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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
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生贄ダンジョン境界6

生贄ダンジョン境界4F


 アレを捕まえなければ。

 アレは特別なのだ。

 アレは私の物だ。 


 あんな粗野で野蛮で考えなしに奪われてたまるものか!! 


 中に青い炎を灯し、形を取り戻した鳥籠をダンジョンの中に沈めていく。それは鳥籠という存在から、徐々に徐々にモンスターへと変貌していった。


 薄らと底冷えする笑みを浮かべて、客席からダンジョンを行く二人を見下ろして。

 青い紋章がうっすらと輝いた。



 ◇



 悪寒も特に感じることなく能天気なテフラはワクワクと階層を下る。

 その途中、床や壁が青を基調としていたダンジョンが姿を変えてゆく。

 青が混じってはいるが、まるで岩肌を見せつけるようなテクスチャ。


 階段を降りながらテフラは変わってきた壁を一撫でして、頭の上にいるハピネスに声をかける。


「なんだかゴツゴツしてきたな。岩場とかそんな感じだ」

「そうだね少年。もしかしたら敵の傾向が変わってくるかもしれない、注意するんだよ?」

「分かってるって! でも大丈夫、みろよこの盾!」


 脇に挟んだ盾を取り出し、顔の前に掲げる。

 きらりと輝く丸い盾。それは表面がまるで鏡のように美しく磨かれており、外周に不思議な紋様の言葉が一周刻まれていた。


「階段降り終わったら早速つけなきゃなー! 楽しみだぜ!」

「……あの腕輪みたいなものじゃないのを祈るよ。少年の戦い方は盾がないと始まらないものなぁ」

「うっ、そうだけどよ……。でもなんか嫌な雰囲気は全然しないんだぜ?」

「ふーむ? どれどれ……、ってこの青い鳥が私か」


 そうなのかい? ハピネスがテフラの肩に降りてきて、一緒に盾を眺める。そして目を驚いたように見開き、ちょいちょいと尾羽をふりふりして自分の姿を確かめ始めた。むむむ、とどことなくポーズをつけているようにも見える。

 どうやら、鏡で自分を見るのが初めてのようだ。

 まぁ鳥のお姫様だし、鏡を見たことがなかったんだろうなぁ、とテフラは思い込んで、よく見えるように鏡面の盾を掲げてあげる。


 その時、鏡面の鏡に刻まれた紋様が僅かに光った。

 テフラが横目に鏡を見ると、知らない人影がすっと浮かび────!? 


「──誰だ!?」

「きゃ、少年、どうしたんだい!? 何か居たのかい!」


 テフラは咄嗟に鏡面の盾を左腕に差し込み、右手で斧を素早く引き抜き構えて後ろを振り返った! 

 鏡に見たこともない女性が映った気がしたのだ。

 だが、後ろに続くのは先ほどから降りている階段のみ。

 ハピネスが慌てた様子でマフラーの中に潜り込んでくる。彼女もそこからキョロキョロと周囲を伺う。


 テフラは無言で構えたまま、気配を窺うが自身とハピネス以外の存在は感じられない。

 何も感じないことで、怪訝そうな表情でテフラは周囲を見回す。


「少年」

「しっ、今誰かいた気がするんだ」

「いや、少年。その…………その盾、装備してよかったのかい?」

「へ?」


 左腕を見るテフラ。

 思いっきり裏についている革のベルトに腕を通して、鏡面の盾を装備していた。無意識の早業であった。


「…………」

「……少年、ここ階段だよ?」


 ハピネスとテフラは顔を青ざめさせて、ゆっくりと今降りてきた階段の方を振り返った。


 ゴゴゴゴゴ……! 

 今まさに降りてきた階段の方から、激しい地鳴りが聞こえる。

 それは、まるでルールを破ったものに対するダンジョンの怒りの音。


 二人は両手を頬に当てて、叫び声を上げて飛び上がった。

 ハピネスからぎゃっぎゃっぎゃー! と鳥としての悲鳴まで上がってしまう。


「「ほわぁああああッ!?」」


 ダンジョンの階段で、降りる以外の行動をしてはいけない。

 そのルールを完全に忘れていたのだ。

 マフラーの中で、ハピネスがテフラの首に抱きつく。どうせこのあとものすごい勢いで逃げるのがもう分かっているからだ。涙目になりながらスコココ! と嘴でテフラをつつくことも忘れない。


「少年ドジ! ドジぃっ!」

「うるせぇちょっと失敗することが多いだけだ! でも、ごめんってぇー!!」


 もはや人影どころではない。

 テフラは慌てて階段を駆け出した! 

