小話03後編 私の王子様 ~ロザリオ+α視点~
後編です。
前編からお読みください。
何度も何度も書き直しましたが、力不足を痛感する作品になりました。
それでも、最後までお読みいただき有難うございました。
ヴィーは少し離れている間に少しだけ熱が下がっていた。
ほんの少しだがお水を飲めたと、リルアーナ嬢が喜んでいる。
しかし、この症状は僅かな一時的だということは私自身が一番分かっている。
ヴィーのそばで膝をつく。
「ヴィー?」
私が声をかけると、ヴィーの瞼が揺れた。周りがはっと気づき目を向ける。
ヴィーの視線は彷徨っている。
「・・ロシー・・おい・ちゃま。ど・・こ?・・くる・・ち・の。たち・・けて」
「うっ」
ヴィーが弱弱しく発した言葉に堪らず、リルアーナ嬢が口を押さえる。
ずっと泣くのを我慢していたその目に涙が浮かぶ。アレクがその肩をそっと抱いていた。
私は、ヴィーの手を握りしめた。
激しい怒りが湧いてくる。
こんな幼子になんの罪があるというのか!
私は、一刻も早く新しい薬を作る為、部屋を出てクロスの様子を見に行こうとした。
その途中、メイド達がこそこそと話をしているのが聞こえる。
「聞いた?ヴィクトリア様のこと。」
「聞いたわ。まさかアナが元テナン家の当主と出来ていたなんて!しかもこんな事件を起こすなんて信じられないわ」
「ねー!それにしてもテナン家は我国最大の反逆者ね。ヴィクトリア様お可哀想に」
「でも、ロザリオ様が治療に当たられているのですって!」
「えー!ロザリオ様こそテナン家の方じゃない。大丈夫なの?」
「確かに。ロザリオ様って毒の研究されているんでしょう?まさか毒を持ち込んだのって・・」
「ちょっと!そこまで言うと不敬罪よ!」
「だってー」
メイド達の話に体が固まる。
こんな話は、ローズ様の事件以降15年間、密かに噂されているのを何度も聞いてきた。
犯罪者の子供。狂人の息子。
ここ数年、あまりに穏やかな時間を過ごした為忘れかけていた。自分は加害者側の人間なのだと。
足早に去ろうとした、その時、
「いい加減にしなさいな!ロザリオ様は、必死にヴィクトリア様の治療をして下さっているわ。憶測でおかしな事言わないで!」
通りかかったヴィクトリア付きのメイドが怒気をこめて、噂しているメイド達を叱りつける。
メイド達は気まずそうに、その場を離れていく。
「ロザリオ様」
呆然と見ていた私に、いつの間に側に来たのかクロスが立っていた。
「口さがない噂などに惑わされてはいけません。分かっている者はちゃんと分かっております。ロザリオ様。貴方様もまた被害者なのです。その血を、自分を責める必要はないのです。」
クロスの瞳は揺るがない。
「どうぞお忘れなく。貴方様の家族は、テナン家ではない。王やアレク様達こそが貴方様の家族なのです。」
クロスの言葉は染み入るようで、私は軽く頷いた。
そんな私を見た、クロスが、
「毒蛇の準備が出来ました。作成に入りましょうか。」
その言葉に頷き、クロスの準備した部屋へと入った。
覚悟を決め、毒蛇に私の足をしっかり噛ませる。
瞬間、激しい痛みが体中を駆け巡る!
みるみる噛まれた箇所の色が変質する。
「ロザリオ様!」
クロスの心配そうな声を、手を上げて、大丈夫だと返す。
後は、しばらく様子を見る。
どうか私の血よ!私の体よ!
