26 未来へ
これにて、蛙の王子様と猫のお姫様の本編は終了です。
お読みいただき有難うございました。
あとは、その後の話といちゃらぶ話を小話としていれて完結予定です。
よろしければ、そちらもお読みいただければ幸いです。
兄上が落ち着くのを待ち、父上が召使達を呼ぶ。
ウインターの遺体が謁見の間から、運ばれていく。
テナン伯爵は、命こそ取られていなかったが、口から泡をはきカローラ様を罵る言葉を呟き続けていた。
精神がおかしくなったのは誰の目にも明らかだった。
そのテナン伯爵も侍従達に連れていかれた。
そして、ハンガリン公爵はその様子をみると、父上に深く一礼し、
「この度の私の罪、どのような処罰も受け入れさせていただきます。」
そういうと、静かに謁見の間を辞していった。
父上は、関係のない者達も遠ざけた。
残ったのは、アルフイルム一家と爺やのみになる。
父上は、椅子に戻ると息を吐き出した。
「ロザリオ。アレクサス。ここへ」
その言葉に、兄上と俺は父上の前に立つ。
「2人には、不甲斐ない父親であったこと、改めて申し訳なく思っている。本当にすまなかった。それでも、2人の力により、15年前のローズの事件、隠されていたカローラの件が全て明らかになり、今、その無念を見事晴らせたことを嬉しく思う。」
父上の言葉に、事件が終わった事が改めて胸に熱い思いとして盛り上がってくる。
「父上。お願いがあります。」
「言ってみろ。」
「私は、降家し、神殿に入りたいと思っております。」
兄上の言葉に、俺は慌てて兄上を見る。
「アレクはきっと善き王になりましょう。この国はアレクが守ってくれる。だから私は王位継承権を放棄し、この後は、ローズ様と母カローラを偲び、この国を影より見守りたいのです。」
「兄上!」
俺は、せっかく近づけた兄上がまた遠くに離れていくことに焦り、兄上の名を呼んだ。
そんな俺に、兄上は少し笑った。
「アレク。幼き日の約束を果たそう。私の後ろ楯であったテナン家には重い罪がある。爵位は剥奪され、類をみない重い刑が下されるはずだ。俺もそれに倣う。無用な争いを避けるためにはこれがいい。私は王族を離れるが、お前の治世を影ながら支えることを誓おう。」
そんな覚悟を決めた兄上に、俺は一瞬泣きそうになったが、しっかりと頷く。
「兄上。まだまだ未熟な私ですが、この国を守れる王になることを誓います。母上はお互いに支え合うよう私達に約束させたのです。兄上、例え兄上が王族を離れようとも、兄上に何かあれば必ずや駆けつけることをお約束します。私もずっとあの日の約束を胸に生きてきたのです。」
俺が兄上の目をしっかりとみつめ誓いを捧げると、兄上は目を細めて微かに笑うと頷いた。
「ロザリオ。そちの願い聞き届けよう。しかし、我もまたお前の父であることは生涯変わらない。この15年もの間、私達はお互いを思いながらも距離をとり、離れてしまっていたのだな。」
父の言葉が、15年という長い年月の重みが、俺の胸に突き刺さる。
「リルアーナ嬢。ここへ。」
父上は、次にリリィを呼ぶ。
リリィがゆっくりと父上の前に進み出て、頭を下げる。
「頭をあげよ。呪いのこと、色々と疑問に思うことがあろう。明日、是非朝食を一緒にとろう。そこで、真実を2人には話そう。」
そう言うと、侍従を呼び何かを言付ける。
侍従は、急いで、謁見の間の、大きなカーテンを開けた。
いつの間にか、空は暗くなり、月が出ていた。
「時刻は、夜の7時を過ぎたところだ。アレクとリルアーナ嬢の呪いは解けたのだ」
蛙にならない自分。解けた呪い。
俺はその事実を噛みしめ、リリィの手をとる。
リリィは一瞬驚いた顔をした後、嬉しそうに笑って俺を見上げてきた。
そんなリリィと手を繋ぎ、2人で月を見上げた。
※※※
私はユーリと、ドキドキとその時を待っていた。
「・・・11時だ」
ユーリの言葉に、私は、呆然とする。
「本当に呪いが解けたんだ。」
私の言葉に、ユーリが嬉しそうに抱きついてきた。
じわぁと目に涙が浮かぶ。
謁見の間での出来事の後、アレクサス様とクロス様は私から呪いの気配は無くなった。呪いは解けたのだと仰ったけど、魔力のわからないユーリと私はいつも猫になる時間を、緊張して待っていたのだ。
「リリィ。おめでとう。」
お父様もゆっくりと私を抱き締めてくれた。
「明日早朝手紙を持たせ家に早馬を走らせよう。手紙を読み、ユリアがどれほど喜ぶだろうか。」
お父様の言葉に、喜ぶお母様の姿が目に浮かんできて、とっても幸せな気分になる。
「でも、もう猫の私はいないのね。」
声に少しだけ寂しさが混じる。生まれた時から猫だったのだ。
猫の私もまた私自身だったのだから。
「あのふわふわの毛並と尻尾にもう触れないなんて、確かに少し寂しいね。」
ユーリもすこし寂しそうだ。
幼い頃はあんなに猫の私を羨ましがって泣いていたものね!
