1話 平凡な少女とストーカーの女の子
正城縁。
特別なところは何も無い平凡な女子高生。平凡な見た目、平凡な頭脳、平凡な運動神経と、何もかも平凡で特質すべき点は何も無かった。それ故に、家族である両親や優秀な妹から嫌われて話しをすることはほぼ無い状態だった。
「はぁ……」
公園のベンチに座りながら縁はため息をついた。
(帰りたくないなぁ……。冷たい目を向けられるよりかは公園で野宿する方がましだよ……。でも帰らないとお腹は空くし寝ることもできないし……。嫌でも帰らないとなぁ……)
縁は暗い表情のまましぶしぶ立ち上がった。そして、うつむきながら公園の出入口に向かっていると、
「正城先輩! 待ってください!」
という女の子の可愛い声が聞こえた。縁は顔を上げて声が聞こえた方向を向くと、1人の可愛い女の子が縁に所に向かってきていた。レモン色の髪と瞳を持ったとても可愛い女の子だった。
(誰だろあの可愛い子……。なんであたしの苗字知ってるんだろ……)
縁は困惑しているが、女の子はそんな縁の目の前に来た。そこで女の子は可愛い顔で笑みを浮かべた。
「正城先輩はじめまして! 私は藤澤美結梨と言います!」
「……は、はじめまして」
「少し時間良いですか?」
「え……? あ、全然大丈夫……」
この時、縁は内心で少し喜んだ。家に着くまでの時間が少し遅くなったからである。
「それでは……私、先輩の事が大好きです! 私と付き合ってください!!」
「……え? ……え、え、えぇ!?」
美結梨から突然の告白をされて縁はかなり困惑した。
「な、なんであたしなんかと……」
「先輩の事を知ってから好きになったんです!」
「こんなダメダメなあたしを……」
「ダメダメなところも好きなんです! 私、先輩の色んな事を知っていくうちにどんどん好きになっていったんです!」
目をキラキラ光らせている美結梨。そんな美結梨に縁は聞いてみた。
「……知ってるって何を?」
「いっぱいありますよ! 好きな食べ物は甘い物全般だけどそれ以外の味は苦手で辛い物と苦い物は苦手を通り越して嫌いな事、得意な教科は1つも無く全ての教科が苦手で特に数学と英語と体育は大嫌いな事、好きな季節は気温がちょうど良い春と秋で夏と冬は嫌いな事、好きな数字は7、好きな色は赤色」
「すごい……全部当たってる……」
縁は美結梨が自身の色々な好き嫌いの事を知っている事に驚いた。一方の美結梨は縁が驚いた事でほっぺのピンク色を濃くしてニコッと笑った。
「他にもありますよ! 趣味は高校生になって初めてできた友達とお喋りする事、授業中は授業内容が難しくて眠くなる事、お昼ごはんはいつも菓子パン1つな事、みんなシャーペンを使ってるのに先輩だけ鉛筆を使ってる事、家に帰りたくないから放課後は辛そうな顔になる事、いつもこの公園で暇そうにしながら時間を潰してる事」
「え……? どうやって知ったの?」
「見てたからですよ?」
「そ、そうなんだ……」
縁はまた困惑した。縁は2年生なのだが、縁を先輩と呼んでいる美結梨は1年生であるため、授業中以外ならまだしも授業中の事までは分からないはずだからだ。
縁は困惑しているが、美結梨は更に喋った。
「両親から平凡という理由で妹と比べられて差別されてる事」
「えっ!?」
「平凡という理由で家族や親戚や近所の人達から冷遇されてる事」
「っ!?」
「小中学生の頃、弱いからって理由でみんなからいじめられてたり、頭が悪いからって理由で職員達から馬鹿にされてた事」
「っ!!?」
「高校生になって初めて友達ができるとその友達とお喋りしてる時以外生き甲斐を感じられなくなった事」
「…………」
そして、美結梨は縁の耳元に顔を近づけて、
「先輩の好きな人は友達の……中崎雅先輩だという事」
と小声で言った。
縁は美結梨に何もかも知られているという事実に驚愕し、恐怖した。
「なんで……そこまで……」
「先輩の事を知りたかったからです! そのためにたっくさん調べました! 本当に大変だったんですよ!?」
「そんなの……おかしい……おかしいよ……」
「ん? おかしくないですよ? 好きな人の事を何でも知りたいって思うのは当然の事じゃないですか! むしろ、好きな人の知らないところを知りたいと思わない人の方がよっぽどおかしいと思いますよ?」
可愛らしく小首を傾げながら言う美結梨。だが、縁は美結梨のやってきた行動は異常だと感じてしまい、《ストーカー》という言葉が思い浮かべてしまった。だが、縁は怯えていてその言葉を口に出す事ができなかった。
その時、美結梨は縁に顔を近づけてきた。目と目の間が10センチも無い程近い状態である。
「私、もう先輩の事以外考えられません! 先輩の事を知っていくうちに好きになりすぎてずっと一緒にいたいって思うようになったんです! だから付き合ってください!!」
「そ、それは……」
「先輩と絆を深め合いたいんです! 愛し合いたいたいんです! お願いします! 付き合ってください!!」
「あたし……には……」
「中崎雅先輩ですか? あの人は先輩の好意を受け入れる事はありません!」
「え……」
「なぜなら、あの人の好みのタイプは勉強ができてスポーツもできて顔がカッコいい人です!」
「どれも……あたしには当てはまってない……」
縁はショックで涙がポロポロ出てきた。それを見た美結梨は微笑みながらハンカチを取り出して縁の涙を拭いた。そして、縁の右手を両手でそっと握った。
「これ以上あの人と一緒にいても辛くなるだけです。だからこれからは私と一緒にいてください! 私なら先輩の好みを何でも知ってるので必ず幸せにできます!」
「幸せ……」
「先輩の事を悪く扱うような輩は私がきっちり殺し……じゃなくて懲らしめます! 私が先輩を守ります!」
「…………」
「だから……私と付き合ってください!! ずっと一緒にいてください!!」
美結梨は縁の顔をキラキラした目で見つめていた。縁はほんの少し(10秒程)考えた後、見つめてくる美結梨に言った。
「……ごめんなさい」
できるだけ早く更新できるように頑張ります。よろしくお願いします。