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「では僕から。名前はハクア、です。ナグロ ハクア、ちなみに二十六歳」

「ハ、クア??」


 止まってしまった時を動かしたのは、彼の()き通る声だった。

 が、苗字だけでなく名前の珍しさに、ワタシは今一度時を止める。

 彼は困ったように微笑みを揺らして、隣の椅子に置いていたファイル・ケースから、手帳とペンを取り出した。


「こう書きます……『名黒』、『白亜』」


 広げた白紙のページに、スラスラと黒く達筆な四文字が綴られてゆく。「そう言えば左利きなんだー」とワタシはぼんやり思った。


 カタカナから漢字に変換された文字は、目から脳へ到達する間に、得体の知れないモノから、とても馴染みのある活字の集まりに変わった。


「アナタのご両親って恐竜博士とか?」

「いいえ。白亜紀をご想像なのでしょうが、身近な物でしたら……例えば『チョーク』のことですよ」

「チョーク!?」


 驚きが辺りに反響し、通りすがりのご婦人が怪訝(けげん)そうに振り返った。

 ワタシは慌てて両手で紙パックを持ち上げ、ストローを口に突っ込んだ。


「白亜とは、貝殻などから採れる炭酸カルシウムのことです。白亜が広く分布した時代なので──つまり『白亜紀』」

「ほぇ~」


 説明を聞いている内に飲み干したワタシは、彼の言葉の終わりと同時に感嘆の声を上げた。


「でもどうしてご両親は白亜ってつけたの?」

「さあ。『名は(たい)を表す』と申しますからね。まさに『名』の『黒』い僕に、少しでも「清廉潔『白』」な部分を与えてあげたかったのかも知れませんね?」

「ほぇぇ……」


 お次に飛び出した吐息は、『感嘆』と言うより『脅威』だった。改めて、白地(しろじ)の紙に書かれた黒い文字を見下ろす。不思議な名前。二つの真逆な色を持つ。そしてそれは究極に反対で、(あい)()れない二色だった。


「黒と白を合わせても、灰色にしかならないのにね……」

「え?」

「あ、いいえ。さて……僕は自己紹介しましたよ。そろそろ貴女の名前も教えてください」

「う、うん……」


 寂しげに洩らした言葉を掻き消すように、「アナログさん」は明るい口調で催促をした。

 『名は体を表す』──ならば「ワタシ」の名は何を?




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