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ワタシの新たな未来がスタートした。
輝かしいキャンパス・ライフ。友達も沢山出来たし、一応カレシと呼べる対象もいたりする。講義も変わらず未知の言葉にワクワクするし、余暇にはボランティア活動やアルバイトなんかもした。
いつになく充実した学生生活。なのにワタシの中の片隅には、いつもポッカリ小さな空間が存在した。何もない、まるで真空のようなガランドウのスペース──今まで其処だけが埋まっていた筈の……ハクアくんという名の居場所。
ハクアくんの最後の言葉が気になって、ワタシはアパート到着早々電話をした。ラインもした。でも応答はなく、留守電にもならず……そして既読にもならなかった。
一ヶ月後の帰省の際には、いの一番にご自宅を訪ねたけれど、案の定不在だった。図書館で他の司書さんに尋ねると……先月末に退職した、と。行き先は分からないけれど、四年ほど海外に滞在するつもりだと言っていたらしい。
四年──最後の言葉と合致する期間。
今思えばあの小旅行は、この長期滞在の下調べだったのかも知れない。となれば……ハクアくんがあれから一年ワタシに付き合ってくれたのは、もしかしたら自分の計画を延期してくれていたのかも知れない……なんて、連絡もくれないそっけない部分は見ないことにして、良い方向へ考えることで自分の精神状態を維持することに努めた。
それからの大学四年間の日々、ワタシは一生懸命「未来」を生きた。
全く会わずにいたことを後悔させるほどの「イイオンナ」になりたいと思ったからだ。
そしてワタシは自分の目標を……結構完遂出来た、と思う。こればかりは自分では計り切れないけれど。
ちっとも連絡をくれない元カレみたいなハクアくんに、どうして今でもこんなにも拘るのか──原因も理由も分からないけれど──その想いは何故だか消え去ることはなかった。
見返してやりたいと、悔し紛れに思った訳でもない。とても不思議だけれど、とにかく一瞬一瞬を精一杯生きようと思わせてくれる良い糧になったのは確かだ。だからワタシは感謝こそすれ、ハクアくんに対して恨めしいなんて思ったことはなかった。
そうしてワタシは満たされた大学時代を終え、再び「此処」に戻って来た。
そう……ハクアくんの生家。
四年間誰も居なかったとは思えないほど、今でも隅々まで手入れが行き届いている。
「ハクアくん……いますか?」
気配は感じられないけれど、玄関扉は施錠されていなかった。
ワタシは不審がられないように時々呼びかけながら、家の奥へと進んでいった──。