そんな私達の様子に、お父様はおやおやと目を細めた。
「それじゃあ。リリィに似せた銀色の毛並とピンクの瞳の猫のぬいぐるみでも作ろうか?」
お父様の言葉に、私は
「素敵!この蛙のぬいぐるみと一緒に飾るのよ!」
そういって、蛙のぬいぐるみをぎゅーっと抱き締めた。
そんな私をみて、お父様が真剣な顔で聞いてきた。
「リリィ。王とアレクサス殿下の申し出を受け、婚約の話を進めてもいいんだね?」
私は、顔を赤らめながらも、しっかりと頷いた。
そんな私をみて、ユーリが私のベッドに倒れこむ。
「リリィが王妃様とか信じられないよ!」
「私もよ。でも、ユーリへの気持ちはずっとずーっと変わらないわ」
そういって寝転ぶ私をユーリは嬉しそうに見つめた。
「僕もだよ。リリィが王妃になっても、僕にとってリリィはずーっと今と同じ特別だ。」
2人で寝転んだまま笑いあう。
お父様は私達を嬉しそうに見つめていた。
翌朝、私は緊張しながら席についた。
だってだって!王様と朝食ってかなり緊張するわ。
陽射しのたっぷり入るテラスでいただく食事は、本当に美味しかった。
緊張していた筈なのに、フカフカのパンがとても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまった。にっこりご機嫌な私の様子を楽しそうにみてくる王様とアレクサス殿下の瞳はよく似ていて、親子なんだと改めて思う。
初めて王様にお会いした時、そのグリーンの瞳に見覚えがあると思ったのはアローの瞳だったのね。
一段落した後、王様は私とアレクサス殿下に、15年前のローズ様が行った事をお話して下さった。
アレクサス殿下も初めて聞く内容に驚いた様子だった。
そして、王様は私に、頭を下げて詫びられた。
「そんな!王様、お顔をおあげ下さい。呪いはやはり気持ちのいいものではありませんでしたが、私には私が呪い持ちでも慈しんでくれる家族がおりました。それに、私が半分呪いを持つことで、アレクサス殿下が生きてここにいて下さるのでしたら、これほど嬉しい事はございません。」
私がにっこり笑って告げると、王様も嬉しそうに微笑んで下さった。
「父上。それでは、あの時呪いが解けたのは、お互いの気持ちが重なったからだったのですね。」
アレクサス殿下の言葉に、王様は頷く。
「きっとそうなのだろう。お互いの気持ちがぴたりと重なり、愛しあい、口付ける事。それが呪いの解除の鍵だったのだろう。」
王様の言葉に、私とアレクサス殿下は照れたように笑った。
朝食後は、アレクサス殿下と一緒に温室に向かった。
手を繋いで歩くだけでドキドキする。
「あの、アレクサス殿下?」
私が話しかけると、アレクサス殿下は苦笑した。
「リリィ。君はもう俺の婚約者だ。もっと軽く呼んで欲しいな。」
そんな事を仰るから、
「じゃあ、アレク様?」
私が呼ぶと、そうだね、と頷きながらも、
「アレクは人がいる場所だけがいいな。2人きりの時は、満月の夜のようにアローと呼んで欲しい。」
アレク様のお願いに私は頷いた。
「でも、どうしてアローなの?」
「アローという名前は、母上が俺につけた愛称なんだ。兄上は、ロザリオでロジー。俺は、アレクサスでアロー。ロジーとアロー。そうこの温室や庭園で俺達の事を呼んでいたんだ。」
アレク様の言葉に、そんなに大切な名前だったのね。と私が呟くと、アレク様は頷いた。
「今はもう誰も俺の事をアローと呼ばない。だから、リリィ。君だけが呼んでくれる?」
アレク様の言葉に、
「アロー。私の大切な蛙さん。アローの名は私にとっても、とても大切な名前だわ。大切に呼ぶね。」
私はそう微笑んだ。
次の瞬間、アレク様に強く抱き締められる。
「リリィ。」
アレク様は私の名前を耳元で呼びながら、軽く唇を合わせてきた。
一気に顔が赤くなる。
「嫌?」
アレク様に聞かれて、私は、嫌じゃないと首を横にふる。
すると、次は、さっきよりも、長く深く口付けられる。
「んっ・・」
呼吸が出来なくて、合わさった唇から声が漏れる。
アレク様は長く長く口付けて、それでも名残惜しそうに唇を離した。
私は、赤い顔をしたまま呟いた。
「どんどんユーリへの内緒が増えちゃうわ。」
そんな私の呟きにアレク様はおかしそうに笑った。
「もう、満月の夜に会えないのね。」
私の寂しそうな呟きに、アレク様は私を抱き締め、
「出来るだけ、会いに行くよ。婚姻が済めば、ずっと一緒だ。リリィ。君となら俺は何があっても耐えていける。有難う、俺の呪いを一緒に抱えてくれて。そして、俺を愛してくれて。」
そう囁いて更に強く抱き締めてくる。
力強く、温かなアレク様のぬくもりを感じながら、私も返した。
「あのね、私は今とっても幸せで、アローの事を思うとドキドキするの。愛してるわ。ずっと、一緒にいようね。」
私の言葉にアレク様は、本当に嬉しそうに頷き、笑ってくれた。
何度も何度も口付けを交わす。
私も、アローとなら何があっても耐えていける。
今までずっと、ユーリと手を繋いで歩いてきた。
でも、これからはアローと手を繋ぎ、未来を歩く。
何があっても、もうこの手は離さない。
私達は、しっかりと手を繋ぎ、未来を見つめて、歩きだした。
~fin~




