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09 公爵令嬢の恋心

メイドの声で、茂みから、ゆっくりと人が出てきた。

「くせ者とは無礼なことを言わないでちょうだい!私を誰だと思っているの。貴女なんか、このお城にいられなくしてさしあげてもいいのよ。」

そういい放ち出てきた人物は、ワインレッドの髪を華やかに巻き上げ豪奢なドレスをきた、つり目の、しかしとても美しい令嬢だった。


その令嬢をみて、慌ててメイドは頭を下げる。


私はその様子をみて、小さな怒りを感じる。

どう考えても、怪しい行動をしていたのはこの令嬢だ。

メイドは私を守ろうと忠実に動いただけなのに!


「どこのどなたかは存じせんが、茂みに忍んでいらっしゃるなんて怪しい行動をされていたのは貴女でしょう。」

そう言うと、手でメイドを後ろに下がらせ、その令嬢に対峙するように立ち上がる。


「なっ何をいうの!私は、エリザベス・ハンガリン。公爵家の私にメイドごときが無礼な口を聞く権利はないわ!」

そんな嫌な口を聞くので、私は目を細める。

「まぁ!ハンガリン公爵令嬢ともあろうものが、茂みで覗きをして、罪なきメイドに罪の押し付けをしようと?

恥を知りなさい!!」

私が睨むと、公爵令嬢は、目を見開いたかと思うと目を潤ませ庭園の向こうへ走っていった。


あれ?泣かせちゃった?

なんか、泣かれると私が悪いみたいじゃない?


メイドが、

「有難うございます。」

そういって、私にお辞儀しようとするのでにっこりと手でとめる。

「いいえ。こちらこそ、守ってくれて有難う。」

そう微笑むと、恐縮したように、けれど嬉しそうに顔を赤らめていた。


さて、さっきの令嬢、気になるわぁ。

ハンガリン公爵令嬢ならさっきの公爵と一緒にきたのよね?

なぜ、公爵と別々にいて、しかも茂みで覗きなんてしていたのかしら?

それに、最後の顔。一瞬だったけど、なんとも言えない表情と泣き顔で。

「うん。気になるわ!」

そういうと、私は決めた。

「ユーリがきたらすぐに戻ると伝えてちょうだい。」

私の言葉に、

「お待ち下さい!リルアーナ様!」

メイドが慌てて呼び止めるが、さっとドレスを翻して先程の令嬢が走っていった方向に向かう。


庭園の茂みを抜けた向こうには、大きな噴水がみえた。

そこに人影がみえる。

「エリザベス様?」

そう声をかけて近づくと慌てたように、目頭を拭った令嬢が、

「ちっ近づかないで!あっちへいってちょうだい!」

そういって両手を押し出してきた。

近寄ろうとしていた私に、急に押し出してきた両手があたり、思わずバランスを崩してしまう。


ヤバイ!噴水に落ちちゃう!

後ろ向きに噴水に落ちるような形になり、流石に顔色を変えた。


そこへ、

ふわぁ。一瞬優しい風が吹いたかと思うと、噴水側から体が押し戻される。

そのまま、噴水の側の地面にゆっくりと座りこんだ。

噴水に落ちずにすんだことに安堵しつつも、


・・・何?いまの風?

とても優しく助けてくれたみたいな。

もしかして、アロー?

