24 断罪の時
謁見の間ー。
俺は、テナン家当主である伯爵と向きあっていた。
テナン当主は、もう60歳になろうかというのに、その髪は白くとも艶があり、眼差し鋭く俺を射ぬく。
「この儂を断罪しようというのですか?その程度の証拠で?」
テナン当主は、明らかな嘲笑をこめて俺をみる。
俺も、証拠が甘いのはわかっている。
リリィが倒れてから集めた証拠は、日数も足りず、内容も吟味しきれたとはいえない。
確実な分だけを引合いにしてるが、テナン伯爵は、余裕の顔で受け止める。
「確かに、一見、すべての証拠は私をさしているかのように見えますなぁ。しかし。これなんかは、証言が証拠?甘いですなぁ。その証人こそが罪深き罪人かもしれませんよ!そんな、1点でも怪しき点がある資料は、正しい資料とは到底いえませんな。」
内容を一読しただけで、的確に痛い所を突いてくる。
俺は、覚悟を決めた。
「そうですね。ここにある証拠は貴方の罪の可能性を示しただけのようです。しかし、見逃すことの出来ない大罪を犯していることを、ここで告げる!」
俺は、テナン伯爵に指を突きつけた。
「貴様は、この国で最大のタブーである魔法使いを使役している!」
俺の言葉に、控えていた護衛達が息を飲む。
「ハンガリン公爵。貴方からは、異質な魔力を感じる。貴方は認識していないかもしれないが、貴方の意識はゆっくりとテナン伯爵に奪われているのですよ!」
ウインターが人を操れないまでも、人の意識に入り込めると確認出来た後、俺はテナン伯爵の周りで異変がないか探った。
怪しいのは、ハンガリン公爵だった。
確かに、ハンガリン公爵はどちらかというと権力に欲を持っている人物だ。ただ、国への愛国心もとても強い人物だ。
王太子が決まった後、自分の娘を嫁がせようと動くのなら分かる。しかし、国を割ることになる王太子争いに率先して動くような人物ではないのだ。国の内紛を憂える一人だったはずだ。
しかも、兄上の教育係にウインターを推している。
今更兄上に教育係など特別必要でもないし、そんな事をハンガリン公爵がする必要はない。
それなのに、ハンガリン公爵はテナン伯爵の代わりのように動いているのだ。
そして、ハンガリン公爵が動き出した時期とテナン家が近づいた時期が一致している。
俺は、ハンガリン公爵にも、リリィと同じ人の意識に干渉する術がかかっていると想定した。
爺やをみる。
爺やが頷いた。
ハンガリン公爵に、爺やも異質の魔力を感じとったのだ!
間違いない!
俺は、宣言した。
「今、その術を解きましょう!そして、その術を術者に返す!」
俺は、力を解放した。
ハンガリン公爵の周りで風が巻き起こる。
俺は、ずっと自分の呪いを解く研究を続けてきた。
でも、この複雑に絡みあい強力な呪いはどうしても解くことができなかった。
でも、たった一つの弱い魔力の術くらいなら俺は解ける!
ハンガリン公爵の血に混ざるように張られた異質な魔力を俺は風の力で、体から剥ぎ取った!
術を返す!!
「うわあああああああ!」
一瞬血が沸き立つようなものだったのだろう。
ハンガリン公爵が凄い悲鳴をあげると、地面に倒れこむ。
その公爵の体からは、剥ぎ取った術が黒い靄となり呪いが皆の前に現れ、その呪いは、ウインターに向かった。
「ちっ!」
ウインターが手を舌打ちして、手を払った。
ウインターに返った黒い靄はウインターの前で霧散する。
周りが静まりかえる。
「ハンガリン公爵、気分はどうだ?」
俺の問いに、呆然とした公爵が起きあがる。
「私は・・、私は。」
ハンガリン公爵は言葉が続かなかった。
「貴方にかけられていたのは、ほんとに僅かで、しっかりと意識して探らないと分からないほどの弱い術だ。意識を奪うほどではなかったはずだ。貴方の欲を増幅させ、貴方の意識をテナン家の都合のいい方向へ誘導してのだろう。」
俺の言葉に、ハンガリン公爵は、まだぼんやりとしたままテナン伯爵を見つめている。
「はは!確かに、ハンガリン公爵にはウインターの術がかかっていたようだ!しかし、だからなんだとおっしゃるのだ?
