20 動き始めた事態
ユリウス殿と話せたのは本当に偶然だった。
俺は、積み上がっていた書類をようやく終わらせ、一時の休憩を得るため王宮内を歩いていた。
その時、ふと、目の端に銀色の髪が見えて、どきりと胸が高鳴る。あの、祝賀会の日、俺はとうとうリリィにこの気持ちを伝えた。
祝賀会の日、俺が贈った髪飾りをつけ美しい姿で立つリリィの手をとった瞬間、気持ちが溢れ、もう止める事は出来なかった。
呆然と立ちすくむリリィを思い出すと、ため息が出る。
でも、もう覚悟は出来ている。
もし、リリィに気持ちを返してもらえなくても、リリィがいるこの国を1人ででも守っていく。
いつかリリィの呪いを解き、リリィがずっと笑っていられるように俺はこの身の全てをかけこの国を守ろう。
それでも、どうか願わくば、俺の隣にはリリィがいて欲しい。
その愛を得ることが出来、隣で笑ってくれるのならば、俺は、きっと何があっても耐えていける。
そう思いながら、更に足を進めるとなにやら騒がしい。
あれは・・
「ユリウス殿?」
俺はそう声をかけた。
そう、そこにいたのは、リリィの弟のユリウスだった。
直接話したことはないが、リリィからはよく話しを聞いていた。リリィが心から愛し仲良しなことは話しからも、実際祝賀会でみた2人の様子からも明らかなことだった。
その、ユリウス殿が血相をかえて、護衛といい争っていた。
「殿下!」
はっとしたように、護衛とユリウスが俺に頭を下げる。
「何事か?」
俺の問いに、護衛が、
「いえ。ユリウス殿がアルフィルム侯爵に至急の用事と仰るのですが、只今、裁判の真っ最中で誰も通さないよう指示されております。伝言があれば、伝えるといっているのですが、ユリウス殿も直接でないと駄目だと仰られていて、どうにも出来ず・・」
どうやら、ユリウス殿は裁判中の侯爵に直接話したいらしい。
しかし、それは難しい。
裁判中は、例え王族でも入りこめない。厳格に司法として独立しているのだ。アルフィルム侯爵は、その司法の責任者の一人だ。
そこで、はっと気づく。
そんな事ユリウス殿だってよく知っている筈だ。アルフィルム侯爵家は権力を使うことを好まない性質で、王宮内でもいつも一歩引いているが、その頭脳は貴族中が認めるほど優秀だ。その跡取りであるユリウス殿も登城して間もないが、近年で一番の優秀さだと評判なのだから。そのユリウス殿が、ここまで強行しようとするなんて、
「何かあったのか?まさか、リリィに?」
俺がリリィと呼んだことに、ユリウス殿は驚いていた。
それでも、一瞬何かを考えて、俺に向き合った。
「殿下。少しお時間をいただけますか?今、リリィに起こっていることをお知らせします。」
ユリウス殿の言葉に頷き、俺は、私室へと通した。
「リリィが目覚めない?」
ユリウス殿の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
「殿下。私は正直、殿下をどこまで信じていいのか分かりません。しかし、この事態には殿下の、正確には王族のお力が必要だと思い、お話させていただきます。」
「なぜ・・?」
「はい。多分、この件には魔法使いが関わっています。」
ユリウス殿の言葉に衝撃をうけた。
「魔法使いが?何故、魔法使いがリリィを・・」
「殿下。少し前にリリィが温室で、ウインターという名前の魔法使いに会ったといっていました。しかも、とても、嫌な気配と体を蝕まれる気配を感じたと。殿下はご存知ありませんか?」
ユリウス殿は息をはいた。
「魔法使いの情報は一般の貴族には知らされていません。魔法使いが国でどういう位置にいて、何をしているのかは国家機密で王族以外には秘されている。殿下が味方なのか敵なのかもわかりません。ですから、私が今殿下に話しているのは賭けなのです。魔法使いが関わっている以上、今回のことは王族が絡んでいるかもしれないと私は疑っています。
