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第35話 【グラディエーター】ロイヤルランブル戦、開幕!

試合形式はその名の通り、アメリカのプロレス団体WWEのロイヤルランブルを元にしています

 それから1週間後……。遂に、試合の日がやってきた。


 この1週の間はひたすらサイラスの家に通い詰め、ひたすらこの日の為の特訓に勤しんだ。……まあ特訓だけでなく、あっち(・・・)の方も大分燃え上がってしまったが。


 やはりあのガントレット戦にも及ぼうかという条件の悪い試合。これで死ぬかもしれないと考えると、余計に気持ちが昂ってしまった面もあったりする。


 まあとにかく、やれるだけの事はやった。後は全力を尽くすのみだ。




『さあさあ、お集りの紳士淑女の皆様! 大変長らくお待たせいたしました! 本日は兼ねてより告知のあった、【グラディエーター】ランクの剣闘士8名による途中参加型・・・・・バトルロイヤル……『ロイヤルランブル』がこれより開催だぁぁぁっ!!!』




 ――ワアァァァァァァァァァァァァッ!!!!




 観客席を埋め尽くす群衆が総立ちになって大歓声を上げる。何と言っても精鋭である【グラディエーター】ランクの剣闘士全員(ヨーンを除く)が参加するという超豪華な試合。試合形式も滅多に見られない特殊な形式だ。


 むしろこの熱狂は当然の事と言えるかも知れない。




『さあ、そしてそして! 既に皆様には周知されているとは思いますが、今回のルールでは順番が後になればなるほど有利。逆に順番が早い者ほど不利となります。しかし試合形式はあくまでバトルロイヤル! 誰が勝ち残るかは最後まで解らない! それでは早速1人目の選手入場だ! 最早説明不要! その美しさと可憐さ、そして相反する強さを両立させた奇跡の存在……

【隷姫】カサンドラ・エレシエルだぁぁぁぁっ!!』



 ――ワアァァァァァァァァァッ!!!



 再びの大歓声と共に私の名前が呼ばわれる。一応私の処刑試合という体もあり、またクリームヒルトの要望もあるので、私が1番目の選手である事は最初からの確定事項だ。


 解っていた事なので今更動揺するような事はない。


 いよいよだ。私はフゥっと息を吐き出してから、開かれた門を通ってアリーナへと進み出た。



 私の姿を見た観衆が熱狂する。私はそれには構わず、じっと主賓席を見上げる。そこには相変わらずのシグルドの威圧感のある巨体、そして……彼の横に、自分も豪華な椅子にゆったりと腰掛けて、焼き菓子や葡萄酒を嗜みながら私を蔑んだ目で見下ろすクリームヒルトの姿を認めた。


 闘技場の真ん中でこれから圧倒的に不利な条件で死闘を生き残らねばならない私と、主賓席の豪華な椅子で優雅に見世物を楽しむクリームヒルト……。


 これが今の自分達の差だと言わんばかりのクリームヒルトの態度に、私は歯噛みし拳を握り締める。だがここで気を乱してはあの女の思う壺だ。


 主賓席から目を逸らし、後は真っ直ぐアリーナの中央だけを見据えてそこまで歩いていく。



『さあ、それでは厳正なる抽選の結果選ばれた2番目の選手入場です! その巨体と重装の前にあらゆる攻撃は意味を失う! 難攻不落の生ける移動要塞! 

【鉄壁】のアンゼルム・ヘンラインだぁぁぁぁっ!!』



 アナウンスと共に対面の門から現れた……巨大な影。


 私の目には最初、武骨な鉄の塊が動いたかのように映った。やがて完全に門を潜るとその全容・・が明らかになった。


 私は思わず目を瞠った。事前にサイラスから聞いてはいたが、それでも実物・・は迫力が段違いだ。


 優に2メートルを超え、もしかしたら2・5メートルはあるかも知れないような馬鹿げた巨体。シグルドやラウロよりも確実にデカい。それこそオークなどの魔物ではないかと疑ってしまう程だ。


 また縦だけでなく、横幅の厚みも相当な物だ。そしてその巨体をくまなく覆い尽くすのはフルプレートの重装鎧。頭もフルフェイスの兜で覆っており、肌を露出している部分が一切ない。何と言うか、私とは色々な意味で対照的な剣闘士だ。


 その重量感ある巨体と全身鎧姿、そして左手に持つ分厚い大楯(ラージ・シールド)も相まって、まさに移動要塞という言葉がしっくり来る。これだけ防具を着けているのは卑怯ではないかと素人は考えるかも知れないがそれは違う。


 あり得ないがもし私がフルプレートの全身鎧など装着したら、その重みだけで全く動けなくなってしまうだろう。仮に何とか動けたとしても、身体の柔軟性は当然損なわれる。メリットばかりではないのだ。



 しかし目の前の男――アンゼルムは、そんな途轍もない重量を背負い込みながら、その足取りに何ら負担を感じさせる事もなく、私の前まで歩いてきた。この鎧がコケ脅しでない事は、その足取りを見るだけでも確かだ。【グラディエーター】は伊達でなれる階級ではない。



