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第172話 魔導士の礼

 『煌く星空の指輪』の錬成と交換条件で、メルアが今日からアルフェに魔法を教えてくれることになった。


「よろしくお願いします、メルアさん」

「ア・ル・フェちゃーん、うちのことは『メルア先輩』にしよっか。『さん』だと誰から呼ばれたか、ぱっとわかんないし、『師匠』だとうちの師匠と被っちゃうからさ♪」


 かなり気さくに話しかけてくれるタイプではあるが、メルアは礼儀には厳しいようだ。まあ、貴族寮で暮らしていれば、そうならざるを得ないのかもしれないな。グーテンブルク坊やだって、セント・サライアスで一緒だった頃には全くわからなかったが、こっちに来てから自分の態度というものを場面によって細かく制御しているようだし。


「わかりました、メルア先輩!」

「んー、いいお返事♪ あぁ~、先輩って呼ばれてみたかったんだよねぇ~」


 メルアはアルフェの先輩呼びを噛みしめるように、頬を押さえて反芻している。


「嬉しそうだね、メルア」

「師匠ならわかってくれると思ったよ~。エステアと一緒だと、大体『メルアさん』とか『メルア様』になっちゃうからさ。こう、純粋な後輩っちゅーか、うちにも弟子が出来たかーみたいな感じがしていいじゃん」


 うん、その気持ちは多分よくわからないけれど、メルアの機嫌が良いならよしとしよう。師弟関係にこだわるのは、メルア自身がいずれ錬金術の師となりたいと思っていることの現れなのかもしれないな。もしかすると、特級錬金術師でありながら、魔法科を専攻していることとなにか関係があるのかもしれない。


「さてさて、前置きはこのくらいにして、まずは挨拶から行こっか。アルフェちゃんは『魔導士の礼』ってわかる?」

「はい。教養の一環として、聞いたことがあります」

「そんじゃ、これ持って」


 メルアはそう言って、なにもない空中から魔法の杖を具現させてアルフェに渡した。

 魔導士の礼というのは、杖の先端を自分に向け、持ち手を相手に差し出して、相手への敬意を示す最上級の礼だ。敵意がないことを示すために、相手が自分を敵とみなせばその杖で貫かれても構わないという無抵抗さを表すのだ。杖の持ち手を差し出された者は、杖を受け取って相手の頭上に掲げて杖を返すことで一連の動作は終了する。


 アルフェは受け取った杖を手にその場に(ひざまず)くと、杖の先端を自分の胸に向け、持ち手をメルアに向けて差し出した。


「これはさ、儀式みたいなもの。学校の授業じゃないから、うちはアルフェちゃんに対価は求めない。あくまで一人の魔導士としてアルフェちゃんに教えを授けるよ」

「ありがとうございます」


 アルフェが緊張の面持ちで頭を垂れる。


「あ、うち礼儀はキビシーけど、喋り方はいつもの感じでいいからね」


 メルアはアルフェから杖を受け取り、その頭上で『祝福』を示すルーン文字を描いた。


 アルフェには見えていないだろうけれど、これはメルアなりの覚悟なのだろう。それだけ僕の錬金術師としての腕を見込み、敬意を払ってくれていることが伝わって、身が引き締まる思いがした。


 そうでなくても、メルアは生徒会の一員として参加する武侠宴舞(ゼルステラ)・カナルフォード杯において、ライバルとなるアルフェに力をつけることを承諾しているのだから。


「はい、儀式はこれで終わり。さっそく実戦と行こっか」


 アルフェに杖を返したメルアが、にこりと微笑む。


「はい!」


 アルフェはまだ緊張した面持ちではあったが、その表情からは喜びのようなものが窺えた。強くなりたいというアルフェの希望に対し、強くなれる環境が整ったのだ。それを喜ぶ余裕がアルフェにあることは、僕にとっても喜ばしい。


 それはそれとして、聞き違いでなければ、メルアは実戦と言ったけれど、このアトリエで実戦を行うつもりなのだろうか。


「あの、メルア――」

「あ、修行の場所? 師匠がそばにいた方が初回はいいだろうし、ここでやるよ。心配しなくても、『煌く星空の指輪』の錬成の邪魔なんかしないって~」


 メルアが明るく言い、少し離れた場所にあるもう一つの作業台へとアルフェとともに移動する。


 その間に僕は、『煌く星空の指輪』の材料を検め、錬成を進めることにした。


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