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テフラdeダンジョン  作者: 唯のかえる
『幸せを忘れた青い鳥』
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生贄ダンジョン境界2

生贄ダンジョン境界2F


 ダンジョンの階段を左腕を押さえながら降りていく。

 流石にミミックの口に手を突っ込んだのは無茶だったか、魔除けのカーディガンの下は噛まれた痕の青あざが出来上がっている。


 階段の中でも丸薬や処置をしたいところだが、ダンジョンの階段の中で進む以外のことをすると階段がまるで崩れるように後ろから迫ってくるという話だ。テフラは脂汗を滲ませながら黙々と進んだ。


 次の階層が見えてくる。

 今の状態で盾をうまく使える自信は無い。

 どうか敵がいないことを祈りながら降りる他ない。


 そろりそろり。

 手斧を滑る手で握りしめながら、階段から周囲を見回し階層に降りる。

 そこは大きく広がった部屋だった。どうやら現在地はその部屋の一番端っこの場所らしい。

 階段から降りて、テフラの眼前は真っ直ぐの大部屋になっている。敵影は見えない。

 背後で空気に溶けるように階段が薄れて消えていくのを尻目に、テフラは急いで腰につけた薬の入った鞄から緑色の苦い丸薬を取り出して嚥下。口の中に嫌な苦味が残り、涎が止まらなくなる。


「うげぇ……まず……。でもこれで一安心だ」


 しばらくすれば、どんどん体のだるさが取れていくはず。

 その間に、包帯と塗り薬も取って先ほどから痛む部分に塗り込んでいく。かつてイッサがラカブに塗ってもらっていたあの薬だ。

 歯で包帯の先を引き絞りながらそそくさと処置を終える。

 軽く左腕を振って感覚を確かめ、木盾の状態も確認。

 木盾はミミックの口に突っ込んだせいか、だいぶ傷んでしまった様子。修理しようにも素材も工具もありはしない。

 自身の生命線であるだけに、テフラの頬が引き攣った。


「一階層でこれか……。ううん、弱気になるな俺」


 首を横に振って頬を数回叩く。

 そして無理やり笑顔を浮かべて、降り立った部屋の中を注意深く観察するのだった。



 ◇



「変だな」


『魔法の地図』を開くテフラは首を傾げた。

 今の入った大部屋に通路がないのだ。

 敵情報や宝情報を聞いても地図上に記されず、他に部屋があるとは思えない。

 地図から顔を上げて、だだっ広い部屋を見てみると一番奥に階段まで見える。

 距離はあるが真っ直ぐ行けば、問題なく階段にたどり着けそうだ。

 先ほどの一回と比べて簡単すぎる階層。 


 階段までの道のりで一つだけぽつんと宝箱があったりするが、前の階層での出来事が思い出される。


「……あれはミミックだろうなぁ」


 げっそりとした顔でテフラは呟いた。

 ううんと悩んだテフラだったが、進む以外に方法はない。

 だだっ広いだけで敵のいない部屋、ミミックに気を取られながらも一歩足を踏み出そうとして──。


 ──ピタリ、止めた。


 途方もなく嫌な予感がしたのだ。テフラの頭の中で今まで感じたことがないくらい嫌な予感、虫の知らせが鳴っている。

 体勢を元に戻す。もう一度テフラは『魔法の地図』を取り出して、覗き込む。熟考しながら敵がいないことを確認。


 何故いない? 

 ダンジョン内では決して敵がいなくなることなんてないとテフラは村で学んだことを思い出す。


 ダンジョンでまだ何か自分がやるべき事を忘れていることがある気がして、その場で必死で思い出す。しばらくその場で考え込んで、この間の教導でダンジョンに入った時にラカブが言っていたことを思い出した。


『お前は森番の倅だろう。お前がダンジョンに設置されている不思議な罠を見つけなくてどうすんだ』


 テフラはじっと今まさに踏み出そうとした地面をじっくりと上から見つめる。分からない。

 だがその分からないということが、非常に不気味に感じられた。

 その場に寝そべる。

 顔を限界まで近づけ、地面を深く観察。

 ふぅー、と青く美しいダンジョンの床に息を吹きかける。本来ないはずの土煙が舞って、隠れていたものが見えてくる。


「……」


 目を強く細め、優しい手つきで、目の前の床を丁寧になぞる。

 すると。


「なんだこれ、呼び鈴か?」


 今まさに足を踏み出そうとした床に、まるで呼び鈴のような不思議な紋様が描かれていることに気がついた。テフラはリーブやマクキタラに聞いたことのある罠を一つ思い出す。

 それは踏んだ時周囲にモンスターを生み出す『魔物召喚の罠』だった。


「おいおいおい……、まさか!?」


 ポタリと、汗が地面に落ちる。テフラの頭の中で鳴っていた嫌な予感はまだまだ強く鳴り響いていた。

 その呼び鈴マークの横の床をさらに息を吹きかけ、汚れを拭いとる。

 矢のマークが書かれていた。これはこの床を踏むと、どこからともなく矢が飛んでくるダンジョンの不思議な罠。


「…………は?」


 呆けた声を上げたテフラは決して踏み出さず、自分の周りの床を全て同じように暴いていく。

 呼び鈴、矢、呼び鈴、呼び鈴、呼び鈴。

 一箇所を覗いて、全て呼び鈴マーク。


 ガバっ! と顔を上げて、階段までの距離を見た。

 敵はいなかったが、階段までは随分と遠かった。


 辿り着くまで、この床全てがダンジョンの不思議な罠ということか? 


