STAGE 0-7 俺様を殺せるのは俺様という事か
俺様はリアルにこだわる余り、ステータスの確認が出来る場所が限られるようにした。
……実は当初ステータスすら無しにするつもりだったのだ。
その代わり称号等で特色を持たせて、どんな人生を生きてきたかによってステータスが大体分かる、そんな仕組みだ。
プレイヤーは自身の分身を作る際、生涯称号をプラスマイナス過不足なくつける。
同系統のプラス称号は、増やす毎にマイナスコストが累算的に生まれる。
一方同系統のマイナス称号も、プラス称号と同じく累算的に増える。
例えば頭脳系プラス称号として「神童」「秀才」「天才」をつけると1+2+3のマイナス称号を選ぶ必要がある。
ここに身体系マイナス称号として「虚弱」「病弱」「ひ弱」をつけて相殺、という形になる。
……まぁこの構成が実現してれば、初級魔法で森を焼き払う火力がある反面、かすり傷で死ぬ事になるだろうけどな。
結局レベルやら、経験値もしくは熟練度の無いようなゲームはありえないと、方々で却下を喰らって諦めたが……。
何でアクションゲームでは許されて、RPGになった途端レベルやら経験値が必須になるんだろうな?
………
……
…
「…………」
「…………」
暑苦しい熊男が俺様の寝かされたベッドの横で、俺様に熱い視線を……うぇ……言ってて気持ち悪くなった、今の無し。
改めて……この忌々しい熊は、残念そうなものを見る目で俺様を見ている。
「なぁ……」
「皆まで言うな、俺様が一番困惑している」
「……そうかも知れんな」
獣の分際で言うだけ野暮だと思い至れたのだろう。
それ以上、俺様の毎日の有様について口を開く事はなかった。
「……あのゴミや……いや、クソはどうした?」
「……言い直してそれか? せめて門番は、と位言ってやれ。
……今回は目撃者も居たからな、意図的な職務放棄となれば罪は免れん」
熊が“今回は”と言ったのは、前回の事をそれと無しに仄めかして聞いてみたから、ピンと来たのだろうと思われる。
なんせ俺様があのクソ牛に跳ね飛ばされたのは2度目だし、怪我も同じという状況だからな。
「クック……いい気味だ。
で? どんな罰が待ってる? 免職か?」
「縛り首だ」
「……はぁ? 何だその時代錯誤な量定制度は」
クールに聞き返してみたものの、内心、何その野蛮な沙汰!? とびっくりよ。
いや、俺様は確かにかなりきついゲームに作り上げた自信はあったが、それはあくまでもプレイヤーに関することで、NPCの事にまで気が回ってなかった。
うーむ……どうしたものだろう?
「大体にしてだ……職務を放棄する兵士なぞ、敵前逃亡にも等しい。
そしてその結果誰かが死ぬかもしれないとすれば、未遂だろうがなんだろうが、殺人罪が適用される。
どっちに転んでも死罪……余程の事が無い限りあいつは死罪を免れん、自業自得だ」
「余程の事……とはつまり、俺様が罪に問わないと許した場合とかそういう事か?」
「……許すのか?」
「……ふむ、あいつ自身の命にこれっぽっちも未練は無いが、うーむ。
くむ……おほん……ニルドルなら何を引き換えに命を救ってやっても良いと思う?」
「くむ?? ……まぁ俺なら1年ただ働き、もしくは奴隷にすると言ったところか?」
「奴隷か……」
あー……奴隷なんて設定、作ったは作ったが俺様自身が絡むとなるとヘヴィだな。
「どのレベルの奴隷だ?」
「どの、が何を指すのかは知らないが、死ねだとか無茶な命令でも無い限りは聞き入れる必要があるだろう。
奴隷は物ではないからな」
ああ、基本的人権を持った労働者みたいなもんかね、なら安心か。
「直近の命に別状は無いからと、鉱山に送り飛ばす奴もいるがな」
安心撤回。
「罰金だと?」
「命の値段だぞ? 直ぐに開放される反面、年間ただ働きより高くなければならんだろう」
