STAGE 0-6 またお前か!
さて、ゲームの内容はやはり実際にそれを見ることによっていろいろ思い出す、ってことは分かった。
まだスキルに関しての情報は不足気味といえるが、あの二人組についていきさえすれば、いずれ見せてもらえるだろう。
今の所始まりの村、ラヴァッシュの事しか思い出せずにいるが、地図でも見れば徐々に思い出すだろうし、何よりも俺様が自分自身何が出来るか分かっていない。
どういう路線で行くかも決めなきゃいかん。
この“オルヴォテイア”において職業はあって無いようなものだ。
育て方で剣士っぽいとか魔法使いっぽいとかがある程度だが、習熟度が規定のラインに到達しさえすれば、称号というものが得られて更に特色づかせる事が可能となる。
称号はそれ自体に効果があり、魔法の威力を高めたり、身体能力を強化したりする事ができる。
これだけ聞くと、幾らでも称号を得て幾らでも強化していけるように感じるが、効果が得られるよう設定できる称号の数は4つまで。
この4つまでという制限も曲者なのだが……まぁ今は関係ないな。
だって、俺様の得た称号は一つも無いからな……。
そう言えばあの兄妹は称号を持ってるだろうか?
……現地情報を何も知らなかったとは言え、二人には悪い事をした。
アレかなぁ……コンニャクイモみたいなもんだったんだろうか?
いや、あの料理方法だと煮汁も飲むっぽいから違うんだろうなぁ。
……それとも一緒に入れたものが分解するとか?
そもそもが辛かったし……専門家じゃねえから分からねえな……。
………
……
…
「……お前はうちのギルドのポーションの在庫を一人で消費するつもりか?」
「その内の何割かはお前のせいなんだが?」
苦々しい顔をして嫌味を言う、熊のようなギルドマスターのニルドルに、こちらも負けじと言い返してやる。
こいつの事だから盛大に顔に影を作って黙り込……んじまった。
ここまで予想通りの反応するとは……面倒臭い熊だな。
「……あんた一旦何なんだ?」
俺様が起きた事を聞きつけやってきたベルンが、顔を合わせるなり随分な口を利く。
「どういう意味だ?」
「アレの食べ方も知らない奴が、何で薬草の運用に詳しいんだよ?
あんたがあんなことになったから、教えてもらった情報だって胡散臭えからやめとけってアイルを止めたんだよ。
でもアイルの奴があんたの事を信じててよ……んで教わった通りに作った薬は、言われた通りの薬効を示したよ……」
「そうか、良かったな」
「いや……だから何者なんだよ??」
「見ての通りの者だが?」
「見ての通りだとただのデブだよ!」
「デーブーでーはーない、ふくよかなぷりちーぼでーと言うのだよ」
「「ぶふうっっ!」」
どいつだ? 失敬な奴らは、と思って噴出した人物の方を見ると、ニニンとアイルであった。
腹を抱えて声を殺して忍べてない笑いを漏らしている。
「何だ失敬な奴等だな? では君達は俺様が白パンだとでも言うのかね?」
「ぶふっ! ちょ、カルマさん! それ卑怯だよー!」
「あはっ! あはははは! 白パン……って、あはははは!」
おいおい、あの犯罪者、本当に上手いこと言ってたのか……ちょっとショックだぞ。
俺様がぶすーっとしてると、熊……じゃない、ニルドルが情報を捕捉してくれる。
「ここいらで白パンを焼いてるのは一人でな。
そいつの白パンは焼き立てこそ何故かパンパンに膨らんでるんだが、店に並ぶ頃には萎びているんだ」
萎びた白パンって……おいこら。
つまり、俺様のこのぷりちーぼでーが萎びる前のパンパンの白パンで、何時萎びるとも知れないってのか? 失敬な。
「ついでに言えば、ベッドに沈んでるお前がその萎びた感をだな……」
皆まで言わんで良いんだよ熊野郎。
つか、流石にちびっこ共には昨日の詫びを入れておこうかと思ったが、しなくて良いな。
「はー……おっかしー……もう、カルマさんってば……。
ふう……えっと、朝食にしますか?」
「そうだな、昨日は昼から食べ損ねてるから腹減った」
「じゃ、皆さんも食堂へどうぞ」
