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ルール説明

 


 ホール内は静まり返った。全員が声の出どころである天井を見上げて、あまりにも唐突すぎるその言葉の真偽を測りかねていた。


 状況はあまりにも特異的だ。現実ではありえない状況ともいえる。


 でもだからと言って、一方的にもうすでに死んでいると告げられて、それをすぐに『はいそうですか』と納得できる者は誰一人としていなかった。



「――おいおい! 急に何を言い出すかと思えば!! 俺らがもう死んどるって? 誰だか知らんが、ええかげんにせぇよ!! はよここから出さんかい!!」



 ホールの中央付近に居た、中年の男性が大声を上げた。その声に反応するように、人々の間から一斉に同調と不満の声が溢れ出す。


 天井のスピーカーは、ジーという機械音を流しながら沈黙を保つと言葉を切り出した。



「…………どうやら、お亡くなりになったことを――この言葉の意味を、あなたは理解できていない様子ですね。……そうですね。あなた達の現状をお伝えするには、ちょうどいいでしょう。では、あなたの身に何が起きたのか()()するとしましょうか」



 その言葉が流れ終えるのと、真っ先に声を上げた中年の男性の悲鳴が重なるのはほぼ同時だった。



「――ぁ、あギャッ、い、痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」



 なんの前触れもなく、男の四肢が骨を折る音を響かせながらあらぬ方向に折れ曲がり始めた。折れ曲がったのは四肢だけではない。男の全身がまるでトラックにでも衝突されたかのようにひしゃげ始めて、骨を折る音と共に周囲に血をまき散らし始めた。



「ぃッ――――」



 幸仁の隣で、葉月が短く息を飲む声が聞こえた。

 幸仁も――いや幸仁だけではない。その場にいる全員が、突然のことに思考が付いていかないまま、ただ茫然と眼前の光景を眺めていることしか出来なかった。



「痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――」



 バキバキと鳴り響く音と共に、男の全身が真っ赤な血を噴き出しながら細かな肉片へと代わり周囲へと飛び散っていく。

 その内の一つ――飛び散った男の脳漿の欠片が、不運にも近くに居たスーツを身に付けたOL風の女性の頭に乗っかった。



「――――」


 短く、その女性が息を吸い込んだ。

 瞳が激しく揺れて、きゅっと瞳孔が縮まる。

 女性の頭に乗っかった脳漿の欠片がずるりと地面に滑り落ちて、べちゃりと真っ赤な花が咲いたように地面に痕を付けた。



「ぃ、いやぁあぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッッ!!」



 ――その瞬間。吸い込んだ息を絶叫に変えて、肺の中の空気を全て吐き出すように女性があらん限りの声を出した。

 その絶叫でホール内に居たプレイヤー全員がハッと我に返って、女性の絶叫から一瞬遅れて悲鳴と怒号が彼らの口から一斉に飛び出した。



「なんだよ、なんだよこれッ!」

「ありえない、いったい何が――」

「ねぇ、誰か! 誰か取って!! 私の肩に肉片が乗ってるの!!」

「近寄るな!! おい、早くここから出せよ!! 死にたくねぇよ!!」



 ホールの中は、まるでハチの巣をつついた後のようにパニックに陥った人々で騒然とする。



「――ッ、なんだよ……。今のは…………ッ!」



 幸仁は、衝撃的なその光景を目の当たりにして、胃液がせり上がってくるのを感じながらも必死に嘔吐しないよう耐えていた。幸仁の隣では、葉月が血の気の引いた紙のように白い顔で目に涙を浮かべて口元に手を押し当てている。