この前ふんだくった金よりは遥かに高くつきそうだな。
「ちなみに如何程?」
「金貨1000枚と言った所か」
うわー、1000万か。
命の値段にしては安いのかもしれんが、ここの世界だと死活問題っぽいな。
「よし、1月金貨1枚、ある時払いの利息無し、これでどうだ?」
「……お前そんなんで良いのか?」
「金貨1枚はでかいんじゃないのか? 3枚とかにした方が良いか?」
「お前が良いなら1枚にしておいてやるといい。
が、そんな気の長い話だと、支払い終わる前に寿命だぞ?」
「どうしようもないだろ? 勝手に死なれても、俺様には何の益も無いことだしな」
「ふむ……なら俺が話をつけてこよう」
………
……
…
結果的に話は直ぐまとまった。
死ぬかどうかの瀬戸際に、何も迷う余地は無かった。
クソ……改め門番の野郎は、同一人物か? と疑いたくなる程卑屈になっていて、ドン引きした。
まぁこれで、月々の安定収入(小金)もゲットだな。
この裁定の保障は国が受け持ってくれるだろうし、ギルドを通して俺様の懐に入るとなれば、何処からでも引き出せる訳だ。
安心安全な泡銭……くっくっく。
「あの……カルマさん? 目の前で悪い顔で笑われると怖いんですが」
「失敬な……君はあれか? 白いパンに顔が浮かび上がって、悪い顔でくっくと笑うとでも?」
「ちょっ! それは……なんかパンが食べれなくなりそうです!」
失敬な……俺様が白パン呼ばわりされても食べれてたって事だろうが? 全くニニンと来たら。
「それで本日はどうされたんですか?」
「うむ、クエストは見聞きしたいことは揃った事だし取り下げようと思ってな」
「そうなんですか? えっと、では……」
「……あ、キャンセル料がかかるのか?」
「普通は預かり金からキャンセル料が差し引かれた分をお返しするのですが……」
「そもそもただだからな」
「カルマさんがそれで良いなら」
「うむ」
ニニンはどこかほっとした様子だった。
まぁゴネれば金を巻き上げられただろうけど、目的は果たしているからな。
視界の端に熊も胸を撫で下ろしているのが見えたが、あいつはどうでも良い。
「で、今日は俺様のギルドカードを作るのと、ステータスの確認をしたいのだ」
「わかりました。
とうとうカルマさんも冒険者ですね!」
うむ……なんというか自分の作った世界で冒険者になるというのも感慨深い。
魔道具の一種に手をかざすと、文字が彫られた銅版がせり上がって来る。
これをドッグタグのように、鎖を通して首にかければ俺様も晴れて冒険者だ。
で、この魔道具はついでにステータスも表示してくれるのだが……。
「…………」「…………」
俺様目が点になる、ニニン言葉が出なくなる。
………
……
…
結論から言って俺様のステータスはオールフラットであった。
何の特色も無く、何の是も否も無く……。
「げ、元気を出して下さい! 裏を返せば何でも出来る! って事じゃないですか!?」
「反物の収められていた箱の裏を返して隅をつつきまくって、細い糸を見つけてより合わせてようやくって感じだがな」
「そこまで……」
「それとも何かね? 膨れ上がった白パンを無残に叩き潰して起伏を無くした物に何の価値があると?」
「なんで白パンで例えるんですか!? 平べっ……たくても食べれますよ!」
むう、ここは上手く反論してきたな。
半分笑いを堪えてるが。
それにしても困ったな。
最初期、俺様がステータスあんを飲んだ時に、ランダムでステータスが決まる仕様にしてたんだが、それでもオールフラットってのは見た事が無い。
能力は総合値が決まっていて、どこかでプラスが生まれれば、どこかにマイナスが生じる、つまり俺様の案が少し取り入れられている。
しかし何処もかしこもプラスが無いと言う事は、適正が何にも無いと言う事だ。
