STAGE 0-1 初めての……危機ぃ!?
「……ちゃん……ちゃんてばよ」
「……ううん……仮眠中は……起こすなと……」
「おおい! あんちゃんってばよ!」
「……あ゛あ゛~……なんだってん……だぁ!? 何処だここ!?」
目を覚ましてみると、そこは草原だった。
あれ? 俺様のフルカスタマイズクリエイティブPCスペシャル、略して俺様スペシャルちゃんはどこ!?
そうだ! スマホすまほすまほすま……ほ? も無ぇ!? てか何この服!?
「はぁ~? あんちゃん、寝ぼけてんのか?
ここはラヴァッシュ、辺境にある小さな村さねぇ」
「……ラヴァッ……シュ……?」
何処か聞き覚えのある名前だが……何だっけ?
こうなんだろう……奥歯に物が挟まったような……って違ぇよ! そうじゃねえ!
落ち着いて周りを見渡し服装持ち物チェックを済ませる。
スーツじゃねえな、ザ・村人って感じの服装だ。
スマホ……はもちろん無い。
財布は……って服がそもそも俺のものじゃねえだろ、全部ねえよ。
よし分かった……これは夢だ。
「ぅわ゛んっ!」
「ぶおわえぃっ!」
突然足元で犬が吠えてびっくりして盛大にこける。
ぐおおう……ケツが……ケツが痛ってぇ……痛い? ……痛い!? ……夢じゃ……無い……のか?
「あんちゃんよぉ、大丈夫かぁ?
見た所、よそから来たみたいだから冒険者か? んでも、幾ら危険が少ない村だからってこんな所で寝てたらあぶねえやな」
「う? ……お……おぅ……そうだな」
何がそうだな、だ! こんちくしょーめ! 意味が分からん!
……そう言えばラヴァッシュ? だっけか……なんだっけ……。
ん、さっきから見えてるあの村の事だっけか?
「ラヴァッシュってあれか、あそこに見える村か」
「そうだよ、おらの住んでる“始まりの村”ラヴァッシュへようこそだな、あんちゃん」
“始まりの村”ぁ……ああ! 道理で聞き覚えがあるわけだ!
ラヴァッシュは今現在俺様が手掛けてるゲーム『幻想残酷紀オルヴォテイア』の最初の村、チュートリアルモードでの拠点となる場所だ。
ってことはあれか!? 異世界召喚ならぬ被創造物召喚!? なにそれいみわからんっちゅうねんおやじ……。
おっといかん、壊れてしまったようだ……しかも詰まらん。
ここで俺様よーっく考える。
何がどうなったかまだ良く分からんが、とにかくここは俺様の作ったゲームの中らしい。
現実主義者である俺様はすんなりこの状況を受け入れた上で行動することに決める。
現実主義って意味が若干違うとかそういう些細なことは鼻でもかんで、ちり紙にまとめて包んでぽいだ。
「どうやら村が見えて気が抜けたようだな。
どれ位寝てた?」
「んにゃ、誰か倒れてると思って駆けつけてみたら、気持ちよさそうな寝息立ててたんだわ。
んでも魔物も出るっちゃ出るんで、放って置くわけにもいかんでよ」
「あー……確かにな、すまん世話になった」
「良いってこったよ。
んじゃまたな、あんちゃん」
頭を切り替え終えた俺様は、介抱してくれてたらしい猟師っぽい原住民に別れを告げるとそのままラヴァッシュへと向かう。
さっきも確認したが、俺様の今の格好はというと正に村人Aなモブって感じでとっても頼りない。
しかしここが俺様のゲームの世界だというのならギルドが存在しているはずだ。
ギルドはどんな小さな村にも存在して、所属さえすれば最低限の装備が貸し与えられる。
まずはそれで直近の装備とさせてもらうとして、あとは……ステータスボードを確認してもらわないとな。
仮に世界がα版の物だとすると、ステータスもランダムになっているはず。
俺様のゲームは り・あ・る がぁ~~~売りっ♪
ゲームにおいてステータスが全く確認できないと不便が過ぎるし、だからと言って何時でも確認出来まくるとゲーム感が半端無い。
だから俺様、ステータスはギルドでのみ確認できるように設計した、つまり体力測定ができる場所のイメージなわけだ。
まぁでもそんな不親切設計だと、冒険中に体力が大量に減っているのも分からずいきなり死ぬなんてこともあるだろう。
なので怪我の深刻度に応じて、画面に血しぶきのエフェクトが追加表示されるようにしてある。
これだとホラーゲームのようで受け付けない人もいるだろうから、画面四隅に色のついた丸い球状のアイコンとどちらかを選択表示ができるようになっている。
ゲージでも良かったんだけど、それだとほぼ100%ゲージ選ぶだろ……。
ま、同様の理由で精神力、いわゆるMPって奴も何となく判るシステムを採用している。
俺がこだわったこのギルドでしかステータスを確認できない不便さは、最初は開発陣の中でも否定的な意見が多かったんだよな。
実際α版を出してみるとやっぱり不満は多かった……有り得ねえだの、馬鹿なの? だの、今時w 受けるwww だの、時代遅れだの……っていや、むしろステータス何時でも確認できるのは昔からてか初っ端からだろ。
ただこういうある種嫌がらせの様な批判があった反面、一つ一つの要素を丁寧に作っていた分、ガチ勢からの支持もとても高かったのだ。
戦闘もスキル使って、はい、サクサク~って感じではなく、手練手管を使い尽くして勝利に繋げるタイプで、たった一つのミスでパーティ全滅!! なんて極端な事も無い。
しかも生産の方も結構細かく作ったので、スローライフ勢にもかなり人気があった。
……実は細かすぎて開発陣からボイコット食らう始末で、流石に一人で作ってられないので原案はあったものの、大分端折る羽目になったんだが。
そんな感じで、難しくなり易い戦闘でさえある程度取り返しが効いたり、スローライフにのめり込めたりするので女性からの人気も高かった。
生産職あってのガチ戦闘みたいな部分も用意してあったからな。
助け合わないと強くなれないわけだな。
結局何が言いたいかって、俺様が全て正しいっ! てことなんだよ、うん。
なのに無能共ときたら一々噛み付いて来やがるから始末におえない。
言うこと聞いてへーこら従ってりゃあ成功と名声が手に入って金だって手にできる、つまり待ってるのは天国だってのになぁ。
一体何が不満なんだか……。
等と夢想してると、まぁ元々そんなに離れてはいなかったが、気づけば村の手前付近まで来ていた。
よしよしゲームのままだな、とか暢気に考えていたら、
「ぶんもおおおおおおおおおおお!」
……まじか。
いくらチュートリアルエリアだからと言って、のんびり居着いてしまわれては開発者として悲しいものがある。
だから、極稀に、最初期エリアに少ーしばかり相応しくない暴走モンスターがポップするように設定している。
それがこの暴走牛「トロージャン」……木馬ってか馬ですらもねえのかよ! っていうツッコミ待ちな名前を持つモンスターだ。
何で今頃そんなこと思い出すんだ……ってかそんなことより、よりにもよってここで出んの!?