「……貧乏くじを引いたようだ」


 フルフェイスの奥からくぐもったような呟きが漏れる。当たり前だが、オークではなく人間のようだ。私は思い切り見上げるような形となった。


 身長は優に80センチ近く離れ、体重は……まあ『数倍』とだけ言っておこう。いや、鎧の重量を加味すれば冗談抜きに10倍近くあるかも知れない。


 比較するのも馬鹿馬鹿しくなるような体格、ウェート差だ。文字通り大人と幼児のような比率だ。それでも私は今からこの巨人と戦わなくてはならないのだ。


「あら、それはご愁傷様。でも私は全く諦めていないわよ? どうやらデカいのはその図体だけのようね」


 そう挑発してやると、兜の奥から低い笑いが漏れた。


「ふ、ふ……強い女だな。気に入ったぞ」


「おあいにく様。サイズが違い過ぎてお相手(・・・)は無理だと思うわ。お似合いの大女でも見つけるのね」


「くく、違いない……」


 アンゼルムが再び低く笑う。




『さあ、それでは開始の準備は良いか!? 主賓席に置かれた巨大砂時計。あれが満ちる毎に新たな選手が乱入となります! 砂時計は主賓席におわしますシグルド様とクリームヒルト皇女の手によって回されます! ……それでは『ロイヤルランブル戦』…………始めぇぇぇっ!!!』




 開戦の合図と共に私の地獄が始まった。



 アンゼルムが右手に持つ武器――左右両方に槌頭が突き出た片手持ちハンマー――を振りかぶる。巨体に似合わない素早い挙動だ。


 振り下ろされるハンマーの軌道を冷静に見切って回避。空振りした隙を突いて斬りかかる……が、正直どこを斬ればいいのか……?


「ふんっ!」

「……!」


 迷っている内にアンゼルムのハンマーが今度は横殴りに迫る。咄嗟に後ろに飛び退って躱す。


 私の見た所、アンゼルムの鎧は少なくとも前面はどこにも攻撃できる余地がない。流石に後面の関節部分には多少の隙間はあると思うが、それには背後を取らなくてはならない。


 考えている内に、またアンゼルムのハンマーが大上段から迫る。


「く……!」


 やはりギリギリで躱しながら、何とか相手の背後を取るような軌道で回り込もうと試みる。だがヨーンの時のようには行かない。アンゼルムはやはり意外と素早い挙動で私を見失わないように向きを変えつつ、ハンマーで牽制してくる。


 私はやむを得ず、一旦距離を取って仕切り直す。幸いというかアンゼルムのハンマーの軌道は見切りやすいので、逃げに徹すれば少なくとも負ける事は無い。そう思ったのだが……


「……そう来る事は想定済みだ」



 アンゼルムは巨大な大楯を正面に構えると、一直線に私に向かって突撃してきた!



「……ッ!!」


 眼前に恐ろしい勢いで迫る「面」の圧力と迫力の前に、私の反応は一瞬遅れた。これも実は事前にサイラスから聞いてはいたのだが、まるで地響きのような足音も相まってやはり実物の迫力は桁違いだ。 


 それでも咄嗟に横に逸れて避けようとしたが、何とアンゼルムは大楯を突き出したまま、正確に追尾してきた。


 足が……速い!? 私も後ろを振り向いて全力疾走しなければ逃げ切れない程の速度だ。そしてそんな暇は当然なく――


「ぎゃうっ!!」


 そのまま私はアンゼルムに……轢かれた(・・・・)


 そう形容するしかないような凄まじい衝撃で、私の身体は木っ端のように吹き飛ばされて、5メートル程空中遊泳を体験した後に、勢いよく背中から地面に激突した。観客席が悲鳴や怒号で沸き立つ。


「あ……ぐぅぅ……!」


 全身の骨が砕けるかのような痛みが私の身体の中を荒れ狂った。激突の瞬間、反射的に小盾を掲げて身を守ったにも関わらずこの衝撃。まともに受けていたら、この時点で勝敗は決していただろう。


 『盾払い(シールドバッシュ)』?。それとも『盾打撃シールドブロウ』? いや、違う。そんな物ではない(・・・・・・・・)



 サイラスが言っていた、このアンゼルムの得意技の名前。


 それは……『盾突撃シールドアサルト』!



 そう。それは最早重戦車の突撃と言っても過言ではない技……。人間が個人で繰り出せる一撃の限界を超えた、アンゼルムのユニーク攻撃であった。


 全身に衝撃が伝播し、仰向けのまま中々起き上がれない。だが当然相手は私が回復するまで悠長に待ってはくれない。


 倒れている私目掛けてハンマーを叩きつけてくるアンゼルム。


「く……う……!」


 痛む体に鞭打って、横に転がって辛うじて躱す。するとアンゼルムはハンマーではなく、何と自らの鉄靴に覆われた巨大な足による踏みつけで追撃してきた。


 踏みつけを再び横に転がって躱したが、このまま寝ていれば一方的に追撃を受け続けるだけだ。


「う……おぉぉぉぉぉっ!!」


 私は自らを鼓舞するように気合の叫びを上げながら、強引に身体を起こした。観客席が再び沸き立つ。


次回は第36話 【グラディエーター】鉄壁と毒牙


アンゼルムの『盾突撃』によって窮地に陥るカサンドラ。

そして砂時計は無情にも時を刻み、次なる闘士が乱入する――

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