別れ
「……なるほど」
幸仁は表示されたクリア条件を見て息を吐いた。
ホールの中を見渡すと、いつの間にかホールの一部の壁がドーム型に消失して、黒塗りにされたような大きな出口が出現していた。残された人々は互いの顔を見渡し、小さな声でぼそぼそとやり取りを繰り返している。それが、『シークレット・リヴァイヴ』に関することだというのはすぐに分かった。
「――なるほど、デスゲームか。生き返りたければゲームに参加しろってか? 上等じゃねぇか」
そう言って最初に行動を開始したのは、気の弱そうな男の爆弾を爆発させた、あのチンピラ風の若い男だった。
男は、出現したドーム型の出口に近づくと、何の躊躇もなくその暗闇に足を踏み入れて、あっという間に吸い込まれて消えた。
男が消えると、その男に続くように残された他のプレイヤー達も不安な顔を覗かせながらも、ゆっくりとドームへと近づき消えていく。
幸仁は、その様子を見ながら手に持っていたシーツを噛んで切り込みを入れると、細く裂いてクルクルと巻いて纏めると、それを手に持って歩き出した。
「――待って!」
そんな幸仁に向けて、背後から声が掛けられた。それが、葉月からの声だということに幸仁はすぐに気が付いた。
ピタリと足を止めて、幸仁は背後を振り返る。
「なに?」
「行くの?」
と、葉月は不安に揺れる瞳で幸仁を見つめながら言った。
「もちろん。ここに居ても、どうせ死ぬだけだし」
と、幸仁は小さな頷きを持って葉月の言葉に答える。
葉月とは違って、幸仁の言葉はどこまでも冷静に落ち着いた言葉だった。
それが、葉月には信じられなかったのだろう。
これまで抑え込んでいた感情を爆発させるように、葉月は噛みしめていた唇を開くと大きな声を幸仁にぶつけた。
「っ、なんで!? あの話が本当だとしても、ここに居れば安全じゃない! 腕時計だって、身に付けてる! これさえあれば、時間が経っても死ぬことは無いんでしょ!? だったら、ここに居ればいいじゃない! それとも、本当に私たちは死んでいて、あの声の通りに生き返るとでも思ってるの!?」
幸仁は、じっと葉月を見据えた。
それから、ゆっくりとため息を吐き出すと身体ごと向き直る。
「別に、生き返りたいとかはどうでもいい。言っただろ、ここに居れば死ぬだけだって」
「だから、なんで――――」
「最後のルール、クエスト。それに失敗したら、死因の再現がされるって言ってただろ。クエストは強制参加らしいから、ここに居たとしてもクエストに参加させられる。クエストの内容が分からない以上、ここに居れば失敗のリスクは大きい。――だったら、死なないためにも洋館遭遇戦っていうステージだと言っていた、その場所に俺たちは行くしかない」
「――――それ、は」
幸仁の言葉に、葉月がハッとした顔を見せた。どうやら、葉月はそこまで頭が回っていなかったようだ。
幸仁は、そんな葉月の様子に内心でため息を吐き出しながらも、今度こそはと背を向ける。
「――待って、それだったら一緒に!」
そんな幸仁に向けて、葉月がまた声を掛けてきた。
幸仁はまた足を止めると、今度は振り返ることなく口を開く。
「無理だ」
「何でッ! クエストの内容が分からないんだったら、一緒に行動した方が――――」
「だったら鹿野。お前の『シークレット・リヴァイヴ』のスートと数字、今この場で言えるのか?」
「――――ッ」
葉月が息を飲んで、唇を噛みしめた。
その様子を目にしなくても気配で感じ取った幸仁は、唇の端を歪めながら小さく笑った。
「……言えないよな? だって、それを知られれば自分が殺されるかもしれないんだから」
「…………」
葉月はもう、何も言わなかった。
クリア条件が、各個人に渡されたまま公言されることがなければ、一緒に行動することは出来たのかもしれない。
だが、クリア条件の中には明らかに殺人を示唆するものが多数含まれており、いくら葉月がクラスメイトと言えど、先程の話をどの程度信じているのか分からない以上、幸仁は葉月と一緒に行動することが出来なかった。
死への恐怖と、この非現実的な状況が合わさって疑心暗鬼が加速する。
何も分からないこの現状で、二人で行動するのはあまりにも好ましくない。
幸仁は葉月に背を向けて、ドーム型の出口へと向かう。
葉月から掛けられる言葉は、今度こそ何もなかった。
プロローグが終わり、次回から本格スタートです。
よろしければブクマ&評価の方をよろしくお願いいたします!




