STAGE 0-2 二度目の刺客は……熊ぁ!? ……あ、違った。
俺様こと『多田子かまる』は新進気鋭のゲームプロデューサー様だ。
なに? 変な名前だと? ほっとけよ、今までさんざ言われてんだよ。
親父が半分酔った状態で名前を届け出た際、『かるま』と書こうとして間違えて『かまる』って書きやがったんだとよ。
後で諸々送られてきた時に間違ったことに気付いたらしいが、めんどくさいの一言で俺様の名前は『かまる』に決まった。
『かるま』って名前にしても若干キラキ……まぁそんなことはどうでもいい、今の話をしよう。
もともと俺様は一人で同人ゲームを作ってたので、全ての工程に関われる程に何でも出来てしまう位、万能で優秀なのだ。
今現在、もう直ぐリリースする『幻想残酷紀オルヴォテイア』にかかりきりだった。
残酷、なんて言葉が入れている位なので分かると思うが、過激な描写が売りのギリギリR15指定に抑えた作品だ。
R18にすると層がなんだとか、売り上げがどうだとか色々上から煩く言われたので仕方なしにR15にしたんだ。
草案段階では本当にエロエロなR18要素も入れていたんだが、R15と決まってからは一つ一つ削除させられる有様だった。
……まぁR18パッチを用意する方向で調整したので、削除というよりは封印作業だったけどな。
オルヴォテイアにはチュートリアルモードとハードモードが存在する。
チュートリアルモードははイージーモードのオフライン版と言う位置付けで、ゲームに慣れ親しんだ後はハードモードのオンライン版が待っていると言う流れだ。
チュートリアル等と銘打ってはいるが、突拍子も無く普通にやっても勝てない強敵に出会ったりもするので、どう生き抜くか、どんな風に死ぬかを学ぶという若干のハードな部分も内包している。
さて、このチュートリアルモードは特定のアイテム等をある程度までオンライン版に持ち越せるという仕様のため、プレイには期限を設けている。
本編に入らずともかなり多岐にわたって楽しめてしまうのが悪いとはいえ、延々ヌルゲーを楽しまれてしまうと、作った側としては残り90%以上が無駄になってしまうからな。
オンラインモードでは『残酷』の名を冠す通り、殺し殺され、奪い奪われが常となってくる。
“それ”が楽しみであるのには訳があり、プレイヤーが死ぬと保護状態以外の持ち物が全てその場に留まる仕組みだ。
プレイヤーと保護状態のアイテムは死んだ後、黄泉の聖殿に戻ってきて生き返る仕組みで、前述のアイテムロストは勿論、経験値のロストもかなりある。
となれば殺されないように徒党を組むのが当たり前になるし、コミュニケーション面に不安がある人のためには護衛システムもある。
そこまで駆使しても殺されることはあるし、殺されれば仕返し等の問題も当然起きる。
酷い時は、延々と殺し合いを繰り広げることもあるだろうし、中には初心者を狙って強盗プレイを楽しむ者さえ出てくるだろう。
そのため、PlayerKillingにはバウンティーシステムが自動的に適用され、殺害回数が増える毎に賞金も上がっていき、その上昇率は同じ相手を対象とした行為なら跳ね上がり、レベル差が大きくても跳ね上がるので、一方的なPKをきつく締め上げるって役割を担っている。
誰にも知られず殺したなら、システムが勝手に判断するのはリアルじゃねえじゃん? って話は、黄泉の聖殿で蘇る際に、全てのスキルが適用されていない死ぬ間際の記憶を見ることが出来る、って言う設定から。
つまり何かしらの方法で隠れて殺したとしても、全く隠れてない状態に見えるって訳だ。
まぁこれらの設定も低レベル時は自動で適用されるが、ある程度育ったら黄泉の聖殿に奉納金を献上することで適用されるという仕様ではあるので、一種の保険と言えるだろう。
モンスターPKはどうなるのさ? って問題だが、モンスターを引き連れて何らかの転移手段を用いたりわざと死んだりすると、引き連れていたモンスターは掻き消えるようにしてある。
ただしモンスタートレインの発生は、日和見の足の速いモンスターが大量に呼び寄せられる仕様なので、押し付ける前に死ぬだろうし逃げられもしないのだ。
ここら辺のリアル・非リアルの境界は難しい所なんだが、人の悪意が絡むことにリアルを理由付けたりはしないのが俺様のポリシーだ。
とにかく殺し殺されるシステムが前面に押し出されている以上、それらを補助する仕組みは沢山用意してあるのだ。
ここら辺はユーザーの投票等を元に、流動的にPKペナルティの強化やバウンティーシステムの変更を行っていく。
当然一般的なRPGのように、ギルドやクエストやランクなんかも存在しているぞ、安心だな!
………
……
…
等と走馬灯の様な、こちらで目覚める前の出来事やゲーム情報が、少し前まで眠っていた俺の頭によぎっていた訳だが。
今現在は清潔なベッドの上、包帯でぐるぐる巻きにされた俺様の前で一人、ただひたすらに平伏している男が居る。
「平に! 平に! ご容赦を!」
「…………」
この男は門番をしていた、あいや、居眠りぶっこいて役に立ちもしなかったゴミだった。
―― 少し遡って
ベッドで目を覚ました俺様に門番がへらへら笑いかけながら
「いやー災難だったなぁ、門に辿り着く前に襲われるなんて~」
等と特に悪びれもせず、話しかけてきやがったんだよな。
……っつか今、辿り着く前と言ったか? ああ言ったな、確実に。
じっと見つめてやると、ふいと視線を外そうとする門番。
なるほど? 居眠りしてたことを無かったことにする気だってんだな? ……面白い。
「そうだなぁ……運が悪かったなぁ。
運が悪いもんだから、滅多に遭わないだろうあの牛に追いかけられ、攻撃を2回も喰らってしまった訳だなぁ。
恐らく攻撃を受けた場所は酷く地面がえぐれてることだろうなぁ、範囲攻撃みたいなもんだったもんなぁ。
ついでに俺様の血も飛び散っているだろうしなぁ。
高位のレベルの者をあの場所に連れて行けば、何があったか当然分かるだろうなぁ。
いやあ、笑い話だよなぁ!? はっはっはぁ!