 くらり、テフラの頭が真っ白になり、その場に座り込む。

 わずかに呆然として……強く頬を再び叩いた。


「……攻略するんだ」 


 そうだ、約束したじゃないか。ここで座っていても『掃除人』がやってくるだけだ。

 床を暴く時間もある、先に進むべきだ。


 考えろ。考えろ。

 大丈夫だ。何か手があるはずだ。


「思い切って走り切る?」


 だめだ、目の前に敵が召喚されて道が塞がれたら避けようがない。

 やはり、矢のマークの部分を辿っていくしかないか? 


 困ったように自分の腰に両手を当て……へへッ、と笑った。

 取り出すのは、腰に手を当てたときに指に触れた一本の杖。


「……へへへ、大活躍だなお前」


『場所替えワンド』を後生大事に胸元に抱き締めると、大部屋の奥にある宝箱。

 おそらくミミックに、目線を向ける。

 仮にあれがただの宝箱であっても、自分と場所を変えることくらい可能のはずだ。


 ……問題は。


「見通しがいいとはいえもう少し近づくか、角度が良くないと当たりそうにないってことか」


 震える足を持ち上げ、前に進むべくテフラは矢のマークの床に踏み込んだ! 


 カチッ! 


 ビィン! どこからともなく弓鳴りがする! 

 運よく盾で守れないかと姿勢を低くして盾を構えるが、背中に鋭い痛み。


「くそっ」


 体が少しだるくなる。

 だが、前の階層で絶体絶命の危機を迎えた時より遥かにマシな体調だった。


「……よっしゃぁ! 次はどこだ!」


 空元気に気合を入れて、額に汗をかいたテフラはその場にしゃがみ込んで、再び地面を暴いていく。

 そして、しばらく時間はかかったが真っ直ぐ宝箱と重なる位置へとたどり着いた。


 テフラは再び鞄から緑色の丸薬を取り出す。矢で失った体力を回復するためだ。

 在庫はまだあるとはいえ、こんなペースで使ってしまってはすぐになくなってしまいそう、と心に不安が出てくる。

 だが、使わずにダンジョンに食われるより遥かにマシだ。

 テフラは勿体無いと思う心に蓋をして、苦味えぐみを我慢して口に含む。流石に連続して飲むと吐き気を催しそうになるが、かつてサキにやったように自分の口を手で押さえて必死で嚥下する。


 飲み終えると、涙目のテフラは大きく呼吸を繰り返して精神を整えた。


「いくぜ!」


『場所替えの杖』を大袈裟に掲げ、えいや! と振る。

 杖からでた光が、宝箱に当たり──。


 テフラの視界が切り替わる。

 場所替え成功だ! 


 よし! と頷こうとした時。


 カチッ。

 リィぃん!! 


 足元で音がした。

 ゾッと肌が粟立ち。

 ゆらり、自身の四方八方に周囲に気配が立ち込める。


 テフラは頭を真っ白にして、なりふり構わず駆け出した!! 

 宝箱の下にも『魔物召喚の罠』があったのだ! 


 カチカチカチカチッ!! 

 踏み出すたびに足元から罠を踏む音と鳴り響く呼び鈴の音。

 周囲からモンスターの鳴き声や激しい足音が暴れ出す! 


 踏み出すたびに、何かを踏み込む感覚。

 ──そして、階段が目の前に。


 リィぃん! 


 ぱっ! と目の前に今まで散々倒してきたファットラットが現れる。


 ひゅっとテフラが息を呑んだ。

 ニヤリといやらしくファットラットが笑った。

 そうだ、こいつもモンスターなんだ。

 テフラの頭の中に忘れそうになっていた事柄を強制的に刻みつけられる。


 ファットラットは横からの蹴りで、簡単に転がせるくらいに弱い。

 だが、その体はとても大きかった。

 現状では絶望的に邪魔な壁になる。

 飛び越そうにも急に目の前に湧いてきたので、テフラはぶつかりそうになる! 


 背後では沸いた弓猿人たちやスラット、そして先ほど入れ替わった宝箱のミミックが襲いかかってきている。


 止まれない。

 止まったら先ほどより確実な死を迎える。


 咄嗟に何かを握ったままだった手を振った。

 手に握っていたのは先ほど使った杖。

 『場所替えワンド』が、光を放つ。

 小さくなってきた宝石にびきりとヒビが入って砕ける。

 これでもうこの杖は効果を失った。


 ファットラットに場所替えの光が当たり、テフラの視界が開ける。

 足を止めずに跳んだ! 

 そこはもう階段だった! 


「俺は、生きてるぞぉー!!!!」


 叫ぶ! 

 テフラは勝利宣言をしながら、拳を上に振り上げて階段の中へと飛び込んだ。


 その背後では大量のモンスターが殺到し、見えない壁に阻まれる轟音が鳴り響くのであった。



 ◇



 降りた階段の先は書庫だった。

 森の泉にあった神殿の材質で壁と天井が出来た書庫。

 不思議と明るく、神聖さを感じさせる場所。


 『休憩階層』と呼ばれるダンジョンの一部。


 そしてそこでテフラは、鳥籠に入った一羽の青い小鳥と出会う。


「少年少年少年、しょうねぇーん!! おぉーい、私をここから出してくれたまえ! 大丈夫かーい? ダンジョンが以前より悪辣になっていただろう? アイツって本当に悪いやつなんだからって少年はそんなこと知らないか! とにかくよく来た少年! まぁなんでもいいさ、ここから早く出してくれたまえ! さぁさぁさぁさぁ!」

「ほわぁああああっ、喋ったァー!?」


 とてもお喋りな青い小鳥と出会うのだった。


ブクマいいね評価等よろしくお願いします!

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