毒に耐えてくれ。
・・・どの位時間が経っただろうか。
俺の意識は、少し途切れていたらしい。
「さすがですな。あの毒を受けても微熱で済んだようです。」
「気を失っていたのか。時間は?ヴィーの様子は?」
「もう夜になっております。ヴィクトリア様は再び熱があがっております。ロザリオ様の指示通り、再び熱冷ましの薬を与えたようですが先程のようには下がらないようです。今はもう意識もありません。」
その言葉に、焦る。
「すぐに私の血を抜く。剣を持て。」
一度息を吸い込み、今後の作業に影響の少ない、利き手とは逆の自分の腕を剣で切る。
痛みにうめき声が漏れる。
「クロス。他人の血液を与えることは良くない。お前の魔力を注ぎ込み、この血液を精製してくれ。」
俺の言葉に、クロスは頷く。
「貴方様の血液と調合された薬草の、毒消しの力のみを残し、更に結びつけ、効果が強化されるよう魔力に祈りを加えてみます。・・さて、どうなることか!」
光が溢れ、赤黒かった私の血液と、薬草の薬が混ざりあり、目の前に浮かんでくる。
光が消えた時、目の前の容器には、琥珀色な透明の液体が出来ていた。
「さて。出来ましたな。次は私の番ですな!」
そう言うと、躊躇いもなくクロスはその液体を半分飲みほす。
「さて。この爺の体に半刻経っても影響がなければ、体に害はないと判断出来ましょう。まずはその間にロザリオ様の治療を。勢いよく剣を刺したものです。」
クロスが言うには、面白い薬が出来たと言っていた。
薬からは魔力の残滓がキラキラと輝いているらしい。
悪いものでは、きっとありませんよ。
クロスの言葉に安堵する。
そして、クロスの言葉が真実であったようで、クロスの体には一切の異変は起きなかった。
※※※
ヴィーの所に戻ると、父上も来ていた。
その顔は青く、皺が一晩で深くなったようだ。
父上は、国外追放したテナン家のものを徹底的に追いかけているときく。
その怒りは凄まじく、全てのテナン家縁のものが今度こそ処刑されるかも知れない。
しかし、今は、ただただ孫娘のヴィクトリアを思いそのお心を痛めているのがわかる。
ヴィーは、もう、意識もないはずだが、
その顔は苦痛に歪み、真っ赤な顔で、斑点のようなものも体に現れだしている。
噛み傷の変色部分も広がっているようだ。
すると、突然、
ガクガクガク!!
ヴィーの体が痙攣を起こす!
「ヴィー!!」
リルアーナ嬢がヴィーにしがみつこうとするのを抑え、吐瀉が発生しないように向きをかえ、衣類を緩め、体を冷やす。
すると痙攣は落ち着いてきた。しかし、もう猶予はない。
真っ青なリルアーナ嬢達に、
「今から新しい薬を投与します。」
そう告げると、ゆっくり薬を飲まそうとするが、意識のないヴィーは飲みこめない。
私は、薬を自分の口に含み、ヴィーに口移しで飲ます。
コクン。
のどがゆっくり上下するのが見える。
飲んだ!ほっと息を吐くと、もう少し飲ませるために、再び薬を含んだ。
新しい薬は劇的だった。
しばらく時間がたつと、ヴィーの意識が戻ってきたのだ。
まだ目は彷徨い、高熱もあるが、
「おか・・ちゃ・・ま。」
声を出すヴィーに、涙を止められないリルアーナ嬢が何度も、「そうよ。お母様よ。」そういいながら、その手を握り、髪を撫でた。
私は、様子を見ながら、残っていた薬を飲ませる。
空が明るんできた頃、ヴィーはまだ熱はあるものの、その呼吸は明らかに落ち着き、深い眠りに入っている。
誰の目にも、大きなやまを越えたことは明らかだった。
「ふぅ。」
一息つくと、部屋を出た。
良かった。声にならない声が漏れる。
私自身、まだ蛇に噛まれた体は微熱を持ち、剣で刺した腕は痛みがあるがそれ以上の充実感だった。
私のこの血で、この手でヴィーを助けることが出来た。守ることができた!
