23 運命の日
目覚めてからの私はとても快適な王宮生活を送っている。
慣れない王宮生活とはいえ、ユーリはずっと側にいてくれるし、私のお世話をしてくれるメイドは庭園でお世話になった2人のメイド達で心を込めてお世話をしてくれる。
アレクサス殿下からは、お手紙とお花が届いた。
とても心配をかけてしまった事を申し訳なく感じつつ、可愛いお花に癒される。
それになんといっても、私を助けて下さった クロス様という小柄な魔法使いのお爺様がとてもおもしろい方なの!
アレクサス殿下の爺やさんらしくて、アレクサス殿下の幼少の頃の可愛らしいエピソードや、今でも緑色の野菜が嫌いなことなどを色々と暴露してくださるの!
あまりにも明け透けな内容を話して下さるから、一緒に聞いていたユーリがアレクサス殿下に同情していたくらいよ。
私の知らないアレクサス殿下の姿は、いくら聞いても飽きなかった。
目覚めた翌日。
明日には屋敷に戻ろうかとお父様とユーリと相談し、少し疲れたのでお昼寝をとった。
そのお昼寝から目覚めた時、私は全身を襲う倦怠感を感じた。
いや、倦怠感と違う。
私は意識はしっかりと戻っているのに、ピクリとも自分の意思で体を動かす事が出来なかった。
口すら動かないのだ。
それなのに、
体が勝手にむくりと起き上がる。
一緒に寝ていた蛙のぬいぐるみが床にポロリと落ちた。
でも、拾うこともできない。
「身支度を」
私は一言も発していないのに、口が勝手に動くのだ。
私の言葉に、慌ててメイド達が身支度を整えてくれる。
身支度が整うと、お父様とクロス様を呼んだ。
そして、可愛いらしくおねだりする。
「アレクサス殿下に贈り物のお礼をお伝えしたいの。殿下にお会い出来ないかしら?」
私が突然そんなことをいうので、2人とも一瞬面食らった。
クロス様が、じっくり私を観察する。
違うの!
私じゃないの!
私は心の中で叫ぶ。
クロス様は、私のベッドに落ちたままの蛙のぬいぐるみをみて、全てを悟ったかのように頷いた。
「お会い出来ない場合は?」
クロス様の言葉に私は、にっこり微笑んだ。
「お空を飛んで会いにいこうからしら?」
それは、アレクサス殿下に会わせないなら、この4階のお部屋から飛び下りると脅しているのだ。
クロス様は、
「アレクサス殿下に取り次ぎましょう。少々お待ちを。」
「クロス殿!」
お父様がいけませんと叫ぶが、クロス様は私の部屋から下がっていった。
※※※
その日、俺はテナン家の当主とすれ違っていた。
あの事件のあとは、一切王宮に近づかなくなったテナン家当主だか、ゆっくり少しずつ王宮の役職を持つようになり、半年前からは毎日のように王宮で姿を見かけるようになった。
「これは、アレクサス殿下。」
恭しく頭を下げ、私に道を譲る。
俺は、忌々しい気持ちを隠し、頷くと、無言で前を通り過ぎようとした。
「殿下には、想われる方が出来たようで喜ばしいことですな。アルフィルム家のご令嬢だそうで。」
そうテナン当主に言われて、俺は立ち止まる。
「まだ婚約者ではないそうですが、めでたいことですな。それにしても、アルフィルム家とは。殿下の勢力にはなり得ない相手でしょうに。」
そう話すテナン当主につい、いいかえす。
「私は打算だけで相手は選ばない。共に手を取り合い、国を支えていきたい相手を見つけたのだ。」
俺の言葉に、
「さようでございますか。その甘さで国を支えようとは。若さとは羨ましいものですな。」
失礼な言葉に、俺の護衛が殺気だす。
「老いぼれの独りごとでございますよ。」
テナン当主の言葉に、俺は、今度こそ足を止めず歩き去る。
そこへ、爺やが近づいてきた。
その瞬間、リリィに何かが起こった事を確信する。
執務中の俺に爺やが声をかけてくるなんて滅多にないことなのだから。