 後ろから、どんどん階段の天井が崩落……いや、違う! 

 何かが転がってくる! それも特大のでっかい奴! 


「少年、なんかおっきいのが転がって来てるんですけどぉ! いや早く逃げてほんとお願い少年少年、しょうねぇーんッ!!」

「分かってるってぇ!!」


 脱兎!! 

 ぎゃあああ! と叫び声を上げながら二人は逃げ出す。

 階段をゴゴゴゴ! とぶつかりながら巨大な岩の塊が転がり落ちてくるのが見えた。

 あんなのに当たったらひとたまりもない! テフラは息を切らしながら、次の階層へと飛び込み! 


 敵!


「うぉお!? 新モンスターか!?」


 降り立ったその瞬間、その二人の目の前に大きな鳥籠のモンスターが大きな腕を伸ばしてくる! 

 なんか見覚えがある鳥籠な気がするけど、テフラとハピネスはそれどころではない! 

 なぜなら。


「きゃあああ、少年止まるな後ろ来てる来てる!!」

「回避ィッ!」


 シュババッ! テフラとハピネスはすぐに近くの壁に張り付いて進路をずらす。

 普段であれば次の階層に降り立った瞬間消える階段が、あるモノを吐き出すまで消えてくれなかったのだ。


 ドゴォ! 大きな鳥籠のモンスターは、階段から飛び出してきた巨大な大岩の下敷きになって視界から消える。

 その後、ゆっくりと空気に溶けるように階段が消えていくのだった。


「へへへ、危ないところだったぜ!」

「格好つけてるところ悪いけど少年、本当に気をつけてくれたまえ……」

「……おう」


 額の汗を拭うテフラ。

 そんなやりきった様子のテフラに、げっそりとした表情のハピネスがツッコミを入れるのだった。


 周囲を確認する。

 どうやらモンスターは今の一体だけだった様子。

 大岩に轢かれたモンスターはそのままダンジョンに食われて、しかも何もアイテムも落とさなかったようだ。


 なので特に印象に残らなかった様子で、テフラとハピネスは『魔法の地図』を開く。

 どうやら周囲にも敵はいないようだ。落ち着いて呼吸を整えることができる。


「ところで少年?」

「なんだハピネス」


 そんな最中、ハピネスが質問。


「階段で見た人影というのはどんな奴だったんだい? もしも会ったら文句を言ってやらないと気が済まないよ!」


 イキリ立つハピネスがぴょんぴょんとテフラの肩の上で跳ねて、不服そうに告げた。なんだかんだで、ハピネスは鏡に映った人影というものを信じていた。テフラが危機的な状況で、その野生児じみた直感と脳筋具合を生かして突破したのを上の階層で存分に味わったからだ。


「そうだなぁ。と言っても俺も一瞬しか見てないんだけど……」


 テフラは鏡に映った一瞬だけの人影を、顎に手を当てて思い出す。

 そして黙った。

 少し頬が赤く染まる。


「? どうした少年?」

「へ? あ、いや、なんでもない。へへ、俺も暗くてよくわかんなかったぜ! もしかしたら見間違いだったかもな」

「……少年、本当に気をつけたまえよ? いや、それでも少年を信じるんだけどね私は」

「お、おう。悪い悪い」


 テフラは灰色の髪を掻いて、見間違いと告げた。じっとり胡乱げな目でハピネスがバタバタと翼を揺らしながら注意。流石に、見間違い行為で大岩に轢かれて死ぬのは勘弁願いたい、そう視線が語っている。