そう思うと堪らず自分の体を抱きしめた。
「兄上。」
そんな声に顔をあげると、アレクに抱きしめられた。
「兄上。有難うございます!」
アレクは泣いていた。
「兄上がその身を傷つけてまで、ヴィーの為に薬を作って下さった事をクロスより聞きました。俺は、本当にいつも兄上に助けられてばかりだ!」
アレクの言葉に、肩を叩く。
「気にすることはない。私は私の出来ることをやったまでだ。」
その言葉に、アレクは一層私に強く抱きついてくる。
「兄上。貴方という人は・・。必ず、このご恩はいつか必ず!」
アレクと共に部屋に戻ると、リルアーナ嬢と父上にも手を握られ、何度も何度もお礼を言われる。
部屋にはホッとした笑顔が溢れている。
この笑顔を守れた事にも満足する。
そして、この笑顔の中に自分が違和感なく溶け込んでいることに改めて嬉しさを覚えた。
少し前の、父上やアレク達こそが家族なのだと言った、クロスの言葉が思い出される。
「私の家族・・か。」
そう思うと、こそばがゆくもあり不思議な気持ちだ。
「ロジーおじちゃま!」
翌日には熱も落ち着き、ロジーははっきり言葉を発することもできた。
診察に現れた私を見ると、とても嬉しそうにする。
「ロジーおじちゃまが助けてくれたんでしょ?ロジーおじちゃま、ありがとう!!」
嬉しそうに、私の手を持ちスリスリ甘えてくる。
「ずっと、ロザリオ様の話ばかりして待っていたんですよ」
にっこり笑う、リルアーナ嬢の瞳も明るい。
まだ、噛まれたところは紫色だが、体にあった斑点は消えている。
呼吸困難なし、熱も微熱程度、少しだけ食事もとれたと聞き、更に安心する。
そんな風に、ヴィーを診察したり様子を聞いていると、
突然、口に温かいものがくっついてきた。
「あらっ!」
リルアーナ嬢の驚く声がする。
「なっ?!」
アレクの驚愕の声もする。
「あのね、ヴィー。ロジーおじちゃま大好き!お嫁ちゃまになるの!約束ね。」
そう言って、私にもう一度口付けしにっこり笑うヴィーがいた。
「ヴィーに結婚なんて早すぎるー!」
絶叫しているアレクの声が聞こえる。
何を、4歳の子供の言うことを間に受けているのかと、可笑しくなる。
「4歳の子供の言うことに何を焦っているんだ。」
私がいうと、
「そうだな。うん。まだ4歳なんだ」
「あら。でも、ヴィーの初恋はロザリオ様なのは間違いないわね。ヴィーもあと10年と少しで成人よ。5年間一番の好きがロザリオ様なのよ。あと、10年位本当にずっと好きでいるかもしれないわ」
リルアーナ嬢の言葉に、アレクは、真っ青な顔でうめき声を上げている。リルアーナ嬢をちらりとみると、しーっと口をおさえて、私をみて微笑んだ。
どうやらアレクをからかって楽しんでいるらしい。
困ったものだと首をすくめながら、キラキラの瞳で見上げてくるヴィーの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めてきた。
ヴィー。
君を助けられて本当に嬉しい。
ローズ様も母上も助けられなかった。でも、君を助けることはできた。
自分がいて良かったのだと、自分が誰かの力になれたのだと心から思えた。
君が生まれてきてくれて、君が生きてくれていて本当に嬉しい。
これから先の君達の健やかな成長を、アレク達と見届けていける今が、本当に幸せだ。
※※※
私の名前は、ヴィクトリア。この国の王女なのよ!
私には、大好きな人がいるの!
ロジーおじちゃまよ。
真っ黒な髪と紫色の瞳がとても綺麗なの。
少し前に、毒蛇に噛まれて、とってもとっても苦しかったけど、その時もロジーおじちゃまが助けてくれたの!
ヴィーって優しく呼んでくれる声が大好き。
撫でてくれる手も大好き。
ずっとずっと一番大好き!
早く大きくなりたいな。
今のままじゃ、全くレディーとして扱ってもらえていないもの。
お父様は、結婚は焦ることはない!と毎日私に言って聞かせてくるけど、私は早く大きくなりたいの。
これからは、お野菜もちゃんと食べるし、お勉強も頑張るわ。
そうしたら素敵なレディになって、ロジーおじちゃま誉めてくれるかしら?
早く大きくなるから、待っててね。
大好き。私の王子様ー。




