毎日毎日よくもまあ飽きもせずにガリガリガリガリと
ガリガリ……ガリガリ、と。毎晩毎晩聞こえてくる何かが削られるような音。
「はあ、うるさいな……またか。」
こうも毎晩欠かさず聞こえてくると、どうしたって気が滅入ってくるという物だ。
ガリガリガリガリガリガリ……
隣の部屋には誰もいない筈だけど、軽くアパートの薄い壁を叩いてみる。
ガリ……ガリガリガリガリガリガリ……
一瞬止まったような気がしたが、やはりすぐにまた何かを削る音が響く。小さく舌打ちをして頭をぐしゃぐしゃと掻き、思い切って部屋から出て隣の部屋に声を掛ける事にした。そうーー誰も居ない隣の部屋にーー
トントン、とノックをしてから夜中だから小さめの声で部屋の中に呼び掛ける。
「すみませーん!お隣の者ですけど、ちょっと静かにして貰って良いですかね?」
シーン……部屋からは静寂以外、何も返っては来ない。やはり自分の思い過ごしだったか……と、時々知らない内に引っ越して来ては、知らない内に出て行く隣の部屋の扉を暫し眺め、そして徐に部屋に戻った。
いい加減寝ようと、うるさい音の止まった部屋で布団に包まって、電気を消した……その瞬間!……ガリガリ、ガリガリ……ガリガリ。と、またあの迷惑な音が聞こえて来てしまった。
ここまで来るともう、自分の耳か頭、もしくは両方がおかしくなってしまったのではないかと心配になるほどだった。
ガリガリガリガリガリガリガリガリ……と、延々と聞こえ続ける音に、ただ布団を頭まで被って耳を塞ぐしかなく、その日は結局ほとんど眠れはしなかった。
翌朝、寝不足で腫れぼったい目で大家の所まで急ぐ。現在隣に住む人物がいるかどうか確認し、いるのならば抗議を入れなければならない。これ以上は耐えられそうもないのだ。
大家さんにその旨を訴えると、一番返って来て欲しくない答えが返って来た。
「ああ、あそこねぇ。あの部屋は前に浪人生が借りていてね。家賃が滞ったもんだから見に行ったら机に突っ伏して死んでたんだよ。勉強のし過ぎの過労死だと。困ったもんだよまったく。」
「そうだったんですか……今は誰も住んでいないんですか?」
「何人かに貸したけどね。みぃんなすぐに出ていっちまう。……どうも出るらしいんだよねぇ。あ、これはここだけの話にしとくれよ。」
「ええ……分かりました。あの……ということは、もしかして……自分が聞いたあの何かを削るような音も、その幽霊の勉強する音……だったりして。……なんて、あるわけ無いですよね。すみません、ありがとうございました。」
ビビってなんて無い、筈だ。でも、もし幽霊だとするならば、あの夜中の音はどうやったって解決出来ないわけで……いや、お祓いでも呼べばあるいは……
恐怖を抱えたまま、支度をして部屋を出て大学へ向かう。もし、浪人生の幽霊ならばこの行動すらも祟られるかもしれないとビクビクしながら、勉強してバイトして夕方を過ぎ夜中になる頃帰って来た。
そして、また……ガリガリガリガリガリガリ、と。何かを削るような音が今日も聞こえるのだった。