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21 絡みだす事態

「リリィの様子はいかがでしょうか?」

アレクサス殿下が遣わせて下さった魔法使いは、小柄なお年を召した魔法使いだった。

妻は、リリィの手を真っ青な顔でそれでもしっかりと握りしめていた。


ユーリから報告をうけた私は、急いで屋敷に戻る。

「アレクサス殿下に話したのは間違いではなかったでしょうか?」

少し不安げに話すユーリを私は抱きしめた。

「魔法使いが関わっている以上、これが最善だ。よくやった。」

私の言葉に、ユーリはようやく息を吐きだした。


現場の様子から、リリィが、蛙のぬいぐるみに刺さったナイフを抜こうとして、指先を傷つけたと私達は推察した。

その瞬間、

「何故リリィは、こんなぬいぐるみからナイフを抜くなんて軽率な真似をしたんだ。」

ユーリは考えられない!と髪をみだす。


リリィは自由な娘だが、愚かではない。普段のリリィなら、こんな怪しい物に手は出さない。それなのに、何故、こんな蛙のぬいぐるみなんかを気にしたのかユーリには分からないのだろう。


しかし私には分かる。

きっと、一瞬理性を失いつい手を出してしまうほど、蛙はリリィにとって特別な存在なのだろう。

私はため息をついた。


これは、間違いなくリリィへの罠だ。

蛙が何をさすのか、また2人の関係を知る何者かがいるのだ。

15年前の事件に関わる人物が後ろにいる!

私は確信した。


「ナイフには毒が仕込まれていたようですな。」

魔法使いの方のセリフに、私達は目を見開いた。


「これは、強い睡眠状態にする薬です。」

「睡眠?では、リリィはそのうち起きるのですか?」

妻の問いに、

「残念ながら、このままでは目覚めませんな。正確には、眠るように死に誘う薬なのです。

このまま目覚めず、栄養も取れず、ゆっくり死に向かう」

魔法使いの方の言葉に私達は顔を青くする。


「何。心配いりません。王宮の温室の薬草園に、この毒の特効薬となる薬草があります。しかし、症状を見極め即の投与が必要なことと、その薬草が特殊で、摘むとすぐに効果が消えていくため長時間の持ち運びが出来ないのです。この屋敷で治療を行うことが厳しい。・・・リルアーナ様を王宮でお預かりさせていただき、治療させていただくことをご了承いただきたい。」


魔法使いの言葉に、私はすぐに返事が出来なかった。

15年前の事件が関わっている以上、王宮も安全ではない。

間違いなく、アレクサス殿下とリリィをねらっている者がいるのだ。誰が敵で味方か分からない王宮は、リリィにとって安全な場所ではない。

ユーリが話していたウインターという魔法使いのこともまだよく分からない。王国の魔法使いである以上、王族に何かを出来るはずないのだが、リリィの人を見る目は確かだ。この件と絡んでいるのかは不明だが何か良くない存在と思っていた方がいいだろう。つまり、もしかしたら王宮こそが、リリィの命を狙う敵の罠かもしれない。

私の頭の中にあらゆる悪い想定が浮かぶ。

また、何といってもリリィは夜、猫になってしまう。王宮で治療を受ければ呪いの件が世間に露見してしまうリスクもある。

それなら、家で守りを固めるか?

