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遭遇


 幸仁がそう思考を重ねている間に、腕時計の盤面に表示された文字は切り替わった。次に表示されたのはクリア条件だったが、幸仁はそれを見てまた別の意味で息を吐き出した。



「ここに表示されるクリア条件は、JOKERのものなのか」



 画面には『最終ステージにおいて、自分の他1名のプレイヤーがクリア条件を満たしている』と表示されていた。それは、♡2のクリア条件とは違う、幸仁が本来成さなければならないクリア条件だった。



「これを見られれば、スートと数字、そのクリア条件とこの文字の違いに不審がられるだろうな」



 もし画面を見せることがあれば、この文字は見せないようにしよう。

 そう、幸仁は心に誓って次に切り替わる盤面の文字を見つめる。



「……♡の2の能力は――――手に触れた物をイメージ通りの硬度に変えることが出来る能力、か」



 幸仁は安堵の息を吐いた。手に触れる、という条件が付いてはいるが少なくとも当たりと呼んでも差し支えない能力だろう。これならば、これから行われるゲームで少なからず何もできずに殺されるという最悪な事態は免れそうだ。



 それから、文字はまた切り替わって事前に公表されたクリア条件の一覧が流れ始めた。

 それを見た幸仁は腕時計から視線を外して、直前に見ていた文字のことを考えた。



「どうやって能力を発動させるんだろう?」



 幸仁は首を捻った。だが、いくら考えたところで能力の発動方法なんて分からない。ならば物は試しだ、と幸仁は事前に持ち込んでいた細く裂きくるりと巻いて纏めたシーツ切れ端を三十センチほど伸ばして手に持ってみたが、その切れ端の硬度が上がった様子はまるでなかった。



「やり方が違うのか?」



 幸仁はぶつぶつと呟きながら、持ち方を変えて何度もシーツの切れ端を手に持ってみる。

 しかし、何度試しても能力が発動した様子はない。指で弾けば相変わらず布の感触を伝えてくるその切れ端に、幸仁は思わず眉根を顰めた。



「手に持つだけじゃダメ……。能力は手に触れたものをイメージ通りの硬度に変えることが出来る能力だから…………。待てよ、イメージ?」



 ふと、幸仁の頭にその方法が浮かび上がった。

 幸仁は、真剣な表情でシーツの切れ端を手に持つと、今度はその切れ端が鉄のように硬くなることをイメージした。



 ――瞬間。幸仁の手が僅かに光って、その光がシーツの切れ端へと流れ込んだ。光は切れ端全体を覆うと、やがてゆっくりと消えてしまった。



「……発動、したのか?」


 訝しむように幸仁は言った。



 それから、そろりと指を伸ばして幸仁は切れ端へと触れた。



「――ッ、硬い……!! まるで鉄板みたいだ」



 幸仁が指先で切れ端の表面を弾くと、コンッという硬い音が返ってきた。

 幸仁は切れ端が巻かれた部分を手に持って、伸ばされた切れ端を鞭のように振り回してみる。切れ端は布本来が持つしなやかさを持ちながらも風を切って、ガンッという衝撃の音を響かせながら木製の机を打ちのめした。



「……動きは布と同じで、硬さだけが上がってるのか。手を離せばどうなるんだ?」


 呟き、幸仁は硬度を上げた切れ端を壁に向けて投げてみた。



 しかし、切れ端は幸仁の手から離れた途端に本来の硬さを思い出したのか、壁に当たるとその壁に衝撃を与えることがないまま、ぽふんと跳ね返されて床に落ちてしまった。



「……手から離れれば能力は解除される、と。本当に、手に触れている間だけなんだな」


 言って、幸仁は床に落ちた切れ端を拾い上げる。



「そして、一度手から離れた物は再び触ったとしても能力を発動しない限りは硬くならない、と」



 切れ端を手の中で弄びながら、幸仁はこの能力の応用力の高さについて考えを巡らせていた。


 どんな軟らかい物でも、この能力ならば瞬時に硬化させることが出来る。主に攻撃を防御する面で役に立ちそうだが、硬化させた物で相手を殴ればそれなりのダメージにはなるだろう。……問題は、その硬さがどこまでイメージの再現されるのかということと、人体に対しても使えるのかということだ。



「ひとまず、そのあたりは試すしかないな」



 そう言って、幸仁は能力の使い方を試行し始める。



「…………イメージの硬さは、その硬さのイメージが出来ればどの硬度でも可能。……机を豆腐のように軟らかくすることも、反対に布を鉄のように硬くすることも出来る……。ただし、その硬さは明確にイメージすることが出来なきゃダメ、か」