後学の為に、後程ギルドで高レベルの者を見繕ってもらい、どうすべきだったか聞こうと思うんだがどう思うねぇ!?」
と言ってやると、見る間に門番の顔色が青ざめる。
「ちょ! え!? 何っ……で!?」
「どうすればよかったのか、先達の意見を聞いてみるのは冒険者としては当然だろうぉ!?
ああ! そうそう! 俺様は門に辿り着けなかったんだっけ!?
どこら辺で倒れていたか詳しい場所を教えてくれるかなぁ!?
村門近くまで辿り着けなかったのならぁ! 地面のえぐれや俺様の血しぶきが離れた場所に残ってるだろうからぁ! なぁあ!?」
―― 時間を戻し
今現在、クズな門番はどうか報告するのは止めて欲しいと平謝りしている所だ。
俺様はお前の処遇なんて知らん。
まぁこいつの事は置いといて、今現在俺様の置かれている状況を整理しておくか。
俺様、何故か作ったゲームの中に居る。
俺様、ゲームの事は隅から隅まで知り尽くしている……はずなんだが……細かい所が思い出せないのは何故だ。
俺様、手持ちが無い。
うん、そうだ、俺様文無しだな。
「あー……金、どっかにおちてねえかな」
「はいっ?!」
「あーいてて……どっかに金が落ちてたら嬉しいなぁー!?
良い記憶で悪い記憶が上書きされるかもしれないなぁー!?」
門番が後ろを向き、財布から何かを取り出し、そ~~~っと、俺様の傍にあるテーブルに置く。
2ゴールド……ってどれ位だっけ? ……ちっちっ……ちーん。
そうだ、このオルヴォテイアの貨幣はカッパー・シルバー・ゴールドの三種。
価値は10000カッパー=100シルバー=1ゴールド、分かり易い換金率だろう?
それぞれの貨幣価値は、魔法および商人ギルド連盟によって保障されている。
貨幣の価値なんてものは何処かが保障しないと成り立たないからな。
……で、この1カッパーは大体1円相当としている……。
つまりこの屑はたった2万ぽっちで将来を保障してもらおうと言うわけだな。
「あー! 痛ってー! 将来が(げふんげふん)2ゴールドで消えてしまうかもしれない幻覚まで見えてきたなぁー!?」
「ぅぁひぃいいぃぃい!?」
屑は財布に手を突っ込むと有り金全部だろうか、全部で23ゴールド53シルバー5カッパーを机の上に投げ出すと、空の財布を握りしめorzの体勢を取った。
よしよし、将来の担保にしちゃちゃっちいが、そもそも最初から出せるもんは全部出しとけって話なんだよ。
「はー……なんか頭がすっきりして来たぁw
色々すっきり忘れられそうだーw なー♪」
晴れ晴れとそう言ってやるも、屑……いや過去を清算した門番は絶望から戻って来ることはなかった。
コンコン
俺様が泡銭にほくほくしていると、部屋の扉がノックされた。
「どうぞー」
「失礼しまーす……あ? 起きられたのですね? 具合はどうですか?」
「色々とすっきりしてますよー」
「そうですか、それは良かっ……門番さん!? どうしたの!?」
「さー? どうしたんでしょうねー?」
目を白黒させて俺様と門番を交互に見るギルドの受付嬢かつギルド長の一人娘、ニニン、14歳。
そこに大柄な……熊!? ……あ、違った、熊のようなおっさんだった。
熊ことギルド長のニルドルが入ってきていた。
「おう、目覚めたか。
災難だったな、この地に着いて早々に暴走魔獣にやられるなんてな」
「ああ、そうだな。
ここにいる“命の恩人”が門番をしててくれなかったらと思うとぞっとするよ……な?」
命の恩人と言う部分を強調してやると、門番はびくっ! と体を震わすが、やはりorzの体勢から戻ってこれる様子は無い。
「……何やってんだガリルの奴ぁ」
「で、一体何なんだ? ギルド長と娘さんのニニンだっけ? が揃って俺様の様子を見に来るってのは。
あんまりあるようなことに思えんが?」
「え?」「あ゛?」
「え?」
ニルドルの目つきが怪しくなる。
はっきり言うと、獲物……いや、敵を見る目だ。
何故だ……解せん。
「えっと……何故私の名前を知ってるんです?」「何で娘の名前を知ってんだ!?」
「あ? いや、名前どころかお気に入りのぬいぐるみとその名前や、スリー……サ……」
「なんでえ!?」「あ゛あ゛!? ぬいぐるみ? スリー? サ? ってなんだ!?
スリーサイズか? 体形の事なんだな!? どうやって知りやがったんだごるあ!!!」
やっべ……ゲームの裏設定だった……。
「まて、落ち着けはなせばわがりゅいいいああああぶごぅっっ!?」
熊、改め黒い砲弾と化したそれは猛烈な勢いで俺に突っ込んできた。
二度目の刺客はギルド長ときたかよ……。
そして俺様の視界は血塗れ状態になり、またしても暗転したのだった。
……あ、ちなみに意識を失う寸前、ちらと門番の口元が見えたが……三日月の形に反り上がっていた。
……覚えてろよこの野郎。