部屋に入り人払いする。
「リリィに何が?」
「想定していた中で一番最悪な事態ですな。リルアーナ嬢の体が乗っ取られました。」
その言葉に俺は壁を叩く。
「なぜ、リリィの体に忍ぶ魔力に気付かなかった!」
「何度も申し上げたはずです。リルアーナ嬢にはアレク様と同じ、複雑に絡まった呪いがかかっていて、確認には時間がかかると。その複雑で大きな呪いに隠れるように魔力が絡んでいることが、発動した今なら確認できます。」
俺は深くため息をついた。
「狙いは俺の命だな。」
「そうでしょうな。リルアーナ嬢を助けるにはアレク様の命を差し出せといわれるでしょう。」
「リリィの為なら命など惜しくはない!・・・けれどそれではダメなのだろう?」
「ええ。そうやって命を差し出すのは簡単ですが、大変愚かで最も最低な愚策ですな。アレク様の命を差し出してもリルアーナ様が本当に害されないとはいえません。そんな不確かなことのために、王になろうとする者が簡単に命を差し出してはなりません。しかも、アレク様の命は亡きローズ様が命をかけてお守りしたものです。その事をお忘れなく。」
爺やの言葉に唇を噛みしめ手で顔を覆う。母上・・声にならない呟きが漏れる。
なんと俺の命は罪深く重いのだろうか。
俺は、額をしばらく覆っていたが、手を離し。
「まずは、テナン家を潰す。」
俺の宣言に、
「御意」
爺やは恭しく返した。
爺やと、今、何処までテナン家の不正の証拠があがっているか確認する。
正直時間が足りず心許ない。
せいぜい、再度役職を解いて賠償金程度か。
俺は、最後の賭けに出る事を決める。
「テナン家と関わっている魔法使いは、ウインターで間違いないか?」
俺の問いに、
「多分間違いないかと。リルアーナ様にかかっている魔力はウインターと同じものです。ただ、どうしてこれほど、一気にリルアーナ様を操れるほど魔力が増えたのかが分からないのです。」
「では、関係者を集めて貰おうか?テナン当主、ハンガリン公爵、ウインターだ。」
※※※
私は、どうしていいのか分からず、動かない体を持てあましていた。
動け!動け!
何度も頭で、いつものように手足を動かそうとするのに、全く動かない。
私の体は、椅子に座り、お茶を飲んでくつろいでいる。
お父様とユーリは、そんな私を監視するように一歩離れて見ている。
私は、心の中で涙がこぼれた。
今の状況が不味いことはよく分かる。
間違いなく、アレクサス殿下に何かをするつもりなんだ。
もしかして、命を奪うの?
私が、アローの命を奪うの?
私は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
アローアローアロー!!
名を叫ぶ。
満月の日の偉そうな蛙の姿が浮かぶ。
アレクサス殿下!
アレクサス殿下の祝賀会で、手を取り合った、キラキラしたお姿も浮かぶ。
どちらの姿も、とても愛しい。
私はバカだ!
大バカだ!
こんなにも、アローがアレクサス殿下が好きなのに!
何故、分からないなんて思ったの?
蛙の時も、キラキラの王子様の時もどちらも、こんなに大好きなのに!
ずっと一緒にいたい!
ずっと一緒にいたいよー!
動かない体の中に閉じ込められた自分が悔しくて、あまりの愚かさに涙が止まらない。
助けて!
アローを、アレクサス殿下を助けて!
助けてくれるなら、私はどうなってもかわまないから。
私は心の中で叫び続けた。
※※※
「呼び出し?」
私は、侍従からの報告を受けていた。
アレクが、テナン当主である祖父と、ハンガリン公爵、ウインターを呼び出した事をきく。
「今日が運命の日か。」
俺の呟きに、侍従が不思議な顔でみてくる。
「私も行く!呼び出しの場所へ」
私の言葉に、侍従が慌てて護衛を呼びにいった。