キョロキョロと周りを見渡すが、そこには誰もいなかった。


そのかわり、

「私は、私はどうしていつもこんな・・」

私と同じく、噴水の側にへたりこんでいた公爵令嬢エリザベス様がいた。


とりあえず、エリザベス様を立たせる。

「お泣きにならないで。先程のは偶然手が触れてしまっただけだということ、わかっていてよ。それに、ほら!噴水に落ちなかったもの。」

私がクルリとその場でまわつてみせると、エリザベス様は、私の行動に驚いたように目を見開いた。

私がにっこりしながら、エリザベス様を覗きこみ、

「ねっ?大丈夫でしょう?」

そういうと、何故かエリザベス様のお顔は真っ赤になっていた。


それから、少し、エリザベス様と話をした。

最初は、どれだけ傲慢な令嬢かと思ったが、確かに気位は高そうだが意外と話しやすく驚いた。

ただ、気になることがあったので聞いてみた。

「ねぇ。エリザベス様はどうして、私の顔をみないの?すぐにお顔を赤くされるし。」

その言葉に、更に

顔を真っ赤に染めてエリザベス様は俯いてしまった。


「...ユリウス様にとてもよく似たお顔を近くでみるだけで緊張してしまって。」


ユーリと似た顔でなんで緊張するの?

私は意味がわからず、

「ユーリと似た顔に緊張するの?ユーリってば、意地悪なことでもしたのかしら?」

ユーリは、私には優しいけど、女性全般に優しいタイプではない。敵と味方をきっちり分けて対応する所がある。

女性的な一見優しい見かけをしているが、意外と毒舌で人への好き嫌いも激しいタイプだ。

だから、この令嬢も意地悪でもされたのかと思ったのだが、


「違います!ユ・・・ユリウス様は何も悪くないのです!私がただだだユリウス様に懸想しているだけなのです!」

驚く私に、エリザベス様は堰をきったかのように話しはじめた。


出会いは、私達の社交デビューの時。

ちなみにエリザベス様は私達の1歳上で既に社交デビューしていたらしい。

そこで、見つけたユーリに一目惚れしたらしい。

「いつも本を読んでは憧れていた、王子様そのものの方がそこにいたんです!!」

令嬢とは思えない鼻息の荒らさで語りうっとり目を瞑る。

「一目見た瞬間、電流が走りましたわ。あの素晴らしい銀髪に優しそうな藍色の瞳。まだ少年のあどけなさを残しつつ、まさに青年になろうかという凛凛しいお姿。」

ほぅと瞳を潤ませエリザベス様は語り続ける。

「パーティーでもそんなユリウス様に頬を染め近づこうとする令嬢が多くいて、焦ってしまいましたの。私を見てほしい、私の名前を覚えて欲しい!そう思うあまり、周りもみえず、がむしゃらにユリウス様にまとわりついて、結局離れるようにキツく言われてしまって、ようやく我に返りましたの..」


「私はいつもそう。思い込んだら周りがみえなくなるの。先程もユリウス様のお姿を一目見たくて、茂みに隠れて覗きなんてことをしてしまうし。そんなみっともない姿を晒してしまって、恥ずかしさで酷い言葉を吐いてしまって、、それを貴女に責められて逃げ出して、更に貴女に危害まで。」


エリザベス様は項垂れながら、

「お父様に第一王子殿下に嫁ぐように言われているの。

私も貴族の娘。家のために結婚しないといけないと分かっているわ。でも、どうしてもユリウス様のお顔が頭から離れなくて。そんな時、今日、ユリウス様と貴女が登城すると聞いたから、私も今日ならとお父様の命に従って、第一王子殿下との顔合わせのために登城していたの。でも、お庭で銀色の髪が見えたと思った瞬間、お父様の手を振り払ってお庭に飛び出していたの。そこでティーセットの準備をされていたのを見つけて、きっとここでユリウス様がお茶されるのだと思うと、もう一目だけでもお姿をみたくてお会いしたくてたまらなくて、茂みに隠れるなんて真似を..本当にごめんなさい。」


そう謝るエリザベス様の手を優しく叩いた。

「エリザベス様は真っ直ぐだけど、ちょっと周りが見えなくなってしまうのね。」

私はそう言って笑った。


まるで、小さな猪ね!とも思ったけど、それは、心でのみ納めた。


「先程の失礼な態度はもう気にしていないわ。私は、そんな真っ直ぐなエリザベス様のこと嫌いじゃないわ。」

その言葉にエリザベス様は真っ赤になった。


その様子をみていると不思議な気持ちになる。

ユーリを好きな女の子かぁ。

そりゃユーリは自慢の弟で、顔も性格もいいと思うわ!