 この場にいる誰もが、突然起きたこの惨劇がなぜ起きたのかを理解出来ていなかった。

 けれど、今の出来事でハッキリとしたのは()()()()()()()()()()()ということであり、一刻も早くこの場から逃げなければならないということだった。



「――――おい、鹿野。はやく逃げ」


 と、正気に戻った幸仁が葉月に向けて声を掛けたその時だ。



「――――落ち着いてください。これで、分かりましたか? みなさんは、もうすでにお亡くなりになっているのです。彼の死因は、電車による轢死でした。その死因を、今この場で再現しただけです。…………もう一度、繰り返しお伝えします。みなさんは、確かに死んでいます。ですが、みなさんは選ばれたのです。これから行われる『シークレット・リヴァイヴ』をクリアしさえすれば、また人生を謳歌することが出来るのです」



 天井のスピーカーから声が発せられた。


 パニックになっていたホール内は、その音声が流れ始めると同時に徐々に静まり返り始めた。


 逃げ出そうとしていた幸仁は、その音声を聞いてゆっくりと自らに置かれた状況を理解する。

 この音声が言うように、自分が本当に死んでいるのかどうかは分からない。ここがどこで、これから行われるものが何かなんてもっと分からない。けれど、この音声に逆らえば殺される――いや、かつて自分が死んだという死因を再現させられて、もう一度死んでしまうのは、冗談でも何でもなく本当に起こりえることなのだと。


 それを、この場にいる誰もが同じことを考えたのだろう。


 怒号や非難の声は徐々に消え失せ、今や誰かが流す小さな嗚咽の音だけが響くホールの中で、淡々とその音声は言葉を続けていく。



「――――では、これから『シークレット・リヴァイヴ』のルールを説明します。まず、みなさんには一人一つずつ腕時計が配られているかと思います。その盤面に触れていただくと、トランプのスートと数字が表示されるはずです。その後に『シークレット・リヴァイヴ』のクリア条件、能力が表示されているはずです。スートと数字、クリア条件、能力は各個人によってそれぞれ異なります。また、中にはスートや数字ではなくワイルドカード――いわゆる、JOKERが表示されている方もいるはずです。ここまではいいですか?」



 その問いかけには誰も声を出さなかった。しかし、大半の人々が自ら持つ腕時計へと目を落として、そこに書かれているスートや数字、クリア条件へと黙って目を通していた。



「では、次の説明です。みなさんの頭の中には、爆弾が埋め込まれています。その爆弾の起動は皆様の腕時計と連携しており、画面に表示された心拍数がある一定の数値を越えると爆発する仕組みになっています。この爆弾は能力で防ぐことは出来ない特殊な仕様となっておりますので、起動したら最後、みなさんの頭は吹き飛ぶことでしょう」



 その言葉に、幸仁はそっと手の中にある腕時計に手を伸ばした。頭の中に埋め込まれた爆弾というその言葉が嘘かどうかを確かめるには、腕時計を装着して興奮状態になればいい。ある一定の心拍数というのがどのくらいなのかは分からないが、こんな特殊な状況ならばあっという間に心拍数は上がるだろう。

 反対に、それを防ぐには腕に装着されたこの時計を取り外せばいい。このスピーカーの言葉が本当ならば、爆弾の起動は腕時計によって拾われる自分の心拍数だ。起動が腕時計にあるのなら、その腕時計さえ身に付けていなければいい。



 そんなことを、この場にいるほとんどのプレイヤーが同じことを考えただろう。

 頭の中に爆弾が埋め込まれているという突然の告発に驚き、不安げな表情を見せていた参加者も、もぞもぞと動きその手首に装着された腕時計を取り外し始めた。


 そんな中で、ただ一人。チンピラ風の若い男がスピーカーの言葉を馬鹿にするように歯を剝きだしにして笑うと、大きな声を張り上げた。



「あー? 爆弾だぁ? そんなこと突然言われて、信じられるわけねぇだろ!! 現に、俺の頭には傷一つねぇ」



 若い男の言う通りだった。

 もし仮に、頭の中に爆弾を埋め込んだのだとしたら頭のどこかには開頭した傷があるはずだ。けれど男の言う通り、幸仁も自らの頭を触って確かめてみたが、その頭には傷一つ存在していなかった。