 再びごまかすように返事をしながら頭を掻いて、顔を赤らめたテフラは地図を覗き込んだ。


 思わず一目惚れしてしまいそうな美人が映っていたと説明するのは、鳥といえども女性のハピネスに、なんとも言いづらかった純情テフラなのだった。



 ◇



 今までのダンジョンは壁と床が、美しく滑らかな青の材質で出来上がっていた。

 だが、今回降り立った場所は、先ほど階段から転がってきたようなゴツゴツとした岩でできた壁。そして、軽く砂をかかった硬い岩の床。


 テフラは足を慣らすように、その場でいつもやっている構えを何度か繰り返す。

 そして、盾をひと撫で。


 つるりとした感覚が、手のひらに伝わってきて今まで使っていた木盾とは違う感覚だ。

 邪魔にならないように地面に降りていたハピネスがその様子を、心配そうに見守っていた。


「どうだい少年、その盾は」

「うーん、まぁ使って見ないことにはわからねぇけど、ほれ」


 すっ、と左腕から鏡面盾を取り外した。

 どうやら、呪われていたりはしない様子。

 それにどちらかというと。


 もう一度、外した鏡面の盾を左手に装着する。そして、手のひらをぐっぐっと拳を作ったり開いたりしてテフラは神妙に頷いて呟いた。


「やっぱり、つけると具合がいいな。なんだか、尾根の神様に見守ってもらってるような……」

「尾根の神に?」

「いや、尾根の神様というか。……神様に? いや、よくわからないんだけどそういう感じなんだよ」


 この盾を見るのが初めてだったテフラ。

 だが、この盾が神聖に思えてならないのだ。

 最初に拾った時も、今まで感じたことがないくらいビビッと来たのだ。

 ずっと見ていたくなるような、自分を守ってくれるんじゃないか? という不思議な感覚。

 そのテフラの様子に、ハピネスが思いついたように翼をふりふり振るった。


「少年! それってもしかして祝福されたアイテムってやつなのかもしれないね!」

「祝福? ……それって眉唾物だろ? ()()()()()()()()()()()()()()?」


 テフラは首を傾げて、ハピネスの言葉を否定した。

 ダンジョンで稀に見つかるという噂がある、祝福されたアイテム。


 だがテフラが生まれ育った、ニシキの村周辺のダンジョンでは決してドロップしたりすることがなかったのだ。なので、テフラはその存在を聞いたことはあったが、おとぎ話の代物だと思っていた。

 ハピネスがチッチッチと小さな口で鳴き、得意げに説明をする。


「少年、祝福アイテムは存在するよ。そもそもダンジョンとは神々の娯楽劇場だ。私の知っている知識だと、神様が特に気に入ったシーンを見た後に敵に落とさせるんだ!」

「へぇ。じゃああのスラットが一斉にジャンプするのは壮観だったってことか!」

「それだけじゃないよ少年。少年が、生き残ったからその祝福を受け取ってるのさ。もっと、良いところを見せてってね!」


 そこまで説明を受けて、テフラはキラキラした目で盾を見つめ天井に左手を掲げるのだった。

 その様子を微笑ましくハピネスは見守り……首を傾げた。

 テフラに届かない小声で呟き思案。


「……いや、待て。でもアイツがそんなことをするか……? じゃあ、少年を見てる神様って……?」


 今このダンジョンを尾根の神は覗けない。

 その客席に座っている『栄光を忘れられない馬鹿』がいるのだから。

 であれば。


 青年が天井に掲げてキラキラと光を反射する盾は一体誰から送られた物なのだろうか? 


 でもまぁ、使えるものは使うべきか! 考えてもわからないと思考を打ち切るハピネス。

 嬉しそうに盾を見つめる青年を見つめて、自身も嬉しくなってぴょこぴょことその周りを飛び跳ねるのだった。



 ◇



 ハピネスは知らない。

 テフラがとあるダンジョンで逃走劇を繰り広げたことを。


 自分より小さい者を決して見捨てなかった愛を。

 知恵を搾り、持っている大切な物で時間を稼ごうとした努力を。

 そして最後に、決して絶望せず諦めない勇気の笑いを見せたことを。


 ────誰もがいなくなった劇場で、一柱の神が拍手を送ったことを知らない。


 そして今回も好き勝手やっている()が歯軋りしている様を想像して、その成果を作り上げる愉快な少年についついチップを贈ってしまった。


 それこそが、テフラとハピネスの知らない祝福の顛末である。


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