………
……
…
「ふぅむ……信じられんが確かに初級ポーション+++の様だ」
「だよな、信じられねえよな」
「もう! お兄ちゃん! ニルドルさんまで!」
俺様が食べてるのを余所に、3人はポーションのことで顔を突き合わせている。
モクモクモク……。
俺様が食べる様子をじっと見ているニニン。
「……ごっそさん」
「お粗末様でした。
カルマさん、それで足りるんですか?」
「俺様の体はこう見えて、超燃費が良いんだよ。
そんじょそこらの奴と一緒にしてもらっては困る」
「そっかー……だから身に付くんですねぇ」
「……おい、俺様は焼き立てほやほやでは無いぞ?」
「ぶふっ! だからそれ卑怯ですってばー! っはっはひー」
ニニンが変な風に壊れたが放って置く。
「で、そこのちびっこ兄妹」
「ちびっこじゃねえ! ベルンだ!」「アイルですぅ」
「俺様にはあんまり関係無いだろうが。
で、今日は討伐系の任務か?」
「……おう」「はい」
「よしよし……二人とも俺様をきっちり守って狩りをする様に」
「えっらそうだなー」「分かりま……ってお兄ちゃん!」
「そりゃあ偉いだろう? 依頼者様だぞ」
「はいはい」「くすくす」
何だこの俺様に対して、まるで背伸びしてるガキンチョ見守る、微笑ましいの図は? 解せん……。
「で? 何を倒しに行く?」
「そうだな……護衛しながらって言う足手纏い要素がある以上、余り強いのは相手にするべきじゃないし、ビーズかデモラビかな?」
「もう……お兄ちゃんたら」
ビーズとは土のゴーレムの一種で、もちろんアクセサリーの類では無い。
原始時代等で見られる石の貨幣のような外見で、そこそこ大きい。
デモラビは魔物化した兎で、中型犬くらいの大きさの魔物だな。
デモ●●が魔物化した、という意味を持ってる。
「妥当なんじゃないか?」
「あんたが言うなよ……」
「飯も食い終わったし、とっとと行くか?」
「はぁ……はいはい」「くすくす……はい、行きましょう」
………
……
…
ラヴァッシュ周辺にある、草原フィールドへとやってきた。
所々に草の束が積み上げられている。
デモラビの食糧庫を兼ねた巣だな。
魔物化した動物は元の動物に則した活動をしているが、他の生物を襲う性質を持っている。
魔物である状態を維持するために必要なエネルギーを奪うためだ。
そして魔物化状態が長く続けばエルダー状態を経て、晴れて本当の魔物へと進化するのだ……が。
「……いきなり当たりを引きやがったな」
「うっせー! 黙って見てねえで手伝え!」
「お兄ちゃん! 前! 前!」
少しばかり魔物化状態が続いたデモラビこと、エルダーデモラビと交戦中だ……ちびっこ共が。
「くっそ! ファーストスラッシュ! セカンドクロス!」
ほうほう、ちゃんとコンボ使ってるじゃないか。
……2発で止まってるが。
3発目にサードスタンプで蹴り飛ばして体制を崩させ、最後にフィニッシュスタブを突き立てる流れとなるんだが……。
「おーい、ちびっこー、スタンプは使えないのかー?」
「うっせー! 当然使えるわ! 気が散るから話しかけんな!」
「クロスの次にスタンプだせー」
「護衛されてるだけの奴がうるせーんだよ! ちっくしょー!
ファーストスラッシュ! セカンドクロス! サードスタンプ……?」
「出せるならそのままスタブだぞー」
「フィニッシュ……スタブッ!?」
「ビャギイイイイイ!?」
「あ、え? ……嘘」
うむうむ、よしよし。
ノーマルコンボを最後まで出し切って、見事エルダーデモラビを倒したぞ。
あのままセカンドまでのコンボじゃ、3倍の時間がかかってただろうし、そうなるとちびっこでは倒し切れてたかどうかも分からないからな。
「……あんた本当に……本っ当に何もんなんだ???」
「見ての通りの……」
「そりゃあもう良い……っつか、本物の兎みたいに離れた所に避難してぶるぶる震えやがってよ。
そんな雑魚っぽい奴が何でこんな事知ってるんだよ??」
雑魚って……いや、仕方ないだろう?