 若い男は他の参加者がそれぞれ自分の頭を触り、そこに傷がないことを確認して僅かな安堵の表情を見せていくことに歯を剥きだしにして笑うと、ふいに周囲を見渡して気の弱そうな男の元へと大股で近づいた。



「おい、お前! ちょっと腕輪を付けてみろ」

「えっ、い、嫌ですよ!」

「ごちゃごちゃウルセェよ!! どうせ、テメェも頭に傷なんか無かったんだろ!! いいから、付けてみろって言ってんだよ!!」



 若い男が声を張り上げて、気の弱そうな男の胸倉を掴み上げた。

 気の弱そうな男は若い男の恫喝に怯えると、恐る恐るといった様子で右の手首に腕時計を装着した。



「よーし、それで良いんだよ……。おいッ! 確か、ある程度まで心拍数を上げると爆弾が起動するんだったよな!?」



 若い男がニヤリとした笑みを浮かべて、確認をするように声を張り上げた。



「はい、その通りです」


 と、天井から若い男の問いかけに答えるように声が流れる。


 若い男はその言葉にニヤリとした笑みを浮かべると、拳を握り締めて止める間もないまま、力いっぱいに気の弱そうな男の顔に向けて拳を叩きつけた。



「な――がぁ、な、何を――――」



 顔を殴られた衝撃で、気の弱そうな男の息が詰まる。けれど、若い男はその結果に舌打ちをすると、もう一度拳を振り上げて気の弱そうな男の喉元を殴りつけた。



「『何を』も何も、試してんだよ。本当に爆発するのかをな!!」

「なッ、ど、どうしてッ!!」

「これが、全部出来の悪いドッキリだって証明するためだよ!! 殴られれば嫌でも心臓もバクバクすんだろ? 俺をここまでコケにしやがったんだ。テメェらエキストラ一人が殴られることぐらい、テメェらの雇い主は想像してんだよなぁ!?」

「――し、知らなッ! ほんとに僕は何も知らないッ!!」

「うるせぇんだよ!! 俺に関わった時点でテメェも同罪だ!!」



 チンピラ風の若い男が拳を振るう度、激しい衝撃の音が響き渡る。気の弱そうな男の息が詰まって、呼吸と共に激しく咽込んだ。周囲の人々は恐怖で青ざめると、その行為を止める様子もないまま、すぐにその場から離れた。誰もが、その非道ともいえる行為を我が身の可愛さゆえに見ていることしか出来なかった。


 何度も、何度も衝撃が響く。そしてその音が十を超える頃、ふいに気の弱い男の装着した腕時計に変化が起きた。


 ――ピッ、という短い音が鳴った。その音はピ、ピ、ピ、と断続的に鳴り始めて、時間が経つにつれて音の感覚が短くなっていく。

 それが、その音の感覚が、爆弾が爆発するカウントダウンだということにすぐさま誰もが気が付いた。



「ぁ、が……。だ、れが…………。だず、げで――――」



 若い男に殴られ、傷ついた喉から溢れた血を流しながら、しゃがれ声で気の弱そうな男がふらふらと歩きだす。その歩行から逃げるように、周囲にはまた悲鳴と怒号が飛び交って、気の弱そうな男から人々が逃げていく。



「ど、ゔじて…………」



 気の弱そうな男の瞳から涙が零れ落ちた。断続的に響く音はやがてピピピピと甲高い音を発して、やがてその音はピーという一つの音に変わった。



「ぁ――――――」



 気の弱そうな男の声が漏れた。

 次の瞬間、激しい爆炎と共に衝撃が空気を震わして、男の首が吹き飛んで血が花火のように周囲に飛び散った。爆炎は首のない身体を包んで燃え上がり、ホールの中に肉の焦げる臭い匂いを充満させた。




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