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行動指針


「これ以上、この扉を調べても意味ないみたいですね」


 と、幸仁は扉に触れていた手を放して息を吐いた。



「みたいだね。あとは、このホールの中だけど」



 そう言って、恵がホールの中を見渡す。



「ざっと見、何もないね。床に敷き詰められた赤い絨毯と、でっかいシャンデリア。たっかい天井に続く柱だけ。あと、何かあるとすればあそこだけど」



 恵が視線を向けたのは、このエントランスホールへの出入り口と思われる三枚の扉だった。

 玄関扉を南側として、向かい合った北側に一枚、東と西にそれぞれ一枚ずつ扉は置かれている。幸仁たちの立つ場所からは離れているためその全容は詳しくは分からないが、少なくとも玄関扉と同じ木製の扉だということは見て取れた。


 幸仁は、それぞれの扉へと視線を向けて口を開く。



「ちなみに、あの先に行ったことは?」

「ないよ。最初にこのホールに瞬間移動してきた時も、すぐに元の場所に戻っただけだったし。こうしてこの場所をじっくり調べているのも、今が初めてなんだから」



 恵は幸仁の言葉に肩をすくめた。

 幸仁は、その様子を見ながらジッと考え込むと、これからの行動について決断を下す。



「…………行ってみるしかないですね。このゲームについて分からないことが多いですし、何より気になるのがあのスピーカーが言っていた『クエスト』って呼ばれるやつです。それが何なのか分からない以上、少しでもこの館のことを知っておいたほうがいい」


「でも、下手に動くと誰かと鉢合わせする可能性もあるでしょ? そっちの方が危なくない?」


「このままココに居ても、誰かと鉢合わせしますよ。扉が三枚あるってことは、それぞれの場所からココに繋がってる可能性が高い。この館の中を動き回っていれば、おそらくこの場所へと続くようになっているんでしょうね」


「へー? どうしてそう思うの?」



 幸仁の言葉に、恵が面白がるように言った。

 幸仁は、恵に視線を向ける。



「この玄関扉に、俺たちの能力が通用していないからですよ。能力が通用しないってことは、この場所から俺たちを逃がさないようにしているってことです。だったら、話は簡単だ。この扉はこの館から抜け出すための〝出口〟で、この扉が開くのはこの洋館遭遇戦が終わった時だっていう可能性が高い」


「なるほど……。仮にもしここが出口なら、最後には誰もが絶対に通らなきゃいけない場所だってことね。だったら、なおさらこの場所から離れないほうが良いんじゃない? 誰かに待ち伏せされる可能性が高くなる」


「もちろん、その可能性も十分にありますが……。それよりも、俺たちがここに居座って誰かを待ち伏せしているって思われる方が今は厄介です」


「どうして?」


「♤だと思われるからですよ。…………一つ、聞きます。この極限とも言えるデスゲームの中で、参加者が一番油断をするときはいつですか?」


「一番油断するとき? ゲーム開始直後の今じゃないの?」



 恵は、幸仁の言葉に首を傾げた。



「違います。ゲーム開始直後の参加者は、油断というよりも状況把握に必死なだけで対応が遅れてるだけなんです。あのホールで、説明のために〝死の再現〟がされて、実際に頭の中に爆弾が埋め込まれていることを見せつけられて、油断なんてする人がいますか?」



 幸仁のその言葉に、恵はハッとした表情を見せて、こくりと小さく頷いた。



「…………確かに、そうね。でも、それだったら油断するときなんて無いんじゃない? ゲームが始まっちゃえば、誰だって死なないように気を張るでしょうし」


「確かに、その通りです。ですが、そのゲームに終わりが見えてきたらどうでしょうか。二十四時間、この館の中に監禁されて訳も分からないゲームに参加させられて。人を騙し、騙され、殺し、殺されるような危機を乗り越えて、ようやく終わりが見えてきたゲームの中で、唯一示唆されている出口を潜り抜ければそれが終わると思った時、人はどう感じますか?」


「どうって……。そりゃあ、もちろん、『やっと終わったー』って――――。なるほど、そういうこと」



 恵はそこまで言って幸仁の言いたいことに気が付いたようだ。

 幸仁は真剣な表情で恵の言葉に肯定の頷きを返す。



「……ええ、そうです。どんな人でも一瞬、気が抜けるでしょうね。その瞬間を、♤が見逃しますか?」

「見逃さない、でしょうね。なんたって、あのクリア条件だし」

「はい。俺もそう思います。そして、この考えはゲーム後半になれば誰もが考えつくことでしょう。館の出口付近で、ずっと待ち伏せのように居座っているアイツは♤なんじゃないか、ってね」



 幸仁はそこで息を吐くと、また言葉を続けた。



「待ち伏せしてるってことは、何かしら後ろめたい事情があるってことです。♤だと疑われれば、その疑いを解消するためにスートと数字を公開しなければいけない可能性が高くなる」



