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エピローグ



 

 扉を抜けた幸仁は、気が付くと床に横たわっていた。


 ぼんやりと靄がかった頭を持ち上げて、周囲へと目を向ける。すると目を覚ましたそこが、直前のアナウンスで聞いていた通りエントランスホールの一角だということに気が付く。



 以前、幸仁たちが足を踏み込んでから参加者同士で争いがあったのだろう。エントランスホールに並ぶ幾本もの石柱はへし折れ、粉々に砕かれている。天井の巨大なシャンデリアは相変わらず煌々とした灯りを落としていたが、その真下では爆弾が爆発したかのようなクレーターがいくつも出来上がっていた。

 柱に、床に、絨毯に。至る所にこびり付いた血液が、肉片が、身体の一部が。この凄惨な場所に真っ赤な華を添えていた。



 身体を起こした幸仁は、自分と同じようにエントランスホールの床に横たわり、もぞもぞと身体を起こし始めた他の参加者を見つめた。



 ――頭の先から足の先まで返り血を浴びた青年。片腕を失くし、血に塗れながら溢れる殺意を隠すことなく睨む少女。その少女の視線の先には、ルール説明の場で他参加者の爆弾を爆発させたチンピラ風の男が居て、ニヤニヤと嗤いながら他の参加者へと目を向けていた。



「…………ん?」



 ふと、壁際に座り込む首と片腕のない死体――――残った片腕の中で大事に抱えられているその顔と視線が合う。坂上理沙だ。

 周囲の視線を集めている理沙は、幸仁と視線が合ったことに気付くとニヤリとした笑みを幸仁へと向けた。かと思えば首を膝の上に置いて、幸仁によって斬り落とされた腕を片腕で持ってひらひらと幸仁に向けて振って見せている。



「…………」



 幸仁はそんな理沙にむけて一瞥をくれると、視線を外して生き残りの参加者を数え始めた。



 ホールに集まった参加者は、二十七人。『シークレット・リヴァイヴ』が開始されて二十四時間、およそ半分の参加者がここで脱落していた。



「――――――」



 生き残りを数える途中で、幸仁は鹿野葉月と視線が合った。

 葉月は幸仁に向けて憎悪と殺意の籠った視線を向けていた。今にでも飛び掛からんとしているのを押さえているのか、その腕がぴくぴくと動いている。


 幸仁は葉月にちらりとした視線を向けると、すぐにその視線を切った。



 それからもう一度、生き残りの人達の顔を見渡して、幸仁はふとこの場所にその姿がないことに気が付いた。



「そんな、まさか」



 呟き、幸仁は見間違いだろうと、再度エントランスホールの中を見渡す。しかし、いくら見渡したところで()()のその姿は見つからない。

 何度も、何度も、その姿を探して。エントランスホールに集う参加者の数がこれ以上増えないことを確認して、幸仁はようやくその現実を受け止める。



「……………………そう、か」



 小さな言葉が幸仁の口から漏れ出た。



「恵さんは…………無理だった、か」



 幸仁はゆっくりと息を吐き出し、ぼんやりと宙を眺める。



 気のいい女性だった。決して、悪い人ではなかった。与えられた能力も強力で、それなりに頭も切れるようだったし、絶対に生き残ってやるという気概もあった。


 …………けれど、彼女は甘すぎた。ほんの少し行動を共にしただけで幸仁を信じてしまうぐらいには、彼女の性根は善性に偏りすぎていた。



 彼女が『クエスト』の指輪を見つけられなかったのか、単に他の参加者にクリア条件目的で襲われ殺されたのか。はたまた強力なその能力を扱いきれなかったのか、襲い来る相手との能力の相性が悪かったのか。それはもう、今となっては分からない。


 ただ一つだけ言えることは、彼女はこのゲームに負けた。たった一人でも生き抜く力がなかった。ここに集う餓鬼畜生の鬼たちのように、自らが生きるためならば人の道をも外れる覚悟が彼女には足りていなかった。



 ただ、それだけのことだろう。



「――――さようなら」


 と、幸仁は小さな声で言った。



 吐き出されたその言葉は、この場に居る誰の耳にも届かず空気に乗って消えていく。



 ジーというノイズ音が響いた。その音が、何の音であるかはここに居る全員が分かっていた。

 ある者は嗤い、ある者は憤り、ある者は憎悪と殺意を抱いて。誰もが周囲に細かく目を配り、 早くも生き残った死人達は虎視眈々と次の獲物を見定め始めていた。



「おはようございます。みなさま、よく眠れましたか? ゲームの時間です…………」



 聞き慣れた機械音。再び聞くあの言葉。その言葉の続きは、考えるまでもない。



 これは、死人たちの繰り広げる生き返りを賭けた秘密のデスゲーム。

『シークレット・リヴァイヴ』は、今日もどこかで密やかに行われている。



これにて、「シークレット・リヴァイヴ ~スキルを与えられた死人たちのデスゲーム~」は一区切りとなります。


デスゲームものは初めて挑戦する内容でしたが、いかがでしたか。よろしければ感想にていろいろと教えて頂けると嬉しいです。


また、これまでの話が面白かったという方は、下記評価ボタンにて評価していただけると執筆の励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 心理的描写がすごく引き込まれるもので一気読みしてしまいました!! 作品の設定も好みで続きがすごく気になります! 次章楽しみにしてます‼︎
[一言] すっごくいいところで終わってらっしゃる笑 面白かったです。続き楽しみにしております。
[良い点] ハラハラしながらとても楽しく読ませて頂きました いつかこの続きの再開を心待ちにしております!
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