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第15話 【マーセナリー】ガントレット戦

 数日後、オーク戦での穢れとルアナに蹴られたダメージを回復させた私に、【ウォリアー】ランクへの昇格試合が告げられた。


 【ウォリアー】は上から数えた方が早いランクであり、剣闘士としても中級の上位。軍隊での一般騎士や熟練傭兵レベルに相当するとの事。


 また【ウォリアー】ランクからは、その剣闘士の特徴や戦い方などを単語で表した、いわゆる『異名』が付くようになるらしい。そんなものに何の興味もなかったが、ランクが上がるという事は、シグルドに挑戦できる権利を持つ最上位ランクの【チャンピオン】にまた一歩近付くという事でもある。


 なれば尻込みする理由はない……のだが、反面私の中にはいざシグルドと対戦する事になるその時を恐れる、相反する気持ちも内在していた。


 私は本当にあの怪物に勝てる気でいるのか? そもそも勝負にすらなるのだろうか。いや、今は考える時ではない。


 私はアルの顔を思い浮かべながら、シグルドに対する恐怖を取り払おうとした。奴との勝負に負ければどの道殺されるだけだ。そうすればアルのいる所に行けるのだから、怖い事など何もないはずだ。それなのに……


 シグルドが私を殺さずに一生監禁するような選択肢を視野に入れている事が解り、急に恐ろしくなったのだ。しかし尻込みすればシグルドが私に「飽きて」、結局同じように監禁してしまうかも知れない。


 それを避ける為には闘い続ける他なかった。




「【ウォリアー】ランクからは上級剣闘士としての位置づけになるわ。だから観客がそれに納得できるような試合内容にしなくちゃならないわね」



 闘技場内のルアナの執務室に呼び出された私は、彼女から試合内容の説明を受けていた。先日の出来事を警戒してか、傍には2人の帯剣した衛兵が控えている。


「今回はレベル3の魔物とのガントレット戦を行ってもううわ」


「ガントレット戦?」


「複数の相手に対する勝ち抜き戦よ。いつかのゴブリン戦のように同時に戦うんじゃなくて、一匹倒したら次の魔物が入ってくる。それを倒したらまた次の相手……というように連戦してもらう事になるわ。異なる種類の魔物同士は共闘させられないからね。その代わり勿論休憩などのインターバルは一切なし。相手を倒した瞬間、次の相手がアリーナに入り戦闘開始よ」


「……!」


 余りといえば余りな内容に私は絶句する。なんだそれは。しかも相手は先日戦ったオークと同じレベル3の魔物ばかりだと言う。


「……因みに魔物の数と種類は?」


 試合まではまだ日がある。少しでも不利を埋める為に予め対策を考えておく必要がある。その魔物に適した戦い方も訓練しておかねばならない。また数によって体力のペース配分も変わってくる。そう思っての確認だったのだが……


「うふふ、勿論秘密よ。どっちもね」

「な…………」


 私は再度絶句する。ルアナはそんな私の様子を楽しそうに観察してくる。


「敵は全部で何体、つまり何試合あるのか。そしてどんな魔物が出てくるのか……あなたがそれを知るのは、全部当日その時になってからよ。つまり全ての試合が事前対策不能のぶっつけ本番という訳。中々楽しそうな趣向でしょう?」


「な……! ふ、ふざけないで下さい! そんな不公平な条件、許されるはずがないわ!」


 ルアナは嗜虐的な目を私に向ける。


「誰が許さないと言うのかしら? シグルド様や私がそうすると決めれば、それに異を唱える者など居ないわ。それにね……これは観客のニーズに応える為でもあるのよ?」


「ニ、ニーズですって!?」


「そうよ。いつも同じような試合ばかりでは見る方も飽きてしまうでしょう? 観衆に常に新鮮な刺激を提供する為には、時にこうした『演出』も必要なのよ。あなたの人気は【マーセナリー】ランクにしては異例の高さよ。何と言っても唯一の女剣闘士だしね。美貌の女剣闘士は圧倒的不利な条件を覆して無事生き残る事が出来るのか!? 観衆は大いに盛り上がる事請け合いだわ」

 

「…………」


「それにさっきも言ったように【ウォリアー】ランクになるからには、このくらいこなしてもらわないと話にならないのよ。どのみちシグルド様に挑戦したいなら避けては通れない道よ。まあ、精々足掻いてみる事ね」


「くっ……」


 確かにあの神の如き力を持つ怪物に挑もうというのに、高々レベル3の魔物複数に尻込みしていてはお話しにならない。私は唇を噛み締める。やるしかないのだ。


「ああ、後その時の試合内容によってはサプライズ(・・・・・)も用意しているから、楽しみにしていなさい。うふふふ……」


 楽しそうに笑うルアナの不穏な発言と共に、私は退室を命じられるのであった……



****



 それから一週間後、遂に私の【ウォリアー】ランクへの『昇格試合』の日がやってきた。敵の数も陣容も解らない。対策の立てようがない。なので私はどんな状況にも対応できるよう、ひたすら自己の鍛錬とコンディションの調整に費やした。


