表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

[4]

 ややあってワタシは()()()()名を告げた。

 (うつむ)きがちにボソボソと(つぶや)くように、飲みきった紙パックを手持ち無沙汰なように折り畳みながら。


「テシガワラ……ホタル、です。ちなみに十七歳、高校二年」

「ホタルさん、ですか。素敵なお名前ですね。やはり漢字は、水辺で輝くあの『蛍』でしょうか?」

「ううん……」


 とそこでワタシは両掌に(あご)を乗せ、渋い顔つきで目を伏せた。

 「こんな会話で始まった自己紹介だもんね、漢字も()かれちゃうよね~」と小さな声でぼやいてみせる。それから「貸して」と言うようにペンを指差し、アナログさんの名の下にその名を書き(つら)ねた。


 『勅使河原 穂垂』──「画数多くてイヤになっちゃう」そう言って深い溜息をついた。


「それに「垂れる」って字が嫌い。こんなの名前に使う文字じゃなくない? 垂れて良いイメージなんてある??」


 指先でペンを回しながら、上目遣いにアナログさんを目に入れる。


「僕はそうは思いませんけどね。穂が垂れて『穂垂』だなんて、きっとご両親は素晴らしいイマジネーションの持ち主であられるかと」

「そうかなぁ?」

「稲に沢山の(もみ)が付いて重みで垂れる(さま)は、まさしく豊穣(ほうじょう)の象徴でしょう? ご両親は貴女に「幸せ」という『みのり』が満ちることを祈られた……そういうことです」

「確かにそうなんだけど……」


 不機嫌そうに口をへの字に曲げたワタシは、アナログさんの言葉の断片を書き出した。

 『稲穂』、『豊じょう』、ここでアナログさんがペンを取り、『豊穣』、『稔り』と書き加える。  


「みのりって「実がなる」の『実』じゃないの?」

「それも確かに実りではありますけどね。そちらは果実が熟した時に使う漢字ですよ。稲穂が収穫の時期を迎える時は、こちらの『稔り』」

「ふーん……あ、でも、こっちの方が文字も(おん)も古風でイイかも! ねっ、『アナログ』さん、これからワタシのこと、『ミノリ』って呼んで!」

「ミノリさん、ですか?」

「うんっ、ちょっと気に入ったー」


 『テシガワラ ホタル 改め ミノリ』──そう書き終えて、元気良くペンをテーブルに置く。口角を上げて顔を正面に戻し、ニッコリとアナログさんに笑ってみせる。


 けれど、まぁ……この出逢いがまさかあんな不思議な未来のはじまりになるなんて……さすがにこの時のワタシは、全く知る(よし)もなかった──。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