「ぶもっ! ぶもっ! ぶんもおおおおおおおっっ!」
……夢……じゃ無かったよな……でもこれはゲーム……の中? だよな?
……そう……これはゲームだ、これはゲームだ、これはゲームだ……
ってさっき尻餅着いた時痛かったわああああ!
ゲームだから死んでも大丈夫だなどと、楽天的に思い切れるかぼけえええええ!
大体復活できる場所もまだ見てないし! 復活した奴も見てないし!? じゃあ試そう♪ なんて思える訳ねえだろクソがあああああ!
俺様、ピンチ、猛ダッシュ。
どこかのゲームで出てきそうな片言状態の思考のまま、全力疾走開始。
目指すは目の前の村の門、あそこまで行けば門番が助けてくれる!
「ぶんもおおおおおおおおおおお!」
「こっち来んなああああああああ!」
必死に逃げる俺様、追っかけてくる暴走牛、速度の差は歴然……。
だってそもそも俺様、インドア派! 見よ! この魅惑のふくよかぼでぇ!
……ってあほなこと言ってる場合か!
「ぜひっぜひっ、おっ、げふっ……ぅおおおおい! すまんが助けでぶゅっ!」
ずっどごおおおおおおおおおおんっ!
……すまん、効果音は盛った。
そこまで派手だったわけじゃない……んだが、インドア派の俺様にとってその衝撃はそれくらいのものだったんだよ。
とにかくずどんっ! と跳ね飛ばされた俺様は、当初の目的だった村の門近くへ、ぼいんぼいんと跳ねながら吹っ飛んでいった。
流石にプレイし始めて、運が悪ければ一発目にも遭遇しそうなモンスターでもあるので、暴走牛の攻撃力設定はそこまで高くない。
この暴走牛の何が厄介かというと、体力が半端無く高い上にしつこく追いかけてくる点にある。
だから村に常駐している衛兵に助けてもらうのがセオリー。
この衛兵は国から派遣されてきていて、対モンスター特効装備を身にまとっている。
正に最後の砦!
……なんだけれど、何だ? 何かおかしいぞ?
こんな目と鼻の先で誰かがモンスターから攻撃を受けていたら、ゲームだったらすっ飛んでくるはずなのに?
どんな嫌な現実があるのだろうかと門番の方を良く見ると……
「ZZZzzz……」
うおおおおおおおおおおい! 寝てるうううううううう!? 何でそこだけ現実に寝ちゃってる訳ぇ!?
っつか、何であんな派手な音立てて人が吹っ飛んでんのに、目ぇ覚まさないのぉ!?
……やばい! やばいって!
あの暴走牛、幾ら攻撃力が抑えられた暴走モンスターであるといっても、出来立てほやほやのキャラクター(だと思われる俺様)が何度も攻撃を受けて無事で済むはずがない。
やはり衛兵が頼りだ! ……ったんだがあの野郎ぅめが!
俺様焦る頭で必死に対策を考える。
吹き飛ばされた衝撃であちこち血まみれだ……あ、血飛沫バージョン……なんて考えてる場合か!
とにかく立ち上がろうと、石だらけの地面に手をついて……石?
これあの居眠り野郎にぶつけたら起きないか!?
なんせ先程吹っ飛ばされた衝撃で足元がおぼつかないため、逃げ切るのは難しい。
なら一縷の望みにかけて石を……投げたー! ……大きく外れたー! ……ボール! と言うより暴投! だからインドア派なんだってば!
あ、やべ、馬鹿やって頭抱えてる間に、あのクソ牛地面蹴ってやがるぞ? も一度突っ込んでくる気か……。
ラストチャンス……俺様大きく振りかぶって……投げたー! 当たったー!! 兜がくるっと回ったー!? まさかの目隠し!?
門番起きたー! しかし目が見えていないー! 足がもつれてすっ転んだー! ぎゃはは! 馬っ鹿でー!
……って、そんな笑いの神様降りてる場合じゃねえええええ!
ズドムッ!!!
再び牛の突撃を受けた俺様は軽やかに宙を舞い、そして視界は暗転したのだった……。