 勿論不安は付きない。しかし逃げる事が許されない以上、私には戦う以外の選択肢は無かった。ならば相手が何であろうと、今の自分に出来る最善を尽くすだけだ。


 私はふぅ……と一息吐いて出来る限り気持ちを落ち着けると、意を決して青の門を潜った。




 その瞬間、大気が震える程の大歓声と異様な熱気が私を包み込む。




『さあ、皆さん。お待たせ致しました! 今日は亡国の王女カサンドラが【ウォリアー】ランクへ昇格できるかどうかを決定する重要な一戦! 今試合は主催者の意向によりレベル3クラスの魔物とのガントレット耐久戦が行われます! 果たして大罪の王女カサンドラは次々と襲い来る凶悪な魔物達を討ち果たし生き延びる事が出来るのか……凄惨なるサバイバル・マッチが今幕開けだぁぁぁっ!!!』




 ――ワアアァァァァァァァァァァッ!!!



 

 再び大歓声が沸き起こる。大観衆の好奇と侮蔑と好色の視線を一身に受けながら、私はアリーナの中央に立つ。視線の先には赤の門が見える。あの奥に未知の魔物が蠢いている……。


 ふぅ……と息を吐いて極力気持ちを落ち着ける。大丈夫だ。やれる事は全てやってきた。ここまで来たら後は戦い、そして生き延びるだけ。


 私は剣と盾を構えて、油断なく赤の門を見据える。




『それでは一戦目、最初の相手は……狡猾なる魔物、ホブゴブリンだぁっ!!』




「……!」


 赤の門が開くと同時に奇声を上げながらアリーナに飛び込んできたのは……見た目は以前戦ったゴブリンをそのまま成人サイズまで大きくしたような魔物で、槍で武装し、粗末ではあるが板金鎧を身に着けていた。


 ゴブリンの上位種的な魔物とされているが、詳しい研究が進んでいる訳ではないので、何らかの要因でゴブリンが進化するのか、それとも元々上位種として生まれるのか、実際の所は不明だ。


 フォラビアは闘技用に魔物を高額で買い取るので、傭兵や時には軍隊までも魔物狩りに精を出すが、あくまで目先の金の為であって魔物の生態を研究しようなどという動きは、少なくともここロマリオンでは一切なかった。


 ホブゴブリンは一切躊躇うことなく、槍を構えて真っ直ぐ私に向かって突っ込んでくる。速い。少なくとも【マーセナリー】ランクの剣闘士にも劣らない動きだ。


 突っ込んでくる槍の穂先に狙いを定めて、盾を叩きつける。体勢が崩れた所を一気に攻めようとするが、ホブゴブリンは膂力で強引に体勢を立て直すと、そのまま槍を横殴りにしてきた。


「……ッ」


 槍の柄の部分で殴られただけなので大きなダメージは無かったが、一度後退を余儀なくされる。技術は拙いが身体能力は明らかに人間より高いようだ。


 ホブゴブリンは今ので反撃を警戒したのか、ギリギリ槍が届く距離からチマチマと槍を突き出してくるようになった。当然私の小剣では届かない距離だ。


 盾によるバッシュを当てても、そもそも腰の入っていない攻撃なので、ろくに体勢が崩れる事もなくすぐに距離を離されてしまう。だがそれでも刃の付いた武器による攻撃なので完全に無視する訳には行かず、受けるなり避けるなりの対処をせざるを得ない。


 そうなれば当然体力を消耗していく。そうして体力を削って動きが鈍った所で一気に攻めようという腹だろう。知性の低い魔物にしては姑息な戦法。狡猾なる魔物などと言われるだけある。


 このままではマズい。相手がこのホブゴブリンだけならまだしも、この後確実に連戦が控えているのだ。こんな出だしから体力を消耗していては後の戦いが不利になるだけだ。



 私は賭けに出る。狡猾な性格ではあっても、知能そのものは人間より低いのだ。それに賭けるしかない。



 ホブゴブリンの一撃を盾で受けた私は大きく体勢を崩す。疲労で足がもつれて危うく転倒しそうになる。それを好機と見たホブゴブリンは止めを刺すべく、大きく踏み込んで槍を突き出してきた。


 掛かった! 私は即座に体勢を立て直すと、突き出された槍を躱しつつホブゴブリンに肉薄。奴の目が驚愕に見開き事態を理解した時には、私の小剣がその喉を斬り裂いていた。


「ガ……ギャ……」


 ホブゴブリンが血液と体液を撒き散らしながら崩れ落ちる。これで1体。後何体いるのだろうか。

次回は第16話 【マーセナリー】魔犬と魔猫


1回戦を制したカサンドラだが息付く暇もなく次の相手が襲いかかる。

2回戦の相手は、炎を吐く魔犬ヘルハウンドで――!?

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