でも、いつも2人で手を繋いで同じ道を歩いていたのに、急に周りに道がいくつも広がって、色んな人や物事が私達を違う道に誘っているように感じる。2人の道が少しずつ別れ、別の道を歩きだしている。

好きな人かぁ。

真っ赤な顔で項垂れるエリザベス様をみていると、今まで考えたこともなかった「好き」という気持ちが身近にあったことに驚く。それは家族への好きとは違うのだろう。


「いいなぁ。」

小さく呟いた。

私も恋愛の書かれた小説は読むし、その中の王子様にも憧れる。

だけど、すぐに呪いの事を思い出すと気持ちがシュルシュル沈むのだ。だって、家族以外の人を「好き」になってしまったらどうしたらいいの?

私はお嫁になんていけない。

猫になる呪われた体なのだ。

万一猫でもいいなんて言ってくれる人がいても、この体で子供は生めるの?貴族に嫁ぐということは、子孫を残すことを望まれる事は分かりきっている。

私はそんな義務は果たせない体なのかもしれない。

だから、家族だけでいいと思ってきた。

家族以外の「好き」なんていらないと思ってきた。


でも、真っ赤な顔で真っ直ぐにユーリに恋をしているエリザベス様は猪みたいだけど、とても綺麗で可愛いらしくみえる。

それが、何故かとても眩しくて羨ましかった。


私もいつか誰か好きになるのかな?

そう呟けば、一瞬、偉そうなアローの蛙姿が浮かんで笑ってしまった。

蛙はないわぁ。

でも、アローは家族以外でゆっくりお話した初めての男性になるのかしら?そう思うと、少し沈んだ心が可笑しくなってきた。

そこへ、


「エリザベス!!」

そう怒る公爵が現れた。

涙でメイクが崩れたエリザベス様をみて、公爵が私を睨む。


「アルフィルム家ごときが、このハンガリン公爵家を愚弄したか!エリザベスに何をした!言え!」

睨みながら私を激しい口調で問い詰め、向かってきた。

叩かれる!?

恐怖で身を竦めながら目を瞑ると、


「止めて!お父様!違うの。私がリルアーナ様に失礼を働いてしまったの。リルアーナ様は助けて下さったの!」

エリザベス様が公爵の腕にしがみついた。

同時に、

フワッ!小さく強い風が公爵の足元を吹き抜けた。

風と共に舞う砂ぼこりに一瞬目をしかめると、公爵は足をとめる。


「リリィ!」

そう私を呼びながら、ユーリが現れると公爵は舌打ちした。


「行くぞ!なんだその顔と格好は!そんな姿では王子殿下にお会い出来ないじゃないか。急にいなくなるから探してみれば、何てことだ。全くお前ときたら、どうしていつもそうなのだ!」

そう公爵はエリザベス様を引っ張るように連れていこうとした。

エリザベス様は、潤んだ目でユーリを見上げ、私に目を伏せ申し訳なさそうにすると公爵に連れられて去っていった。


「リリィ!大丈夫?何もされてない?」

ユーリが私に駆け寄ると、ドレスの汚れを払ってくれた。


「大丈夫よ。有難う」

そうニッコリ微笑めば、

「さっきメイドから何があったか聞いたよ。なんであの公爵令嬢を追いかけるなんてことしたのさ。待っててっていったよね?」

ユーリに叱られてしまった。

「全くあの令嬢は疫病神だ」

そういうユーリに、

「エリザベス様は嫌な方じゃなかったわよ」

私がそういうと、ユーリは呆れた顔で呟いた。

「リリィはお人好しなんだよ」


ユーリは私の腕を引っ張って、

「さぁ。美味しいデザートの続きをいただいて、早く帰ろう!」


その言葉に私も頷いた。


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