 恵は、幸仁の言葉に考え込んでいるのか難しい顔で唸り声を上げた。それからしばらくの間が空いて、恵はようやく思考が纏まったのか口を開く。



「…………広野くんの言いたいことは分かった。でもさ、もしそこで仮に疑われたとしても、そのままにしておけばいいんじゃない? こっちから疑いを晴らそうとしなければ、スートと数字は公開しなくていいわけだし」



 恵は、幸仁の主張に納得がいかないようだった。難しい顔で考えると、幸仁に対してそう言った。

 その言葉に対して、幸仁はしっかりと首を横に振って答える。



「いえ、事前に配られた参加者が持つクリア条件の中には♤のKが持つ〝♤のプレイヤーを8人殺害する〟というものがあります。今、『シークレット・リヴァイヴ』の参加者は52人。その内、各スートを持つプレイヤーは最大で13人。最初に死んだあの二人が何のスートを持っているのか分からないから、下手をすれば各スートの最大プレイヤー数は10人になっている可能性があるんです。つまり、もしあの二人が♤だったとしたら、♤のKは10人のうちから8人を殺さなきゃいけない。…………もちろん、この話は他の♤の10、J、Q、Kにも言えることです。その数字を持つ参加者のクリア条件は、それぞれが各スートを持つプレイヤーを8人殺すこと、ですからね」


「それと、今の話になんの関係があるっていうのよ」



 恵は腕を組むと、難しい顔のまま幸仁を見つめた。



「今、話していたのは別に疑われたところで放っておけばいいんじゃない? ってことでしょ」

「だから、その疑われるのがよくないってことですよ」


 と、幸仁は恵の言葉にため息混じりの言葉を返した。



「俺たちが♤だと思われたら、♤の中でも♤のプレイヤーを8人殺すことがクリア条件になっている♤のKはどう動きます?」



 幸仁の言葉に、恵はようやく幸仁が何を言いたいのか理解したようだ。ハッとした表情になると、恵は真剣な表情となって幸仁の顔を見つめた。



「――なりふり構わず、出会い頭で襲ってくる。…………なるほど、そういうことね」



 恵は、言葉を絞り出すようにして言った。



「そうです。殺害系が多くクリア条件に含まれている♤のスートを持つプレイヤーの中でも、10、J、Q、K………。この数字を持つプレイヤーは、圧倒的にシビアな状況で、この『シークレット・リヴァイヴ』のゲームが始まっているんです。仮に俺が♤の10からKのどれかの数字だったら、最低でも10人は保証されているスタート直後から全力で他の参加者を仕留めにかかります。特に、状況証拠だけでもいいから自分のクリア条件の対象となっているスートを持つプレイヤーを、です」



 ゲームが進行すればするほど、生き残る参加者は減っていくだろう。そうなれば、クリア条件を満たすことも出来なくなってしまう。それはすなわち、〝死〟そのものだ。あのホールで、殺人に躊躇が無かったのはチンピラ風の若い男や腕時計を忘れたサラリーマン風の男だけだったが、そのほかにも自分が生き残るためならばその手を血で汚すことも厭わない参加者がいるかもしれない。


 そう思うからこそ、幸仁はより慎重にこの場で出来るベストな行動を恵へと伝える。



「未だ謎に包まれている『クエスト』という存在と、時間が経つにつれて激しさを増していく()()()()()()()()()()。あなたの持つ〝瞬間移動〟は確かに強力だけど、♤のKが持つ能力はまだ何も分からないんです。もし、〝瞬間移動〟が通用しない相手だったら、俺たちは逃げるしかない。その時に、この館の構造さえも分からなければ、咄嗟に逃げようにもどこに逃げれば良いのかが分からなくなります」



 幸仁はそこで言葉を区切って恵を見つめた。

 恵は、幸仁の言葉をじっと耳を澄ませて聞いているようだった。

 頭の中では幸仁の言ったことをいろいろと考えているのだろう。恵のやや茶色がかった瞳が細かく揺れ動いている。


 その様子を見て、幸仁はしっかりと彼女に言い聞かせるように、もう一度その言葉を恵へと伝えることにした。



「だから、今は動くべきです。ここに居るのが安全なのはわかりますが、もっと先を見据えればここでジッとしている方が危険だ。」



 ♤のKからすれば、幸仁たちが♤だろうが♤じゃなかろうが殺して確かめてみれば済む話だ。もちろん、そこで抵抗することも〝瞬間移動〟によって()()()逃げることも可能だろうが、♤Kの能力が分からない以上博打にしかならない。〝瞬間移動〟よりももっと強力な能力を♤Kが持っているのだとすれば、幸仁たちに成す術はないだろう。



「…………なるほど、よく分かったわ」



 恵は、幸仁の言葉にそう呟くと、ゆっくりと大きなため息を吐き出した。



「だったら、まずは普通にこの館の中を探索して、この館の構造を把握した方がいいみたいね。そこでもし、他の参加者に出会えば様子を見ながら対応していく、と」


「ええ、それでいきましょう」


 と、幸仁は恵の言葉にしかと頷いて答えた。


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