無自覚な男
私はしがない会社員。年齢的にも人の上に立つ立場になってきた。つらい時期もあったけれど今は楽しく残り少ない社会人生活を送っている。
「部長。資料チェックお願いします。」
若手社員が声をかけてきた。こいつは入社してからかわいがっている奴でいい男なのだが仕事面ではイマイチである。まあそんなところもかわいいのだが。
「本当にこれでいいと思って私にチェックをしろというのか?まったく成長がない奴だな。」
一見厳しく聞こえるかもしれないがこれも彼のためを思ってのことだ。こういう厳しい言葉を受けて人は成長するのだと私は考えている。
「部長お茶です。あんまり高木君を責めるとまた会社休んじゃいますよ~」
女性社員が茶汲みをしてくれた。スタイルが良く美人の彼女は正に茶汲みに適している人材である。
「ありがとう。美人に汲んでもらう茶はうまいよ。しかし、美咲くんは高木に甘すぎるんだよ。人間は鉄と同じで打たれれば打たれるほど強くなるんだよ。」
「はいはい、何度も聞きましたよ~。ほどほどにしてあげてくださいよ~」
そう言い残すと彼女は業務に戻る。もう彼女は私専門の茶汲みにするように人事部に相談してみようか。
「それにしてもいい尻だ。お前もそう思うだろ高木。ん?」
「は、はぁ…そうですね。ははっ…」
「何顔ひきつってんだよ。美咲くんに直接言うとセクハラだぞ?」
そう言って高木の頭をはたく。これが毎日のルーティンになってきている。まったく高木はいじりがいのあるかわいい後輩だ。
「まあとりあえず資料は作り直しだな。今日中に見せに来い。終わるまで変えるなよ?」
「はいわかりました…」
落胆して自分の席に戻る。うんうん私もそうして上司に言われてきたなぁ。頑張れよ高木。そう心の中で高木の背中に語りかける。今日も後輩を育成していることを実感して業務に戻る。
「本田さんお疲れさまでした~。『上司シュミレーター~部長編~』いかがでしたか?試験結果はまた自宅に送りますね。手応えははどうですか?」
「ばっちりですよ。こんな試験などしなくてもしなくても私は部長の器を持ち合わせていますから。まったく上司になるために免許が必要なんて面倒くさい時代になったものですよ。」
「コンプライアンスが厳しいですからね~」
そういうと職員は目が笑っていない笑顔で去っていった。
「さーて部下でも誘って飲みにでも行くか。」
独り言を残して私は自信に満ちた表情で免許センターを後にした。