その術を私の指示で掛けたとは言えないだろう。魔法使いを使役出来るのは王族だけ!ハンガリン公爵に術をかけたのは、実はアレクサス殿下、貴方なのでは?」
その言葉に、
「なっ?!」
私はたじろぐ。
「こうして、我がテナン家とロザリオ殿下に罪を擦り付け、王座につこうとはなんという企み!アレクサス殿下こそ、私利私欲で魔法使いを使ったその罪、どう責任を取るおつもりか!」
そして、ニヤリとウインターをみる。
「ウインター!貴様、誰の指示で、ハンガリン公爵に術をかけたのだ?今こそ、白状せい!」
テナン伯爵の言葉に、
「私は、アレクサス殿下の指示で行ったのですよ」
ウインターは恭しく私に膝まずいた。
周りが息をのむ。
俺は、リリィの件で焦りすぎ、失敗した事を悟った。
魔法を解除し、ハンガリン公爵の意識を取り戻し自白を取るか、勢いのままテナン伯爵を断罪するつもりが、一瞬で切り返され、自分が窮地に襲われている。
自分の失策を悔やむ。
リリィが今にも命を絶つかもしれない。
それなのに、今は一度引かないと、このままでは俺が罪を被せられてしまう。
実際、雰囲気は俺が罪深いかのような流れになっている。
俺は唇を噛み、言葉を発しようとしたその時、
謁見の奥の扉が開いた。
「父上!」
現れたのは、王である父上だった。
一瞬で空気が重くなり雰囲気は一変し、皆が父上に頭を垂れる。
父上は、ゆっくりと見渡しながら、椅子に腰かけた。
父上が頭を上げよと声をかけると、真っ先に、先手を打ってきたのは、テナン伯爵だった。
「これは王。今まさに、アレクサス殿下の私欲による魔法使い使役についての罪を確認しておりました。」
ぬけぬけと父上にそんな事を言う。
俺は歯噛みしながら、どう返すかと思案した時、父上が発言した。
「ほう?アレクが魔法使いを使役したと?」
睨むように返す父上に、さすがに周りが息を飲む。
しかし、テナン伯爵は慌てず、微笑むように父上を見上げ「御意」と告げる。
父上は、チラリと私を見たあと、響く声でテナン伯爵に向かった。
「では、我からも断罪させて貰おう!15年間前、貴様は、カローラに魔法使いを使役し術をかけたな?」
その言葉に、周りが静まりかえる。
母上ではなく、側妻だったカローラ様?
俺は驚愕した。
テナン伯爵は、さすがに驚いた顔をしたあと、
「・・・何を仰います?我が娘は、ただ精神を壊していただけでございますよ。だいたい何の証拠があって。」
そうテナン伯爵は続けようとしたその時、
「証拠ならここに!」
謁見の間の扉が再び開き、声をかけながら入ってきたのは、兄上だった。
「ここに、母の残した記録があります。」
本を高く掲げ、
「父上。今ここで、我が母カローラの真実の声をお聞きください。」
父上が頷くと兄上は語りだした。
「私の母カローラは、確かに狂っていたのだと思います。しかしそれは、魔法使いの術により何度も心を壊され、思いとは別の行動を取らされ狂っていったのです。母は、幼い私を毎日のようにぶち、呪うように喚き、恐ろしいほどローズ様とアレクを憎んでおりました。ただ、そんな母でしたが、ごくたまに私を抱き締め「助けて。愛してる。」そう呟くのです。私はそんな時の母の姿が忘れられず、母の遺した僅かな品を調べていました。すると、母の残した本の隙間に走り書きのようなものが時々あることに気付いたのです。」
兄上は、息を吸い込んだ。
そして、手元の本を開きながら読み上げる。
「王様もローズ様も傷つけたくない!」
「お父様が連れてきた魔法使いに術をかけられた!助けて!」
「ロザリオ」
「私が私じゃなくなる」
「憎い」
「違う!誰も憎みたくない。助けて!」
「もう私は私でいられない。」
「また魔法使がきた。いや。」
乱れた字で、それでも、生気の一瞬を何とか残そうとしたかのように、何ページにも渡りそれは書き綴られていた。
それは、まさにカローラ様が遺した記録。
しかし、
「何をいうかロザリオ!カローラは狂っていたのだ。そんな狂人が書いたもの、何の証拠にもならんわ!無能な娘の子供は、やはり無能か!」
テナン伯爵は、兄上を睨みつけた。
兄上も負けじとテナント伯爵を睨みつける。
