に目を向ける。

 テフラは目を瞑って静かになる。そして、決まったのか大きく頷いて目を開いた。


 きらり、強い意志が青年の瞳に輝く。『店主』はそれを薄目を開けて、心底楽しそうに応じた。


「武器を成長させれば『王様』ぶっ飛ばせる?」

「ええ、いつかは」


 さらり、砂時計の砂が全て落ち切った。

 それを見届けると不敵な笑顔を浮かべたテフラは椅子から立ち上がり、眠ったハピネスを胸に抱える。

 店主に礼を言って店の出口に向かうのだった。



 ◇



『王様』等の、ハピネスが複雑な思いを抱いているだろう部分を避けて、テフラは言葉を紡ぐ。

 きっと『店主』に最初に質問したことを話すのは、ハピネスの方から打ち明けてきた時になるだろうなと胸に秘める。次の『休憩階層』があれば、そこで腰を据えて話をしたいものだ。


「とりあえず、今の手持ちで強くなれるなら強くなるべきだと思うんだ」

「うぅむ、少年のいうこともわかるんだが……。敵が悪辣すぎないかい?」

「そのくらいの方が『成長装備』は育つんだと思う。あの店主も、このダンジョンは強敵に事欠かないっていってたし、つまり目の前の敵を全部ぶっ飛ばしていけば装備が成長するって寸法よ!」

「うぅん、脳筋。圧倒的脳筋だよ少年」


 ドヤ顔でのたまうテフラに、ハピネスがマフラーの中で頭を抱えた。

 だが、とハピネスが頭が痛そうにしながらも言葉を続ける。


「だが、少年のいうことも一理あるね。『八本脚』というボスが控えていることは分かっているんだ。敵と戦えば強くなれるなら、強くしておくべきかもしれない」

「だろ? って痛い!?」


 スコン! ドヤ顔テフラのマフラーから頭を出して、その頬を突く。

 そのハピネスの表情は真剣そのものだった。


「けれど、少年が調子に乗ったり状況が危なくなった時は、すぐに私から撤退やアイテムの使用の指示を出すからね? その時に勿体無いや、戸惑ったりは決してしないでほしい」

「……おう! 信頼してるぜ、ハピネス!」


 ぽん、とマフラーごと優しくハピネスを叩いて、テフラは当初の予定通り『魔法の地図』の赤い光点のある場所。

 敵のいる小部屋へと向かっていく。


 そして。

 その部屋にいた赤い光点は。


「……物語の魔法使いみたいなやつだな」

「それも悪役だね……」


 そっと狭い通路から覗き込んだ小部屋。

 そこにいたモンスターの姿は襤褸ローブを被り身長ほどの杖を持った姿をしていた。

 襤褸ローブの隙間から見える顔は青肌で鷲鼻。目元まで深くローブを被っているので、その部分しかわからない。

 ただ、はっきりと言えるのは。


「……少年、敵が『不思議な杖』を使ってくる可能性は考慮しているかな? ねぇ少年?」

「そんな奴もいるんだなぁ! いやぁ、知らなかったぜ!」

「少年、本当にいけるかい? ねぇもう逃げた方がいい気がしてるんだけど少年!」

「『稲妻ワンド』じゃないことを祈ろう。あれは痛そうだったし」

「少年!? 食らう前提かい少年!?」


 テフラの解答に衝撃を受けたハピネスが、頬に翼を当てて小声で叫んだ。


 そんなテフラも顔を顰めて、二つ前の階層でのスラット稲妻処理を思い出す。

 思い出すのはスラットの群れが不思議な杖の稲妻に焼かれていた姿。

 あれは痛いだろうなと、二回目の光を飛び跳ねるようにして避けていた姿を…………。


 テフラは思い出した。


「ハピネス。俺に、いい考えがある!」

「……本当だろうね少年」


 そう告げるテフラはハピネスに自信満々な笑みを向ける。

 どうしてだろう、ハピネスはとても不安になってマフラーに強く包まるのだった。


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