凶悪な顔した大型犬並みの大きさの兎が突進して来たら、な?
バイクが突っ込んでくるかのような恐怖だぞ?
……はぁ、いずれ俺様が手ずからアレを相手せねばならんと思うと気が滅入るな。
溜息を吐いていると、エルダーデモラビを倒してから言葉を発していないアイルの視線がこちらに向けられていることに気付く。
「ん? どうした?」
「カルマさんって……凄いんですね……」
「そうでもあるぞ、もっと褒めろ」
「凄い……凄いなぁ……」
「おいアイル……はぁ、まぁ良いか……」
それから暫くアイルの「凄い……」の呟きがお経の様に続いていた。
最初気分良く聞いていたが、続きすぎて流石にちょっと褒められてる気がしなくなりつつあったが、まぁでも、俺様はそこそこ上機嫌だった。
妙な構図をよそに、一人黙々とエルダーデモラビを解体するベルンだったが、俺様そういうの出来ないしな。
こっそり覗き見しながら覚えたのは内緒だ。
………
……
…
「しかし思いがけない大物だったな」
「そうだね! 今日はちょっと良いもの食べれるね!」
「おまっ、そういう貧乏臭いこと言うなよ!」
「あっ! ……はい、御免なさい」
「良いでは無いか、食い意地張った感が微笑ましくて」
「やだ! カルマさん! 意地悪!」
「……はぁ、兄ちゃんは少し心配だよ」
ギルドに戻るまでの間、他愛のない話をしながら歩いていた。
今回は獲物が獲物だっただけに、持って帰る量が量だったので俺様も荷物持ちを手伝っている。
まぁ、このお手伝い分は俺様の小遣いになるらしいから問題は無い。
大した量も持ってないしな。
「あー……村が見えてきた……きつかったー」
「そうだね、今日は荷物が凄い事になっちゃったもんね」
「俺様も手伝ってやってるだろう?」
「軽くて高い部位だけだろ!」
むう、わがままな奴め。
大体にして、家に帰るまでが冒険なんだぞ? そんな風に気を抜いていると、
ムギュ ブモオオオオオオオオオオン!!!
……ほらな? こういう風にぃ……いいいいいいいやああああああああ!?
俺様、荷物、放り投げ、猛ダッシュ。
またしても片言思考に陥って全力疾走。
ふふふ、ちびっこどもめ、いがいにはやいおれさまのはしりにとか余裕ないわあああ!!!
「ブモッブモッブンモオオオオオオオオオオオオ!!!」
「てめえ! 何のうらみがあって……って尾っぽ踏んじまったんだったあああああああ!!!」
ドムンッッ!!!
「グェフッッ」
馬鹿の様にぽーんと跳ね飛ばされる俺様。
くっそ……阿保ウシめ……。
だが幸いにも村方向に飛ばされたため、逃げ込むまでの距離が稼げた。
俺様華麗に着地……出来ずにそのまま転がり、勢い殺さず起き上がる! 奇跡!
「ぬおおおおお!! 来るんじゃねえええ!!!」
「ブルッフモオオオオオオオオ!!!」
くっ! だが門は目の前! 衛兵も……って……あいつは!?
あの時居眠りしてやがったあいつか!? 金ふんだくってやったあいつか!!?
あっ! 目が合った! あっ! そして気付きやがった!
そして……見なかったことにしやがったあああああ!!?
ズドムッッ!!!
「ビュベッッ!?」
そして本日二度目の打ち上げを体験しながら俺様はあのクソ野郎の顔を見る。
さも愉快そうなその面覚えたぞ……覚悟しとけ。
そして俺様の意識は途切れたのだった……。