しかし、


「・・・承知しました。娘をよろしくお願いいたします」

「父上!」

ユーリが叫ぶ。私と同じ事を考えているのだろう。それでも、まずは毒を解除しないとこのままではリリィの命が消える。

呪いの件も王もアレクサス殿下も、もうすでによくご存じだ。きっと計らってくださるだろう。

それに、例え呪いが露見しようともリリィの命には代えられない。

私の苦悶の表情に、


「リルアーナ様には厳重な警護と、私もつかせていただきます。」

魔法使いの方はそう言うと頭を下げた。


その後は、密かにリリィを王宮へ運びこむ手順を決める。

心配そうな妻に声をかける。


「心配いらない。リリィには、私とユーリもついていく。お前はリリィのために祈っていてくれ。」

妻は私を見上げ、頷いた。


※※※


俺は、兄上の部屋の前にたどり着いていた。

部屋への取り次ぎを頼むと、部屋付きの侍従が驚き慌てたように中に入っていく。


喉に貼り付く唾液を飲み、息を吐き出す。

緊張しているのが分かる。

兄上に拒否られたら、兄上に憎しみの目で見られたらと思うと心が揺れる。


あの15年前の事件の前のことは幼かったがよく覚えている。

何度も何度も思い出して生きてきたから。

リリィに出会うまでは、あの幼い時間が俺の幸せだったから。


兄上の母上は、激しい人だった。

だからだろうか?ぶたれ傷ついた兄上は、よく俺の母上の所に逃げてきていた。

母上も、兄上を俺と同じように慈しんでいたと思う。

幼い俺は兄上と母が違うとは分かっていなかった位だ。

なぜ、あの側妻(ひと)は兄上に辛くあたるのかと怒りを感じていた。そして、何故、兄上が母でなく、あの側妻(ひと)の所に戻って行くのか分かっていなかった。


母はよく兄上と俺を撫でながら、温室で俺達のために歌を歌い様々な物語を語っていた。

その後は、庭園でお茶とお菓子を食べ、噴水の音を聞きながら兄上とくっついてお昼寝した。

兄上と薄いブランケットに包まれ、母上が歌う柔らかな子守唄と母上の膝の温もり。

兄上と手を繋いで眠れば、何も怖いものなどなかった。

今でも思い出すだけで、心がほんのりとあたたかくなる俺の大切な思い出。


「きっとこれからあなた達は大人の事情に巻き込まれていくでしょう。でも、決して忘れないで。あなた達は同じ血を持つかけがえのない兄弟なのよ。どちらが王になっても、必ず助けあい支えあってこの国を守って。あなた達ならきっと出来ると私は信じているわ。」

母は何度も何度も俺達の手を取り2人の手を重ね語っていた。

母の言葉に、兄上と2人で頷き、笑いあった日々。

俺の大切な宝物だ。


「入れ」

兄上の声に、俺は室内に入った。

兄上は、俺を一瞥すると、座るように促してくれた。

「何?」

久しぶりだというのに、表情もかえず、俺に素っ気ない兄上に落胆を感じる。

それでも、用件を切り出した。


「兄上に聞きたいことがあり、参りました。」

俺は兄上を見つめた。

「兄上、リルアーナ嬢が害されました。魔法使いが関わっているようです。」

俺の言葉に、兄上の眉がぴくりと動いた。

「少し前に、温室でリルアーナ嬢がウインターという魔法使いに会い嫌な気配を感じたと聞きました。ウインターという魔法使いは、今、兄上の教育係だと伺っています。兄上、ウインターとはどういった者でしょうか?」

俺の直球の問いに、

「俺を疑っているの?」

兄上が俺を睨んでくる。

俺は、その視線を受け止める。


「兄上。私には、今の兄上の思いも考えもよく分かりません。それでも、兄上、私は王になります。あの、幼き日の約束を果たしたい。」

俺は兄上を見つめる。

もし兄上もまだあの幼き頃の日々を大切にしていて下さっているのなら、手を繋ぎ、国を支えていけるはずだ。

俺の疑問に答えをくれ、共に、立ち向かうと言ってくださるはずだ。

俺は期待していた。


しかし、


「出て行ってくれる?」


冷たく放たれた言葉に俺の期待は裏切られる。


「兄上!」


「一つ忠告しておくよ。ウインターにも俺にも近づくな。」


「・・・それは、兄上は敵になるということですか?ウインターが何か企んでいるということですか?」


俺の問いに兄上は答えない。

閉じられた、扉の前で俺は手を握りしめた。


※※※


「今度こそ。今度こそ成功させる。」


暗い部屋で呟く声がする。


「今度こそ、失敗は許されないぞ。」


「当たり前でしょ?この俺にこんな呪を施し、こんな惨めな状態にされて許しておけるはずがない。ようやく巡ってきたチャンスだ。絶対に、あの蛙王子を殺し、あんたの希望する通り、ロザリオ王子を王にする。その代わり、約束は覚えているな?」


「勿論だ。ロザリオが王になれば、その呪もはずせるだろう。また、金もいくらでもやる。その代わり、もう失敗は許さない。」


「ああ。俺ももう今の状況はうんざりだ。」


「儂もだよ。無能な奴が儂の上にいるなど耐えられない屈辱だ。この国の王は大体無能なのだ。魔法使いを保護?国のためだけに使う?全くもって馬鹿らしい。もう魔法使いは他の国では、迫害されほとんど存在しない。魔法使いはこの国の武器となり得るのに、何という愚かしさだ。最強の武器である魔法使いを使役し、この国の全ても周辺国も全て、この手に入れるのだ。全てをこの手に入れ、思うがまま操ってやる。」


薄暗い部屋に嫌な笑い声が響いた。


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