07 王への謁見
ユーリは何度もため息をついていた。
「温室なんて初めて!楽しみね!」
私の言葉にユーリは、
「リリィ。頼むから大人しくしていてよね!」
そんな苦言をしてくる。
もう!わかってるわよ。
ちゃーんと猫被るにゃーんだ。
数日前、お父様が王宮からの召集状を持って飛び込んできた。
「どういう事ですか!王から直々の招待だなんて...。まさか、リリィの呪いがバレたのですか?」
慌てふためくユーリにお父様はまぁまぁと宥める。
「そういうことではないようだ。内容的には、この前の第一王子殿下のパーティーで華を添えた2人への報奨ということになっているが。」
首をかしげるお父様に、ユーリがはぁ?!っと声を出す。
「なんですか、それ。僕達は確かにダンスは踊りましたが、目立つことも特にしていませんが・・」
「それが、踊る2人がとても華やかで美しかったので、報奨として王への謁見、またリリィが庭を気に入っていたようだから、王宮の温室へ招待するとの事なんだ。」
お父様の言葉に、ユーリが怖い顔で私をみつめる。
「・・リリィ。あの日庭に出て何したの?どうして王がリリィが庭園に出た事を知っているの?」
私はブンブン首をふる。
「知らないわ!下品な男の人には会ったけど、王族の方になんかお会いしていないし、お話だってしていないわ!」
あっ!と手を口にあてるが、結局、下品な男性の事を話すことになり、軽率な行動をユーリとお父様に怒られてしまった。
はぁ。失敗。
「どうして王が、リリィが庭に出た事を知っていたのかは分からないが、王がリリィに会いたがっていることは間違いないね。」
ユーリの言葉に私は首を傾げる。
「僕に会いたいなら、僕はもうすぐ登城するのだからわざわざ呼び出す必要はない。これは実質、リリィへの招待だよ。」
ユーリの言葉に更に私は困惑した。
「なぜ私なのかしら?」
その問いにユーリもお父様も首を振って分からないと答えた。
「厄介だー」
ユーリがそう言って空を仰いだ。
「これでリリィは一気にどちらかの殿下の婚約者候補だ」
その言葉に私はびっくりする。
「あり得ないわ!私は猫になってしまうのよ!嫁ぐなんて出来ないわ」
「わかってる。でも、周りはそうは見ないんだよ。王直々の招待だ。王子が懸想したか王が気に入り婚約者にしようとしてるのか?そんな風に思われてしまうんだよ。リリィは身分的には侯爵令嬢で王族に嫁いでも問題ない身分なのだから、より信憑性があるんだ。」
「・・・」
ユーリの言葉に私は驚く。
お父様を不安気に見上げると、お父様に撫でられた。
「とりあえず、直ぐに婚約者候補になるわけじゃない。謁見の話でしばらくは騒がれるかもしれないが、婚約者にならなければ周りも落ち着いていくから大丈夫だ。」
そんなお父様の言葉に、私は力こぶしを作った。
「わかったわ!王様に気に入られないようにしたらいいのね!」
そう叫んだ私に、
二人は慌てて
「落ち着いて!王に何かしたら不敬罪だから!僕達が何とかするから、お願いだから、リリィは何もしないで!!」
そう私を押さえてきた。
・・さすがに不敬罪になるような事しないわよ。
失礼ね!
その数日後、王への謁見の日。
ため息ばかりつくユーリと一緒に馬車に揺られていた。
「もう!そんなにため息つかないで。こうなったら、楽しまないと勿体ないわよ!」
私の言葉に、深いため息でユーリは返事を返してきた。
王宮に着くと、侍従長が出迎え、王宮の間に案内してくれる。
広い広い王宮内の通路を歩く。
キョロキョロ興味深げに見回していると、ユーリに腕をつつかれ無言で注意される。
にっこり笑ってみせると、またため息をつかれた。
ため息つきすぎて幸せが逃げちゃわないか心配になるわ。
謁見の間につくと、
「ここでお待ち下さい。」
侍従長はそういって下がる。周りには国の重臣達や衛兵が並び、そのものものしい雰囲気に私とユーリの緊張も高まる。
どのくらい待っただろう。私達が入ってきた扉とは違う奥の扉が大きく開き、王がゆっくりと歩いてきて椅子に座った。
私とユーリは、深々と頭を垂れて王からの言葉を待つ。
「頭をあげよ」
王様の言葉に頭をあげて、王を見上げる。
「ユリウス・アルフィルムでございます」
「リルアーナ・アルフィルムにございます」
二人で丁寧に最敬礼をしながら、名乗ると、王はゆっくり頷いた。
「本日はよく来てくれた。先日の宴での踊りは見事であった。アルフィルムの光輝く双子星とはよく言ったものだ。噂に違わぬ美しさと、輝くダンスで宴に華を添えてくれたこと、心から感謝している。」
王様の、想像以上の誉め言葉に、ユーリと2人恐縮してしまう。
でも、予想外のとても優しい言葉と雰囲気に、ふわりと口元が緩む。そのまま、王様を見上げると、緑色のとても綺麗な瞳と視線が会い王様も口元で笑ってくれた。
王様優しい!
気持ちがふんわりして、にっこり笑いかける。
すると、王様は一瞬驚いた顔をしたあと、とても優しく笑って下さった。
王様の様子に、周りから息をのんだ気配がした。
私は笑顔で、細められた綺麗な緑色の瞳を見つめる。
・・この瞳、どこかでみたことあるような?
なぜだか懐かしい、安心する緑色の瞳を見上げていると、
「リルアーナ・アルフィルム嬢。宴の時に庭園を気に入っていたようだと聞いている。本日も、庭園と温室を楽しんでいってほしい。・・・また、今後、自由に庭園と温室に入る許可を与える。」
その言葉に、横のユーリが息をのむ。
「以上だ。」
王様はもう一度私に笑いかけると、立ち上り、部屋を後にしていった。
私とユーリはその言葉に固まった。
王が、完全に部屋から出て行くのを確認し、
「リリィ!」
何故かユーリに怒られた。
えっ!私、何もしてないけど!
「・・はぁ。王宮の庭園と普段は王族しか入れない温室への出入りの自由を認められただなんて!これで、リリィが王から目をかけられている事は一気に周知の事実となる。婚約者候補最有力入りだ。」
ええー!それは困る!
どうしよう?と泣きそうな顔でユーリを見上げると、
「とりあえず帰ったら、父上と相談しよう。」
そういいながら、
「絶対にリリィは守るよ」
強い瞳で私をみつめるユーリに、うん。と頷いた。