 父親の影響で、知識や知恵だけは叩き込まれてきた幸仁だ。知識の上では地球上にはダイヤモンドさえも凌ぐ硬度を持つ物質があることを知っていたが、それがどれほど硬いものなのか明確にイメージすることが出来なかった。


 そして、そのイメージが不確かだからなのかどれだけイメージしたとしても能力は発動しなかった。どうやらこの能力は、そのイメージが明確に出来なければ発動しない能力であるようだ。



「……今のところ、イメージ出来る限界はチタン合金が限度だな」



 ダイヤモンドが一番硬いことは知っている。けれど、触れたことがないものはイメージしようにも明確には出来ない。



 ――あのクソ親父でも、さすがにダイヤモンドに触れさせることなんて出来なかったしな。


 そんなことを幸仁は思いながら、今度は自らの身体に対して能力を使用してみることにした。



「……人の身体には出来ないのか」



 変わらない皮膚の軟らかさに、幸仁はため息を吐き出した。

 もし皮膚を硬くすることが出来れば、もはや向かうところ敵なしだったのに。と、そんなことを考えながらも、幸仁は代わりに洋服を硬化させようと割り切った。



「――――部屋の壁や床に能力を使っても意味がない、か」



 壁に手を付いて、その硬度を豆腐のように軟らかくしようとした幸仁は、その結果に大きなため息を吐き出した。



「…………壁を壊すことも、出来ない、と」



 硬度を上げた切れ端で壁を叩いてみるが、やはり壁は傷つかない。

 どうやら、能力を使用したとしてもこの洋館から逃げることは出来ないようだと、幸仁はそう結論を下す。



「…………うん、こんなところかな」



 それから数分ほどして。その能力が出来ることを確かめ終えた幸仁は、能力の発動を止めた。部屋の中は、幸仁の実験台にされた家具がいくつも廃材となり散らばっていて、幸仁はその中から長机の脚を一本拾い上げると、その脚に対して能力を使用して硬度を限界にまで上げた。


 幸仁は机の脚を手に持ったまま部屋の扉まで近づく。

 ピタリと息を殺して、その扉に耳を押し当てて外の様子を探った。



「…………」



 音はない。防音扉なのか、それともこの先がまたワープホールになっているのか。いくら神経を尖らせて集中したとしても、幸仁の耳は何の音も拾うことができなかった。



「……よし」


 呟き、幸仁はゆっくりと扉を開けて扉の外を覗き込んだ。



 扉の外は、模様の無い真っ赤な絨毯が敷かれた、大人が三人で並び歩けるほどの横幅がある長い廊下だった。天井には等間隔でシャンデリアがぶら下がっていて、オレンジ色の照明が薄暗く廊下を照らしている。幸仁が顔を出した扉は、その廊下の途中にあるいくつもの部屋が並ぶ扉の内の一つだった。



「広いな」



 廊下を見た幸仁は真っ先にその感想が浮かんだ。

 左右を見渡せば、廊下の突き当りまで百メートル以上も距離があるのが分かる。その長さだけで、この洋館がとてつもなく大きいことがすぐに分かった。



 遭遇戦とはよく言ったものだ。確かに、この大きさならば出会ったというよりも遭遇したと言う方が当たっている。


 そんなことを幸仁は思い浮かべる。



 幸仁は左右を見渡し、慎重に廊下へと足を踏み出した。毛並みが深い絨毯のおかげで、ゆっくりと歩けば足音もさほど気にならない。あの音声が言うには、この洋館で三十時間生き残ることが出来れば、次のステージに進むことが出来るようだ。



 死なないためにも、まずはどこか安全な場所で身を隠そう。


 そう幸仁が考えていたその時、ガチャリと音を立てながら幸仁の目の前で廊下に並ぶ扉の内の一つが開かれた。



「――――ッ!」



 扉から出てきたその顔を見て、幸仁は思わず唇を噛みしめた。



「――――へへっ、まさか開始してすぐに他の奴に出会うとはな」



 扉から出てきた男が嗤った。その笑顔は、身に迫る死への恐怖から狂気へと変わった男の笑みだった。



「最初に出会うのがコイツかよ!」



 幸仁は、盛大な舌打ちをしてその場でくるりと旋回をする。


 その男の顔を、幸仁は見間違えようもない。この男は、ゲームルールを聞いていたあのホールで、『シークレット・リヴァイヴ』の参加権を示す腕時計を置いてきたと騒ぎ、ゲーム開始後に誰かから腕時計を奪うことを目論んでいたあの男だ。



「逃がすかよ!!」


 男が叫び、逃げ出す幸仁をすぐさま追いかけ始める。



 『シークレット・リヴァイヴ』第一ステージ、洋館遭遇戦。広野幸仁にとってのデスゲームは、決して話し合いが出来ない男との最悪の遭遇から始まった。

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