つまり、何をするにも技術不足と言うことで……超ド級ノービス爆誕な訳だな。
……縛りプレイにも程があんだろ? 何の嫌がらせだよ。
こうなれば称号を逸早く獲得して、ステータスに揺らぎを生み、何らかの特色を持たねばな。
「ニニン、修練場は空いてるか?」
「え? あ、はい、今日は空いてると思います」
「ニルドルは暇してるか?」
「多分……」
「なら補助を頼むよう言いつけて置いてくれ」
「分かりました、直ぐ伝えます」
………
……
…
修練場にやって来た俺様は、練習用に置かれている剣やら弓やら杖やらを握ってみる。
まぁ、ぶっちゃけ近接なんて御免被りたい。
しかし、頭の良い俺様には魔法に適正があるはずだ、と思い込んでいた俺様のステータスは、期待や予想を斜め上に錐揉み状に裏切ったからな。
この状況どうするか、と思い悩んでいると熊がやって来た。
「呼んだか?」
「クエストは取り下げたので、浮いた分、俺様の訓練に付き合え」
「構わんが……」
「……その顔、俺様のステータスを聞いたな? 個人情報は人に話すなと教えてないのか」
「俺はギルマスだぞ……ふぅ、良いだろう……気の済むまで付き合ってやろう」
「よし、それじゃあまず……」
こうして熊を相手に色んな武器を一つ一つ確かめていく。
ある程度試すと、急激に体が疲れて動きが鈍る。
つまり適正の無い武器を扱うために、スタミナに不安がでてくるわけだな。
きっつい……。
弓は全然当てられない。
ニルドルに指南してもらっても上達する気配が無いから、何かしら称号を得るまでは封印だな。
結局、簡単な武器である所の短剣類や石を投げる補助道具であるスリング位しか満足に扱えない。
スリングもあんまりちゃんと飛んでくれないので、まだましな部類に入るだけだし。
まきびしのような置くだけの罠系統ですら、自分で撒いて間髪入れずに踏んだのには、色んな意味で泣いた。
………
……
…
「俺も初めて出会ったが……難儀なもんだな」
「そうだな……」
「次は魔法か?」
「そうだ……せめてこっちはある程度使えると良いんだが」
そして俺様はカカシに向かって何度か魔法を飛ばす。
この世界であるゲームを作っていた知識から、俺様が何回魔法を飛ばせるか概算してあるため、ギリギリまで魔法を使う。
にしても、適正無しで魔法を使おうとすると、計算上結構厳しい事が分かるな。
3発じゃ雑魚モンスターでも倒せるかどうかだぞ。
何せ、強くなったら雑魚なんて腹パン一発! って流れを嫌った俺様は、どんな戦闘でもある程度攻防が成立するように作ってある。
逆を言えば、一回一回の戦闘は長引く傾向にあるんだが……これ、自分の方が雑魚だともはや苦行だな……。
「……一度やってみるか」
魔法を使うためのマナが足りない場合、どうなるのかの実験をしてみるか。
ゲーム上では不発に終わっていたが、現実となった場合どうなるのか不明である。
何事も経験してみない事には分からない。
「く……ニルドル、マナが足りない状態で無理に魔法を使えばどうなる?」
「何時もお前は俺の事を呼ぶとき良い澱むが、いったい何なんだ?
ふむ……マナ不足か……おそらくは昏倒する。
しかし、普通は無理に使おうと思うものは居ないな」
「そうか……なら試すから後を頼む」
「後を頼むって……あっ、おい!」
熊の言葉を待たずに俺様は魔法を放つ。
そして……
キュウウウウウウ!
ぐっ!? はっっ!? ああっっ! しぃ……心臓が……し……。
この時俺様の体に起こった異常は、筆舌に表し難く、正に心臓を握り潰されるかのような痛みで、思わず息が止まり、全身から嫌な汗が噴出して止まらなかった。
熊が何か叫んで倒れ込んでいるらしい俺様を揺さぶっているが、ああ、まずい……これはまずい。
ただ、まずいまずいと心の中で何度も後悔の声を呟き続ける事しかできなかった……。