「ロザリオ。わかった。」
深く頷くと、父上は、テナン伯爵にむかった。
「カローラが遺した記録に、貴様と魔法使いの関係が書いてあるか、認めぬか?」
父上の言葉に、テナン伯爵は鼻で笑う。
「先程も言ったでしょう?狂人が狂って書いたものになんの証拠がありましょう?」
そんな余裕すらみせるテナン伯爵に、父上は告げた。
「では、貴様にとくとみせよう。貴様と魔法使いがカローラに術を掛けた証拠を!!ここに持ってくるがいい!」
父上の言葉に、謁見の間の扉が開き、何かを持った侍従が現れた。
「髪?」
俺の声に、父上は頷いた。
「カローラの髪だ。」
その言葉に、周りが呆気にとられる。
「はは!王よ!おかしくなられたか。カローラは14年も前に亡くなったのです。今頃は土となり、髪など残っているはずがないでしょう!」
テナン伯爵がさぞおかしそうに言う。
父上は、その様子を見て、
「ああ。普通はそうだな。しかし、これは、紛うことなきカローラの髪だ。先程、カローラの墓を掘り起こしたのだ。」
父上の言葉に、俺は瞠目した。
「ロザリオより日記の件を聞き、手掛かりを求めカローラの墓に近づいた時微かな魔力を、魔法使いが感じ取ったのだ。そこで、カローラの墓を掘り起こす許可を与え、開けてみると・・」
父上は目を伏せた。
「カローラの体は未だ骨になっておらなんだ。腐りかけてはいたが、まるで呪うかのように形が残っていたのだ!これこそが、カローラに術がかけられていた何よりの証拠!何度も術を重く掛けられた上、術を完了せぬまま中途半端に残した結果、行き場をなくした術が呪いとなり、死したカローラの身体に留まりこのようなことになっていたのだろう。」
父は叫ぶ。
「アレクよ!今ここで見せてやれ!カローラの髪に残る魔力を持ち主に返すのだ!」
父上の言葉に、俺は再び、風を操り術の解除を行う。
カローラ様の髪から、黒い靄が浮かびあがり、ウインターとテナン伯爵に襲いかかった。
「うわぁぁ!」
テナン伯爵が靄に包まれる。
「この出来損ないの娘が!正妃になることも出来ず、暗殺すら失敗する出来損ないのくせに!この父に歯向かうとは何事だ!離せ!」
靄に包まれたまま、そんな事を叫ぶテナン伯爵の声が聞こえた。
「この儂がこんな所で・・」
そう言ってテナン伯爵は倒れた。
靄はまだテナン伯爵の周りを包んでいる。
慌てて、父上付きの護衛魔法使いが、テナン伯爵の靄を取り払う為動き出した。
その時、
「くっくっくっくっ」
そんな笑い声が聞こえた。
意識をむけると、テナン伯爵と同じように、黒い靄に包まれた、ウインターがそこにはいた。
「あーあ。カローラね。まさか、20年も前にかけた心を壊し憎しみを増幅させる術がまだ残っていたとはね。憎しみを植え付けるのに父親であるテナン伯爵の血を混ぜたから、呪い返しでテナン伯爵にも返ったか。しかも、体は死んだから、隠していた魔力が溢れてきて見つかったのか。あー。失敗した。確かに15年前の暗殺の時かけ直したが、暗殺が失敗して、中途半端な状態だったからなぁ。」
そう呟くと、軽く手を振る。
すると、ウインターの周りから、黒い靄が消える。
呪い返しを打ち消したのだ。
「やはり、貴様が15年前の魔法使いだったのか!なぜ、魔力をそれほどに変えられるのだ!」
俺はウインターを睨みつけた。
そう、いつの間にか、最弱の魔力の筈が、明らかに魔力が増えはっきりと感じ取れるほどになっている。
「これでも全然足りないよ。今一時的に無理やり魔力を作っているだけ。本来なら誰にも負けない。世界でも最強の魔法使いなのに」
憎々しげに、俺を睨むと、
「でも、今の俺じゃ城の魔法使いにすら叶わない。何より、呪いのせいで、あんた達王族に手が出せない。しかし、どうしても魔力を取り戻すためには、アレクサス、あんたに死んでもらわないとね!」
ウインターはそういうと、手をあげた。
「だからアレクサスを殺す手伝いをしてもらうよ!ここにおいで。リルアーナ嬢!!」
ウインターが叫ぶ。
すると、
「リリィ!止まるんだ!」
そんな声が聞こえたかと思うと、謁見の間の扉が開く。
そして、にっこり笑ったリリィが謁見の間に現れた。