それでも、昨日の祝賀会の時、私はリリィと殿下には僕達とは違う絆を感じました。殿下は、リリィを見捨てない、そう信じています。」
リリィに似た強い瞳で俺を見つめるユリウスに、俺は強く頷いた。
「あぁ。私は、絶対にリリィを見捨てたりしない。すぐに、確認する。何かわかり次第すぐに知らせるし、リリィの様子を見に、信頼出来る魔法使いを遣わしてもいいだろか?」
俺の言葉に、ユリウス殿は頷いた。
そこまで話していると、扉がノックされ、メイドが伝言を持ってきた。
「アルフィルム侯爵の関わっていた裁判が終了したようだ。侯爵が王宮の入口で待っている。」
その言葉にユリウス殿は、立ち上がり、俺に一礼すると扉をあけて足早に出ていった。
俺は、爺やを呼んだ。
そして、先程のユリウスの話しをきかせ、
「ウインターという魔法使いを知っているか?」
そう尋ねた。
我が国では、魔法使い同士でもほとんどお互いを知らない。
それほど、魔法使いは機密なのだ。
ただ、爺やはそれでも、長年城に仕え、魔法使いを纏める役目をおっている。
ふむ。と爺やは難しい顔をしたあと、私に向かっていった。
「確かに、城に仕える魔法使いにウインターという者はいます。温室の薬草の管理を中心に行っていて、そして、半年ほど前からロザリオ様の教育係をしている者の名前がその名前だったかと」
「兄上の?それは、どういった能力でどういった者だ?」
俺の問に、爺やは記憶を探りながら答えた。
「確か、15年前に、道で行倒れていたのを保護されたのです。微かながら、不思議な力があったので、城に通報され保護されました。」
「15年前?!」
「ええ。もちろんわかっています。あの事件の直後に国内に現れた魔法使いです。その能力、その魔力は徹底的に調査されました。そして、魔力は最弱レベル、能力は微かに人の意識を感じ取れる程度だと判断され、事件とは無関係だと判定されたのです。」
爺やの言葉に、俺は疑いをむける。
「本当に?」
「アレク様もご存知でしょう?我が国の魔力測定・能力測定は機械を使う。誤魔化すことは出来ないのです。勿論、その後も何年もの間不意討ちで能力測定してきましたが、魔力は多少増えてもやはり最弱レベルに変わりはなかったはずです。」
爺やの言葉に俺は頷く。
そう。我が国には、秘宝として、魔力測定と能力測定が出来る不思議な機械がある。
手を置けばその者の魔力・能力は分析され、誤魔化すことは出来ない。
その上で、魔法使いには選択が与えられる。
このまま魔法使いとして生きるかどうかだ。
魔法使いとして生きる場合、体には呪が施される。国からは決して出る事が出来ず、王族には決して仇なすことが出来なくなる。
そのかわり、王宮で、自分のやりたい道を自由に進み能力を磨くことが出来る。平民であっても、高官にだってなれるのだ。
我が国は国に貢献する限り、あらゆる研究・あらゆる行動を認め、手厚く魔法使いを支援する。
ただし、国を出ようとしたり王族に仇なした瞬間、その身は腐り始め恐ろしい苦痛と共に息絶えることとなる。
そのような、呪いを受けることを嫌がり、自由を求めるのなら魔法使いの能力と記憶を封印することになる。
ほとんどの者は魔法使いの人生を全うするが、時々、自由を求めるものもいる。
そういう者には、魔力を封印し、魔法使いや魔力の記憶を全て奪い、密かに町に戻される。
どの町に行くかは本人の意思を尊重し、密かに行われる。
この不思議な封印も国家の機密で秘宝だ。
どちらの秘宝も、大昔の、偉大な魔法使いの遺産らしい。
昔は今より魔法使いが溢れ、能力も、遥かに大きなものだったらしい。
その機械の正確さは、俺自身が一番よく分かっている。
俺こそが魔法使いなのだから。
「わかった。ただ、リリィが感じた嫌な気配が気になる。兄上の教育係か。・・・俺は一度兄上と話しをしてみる。爺やは、至急、リリィの元へ行ってくれないか?何かおかしな呪いが掛かっていないか毒が入りこんでいないか確認し、解除出来るものは速やかに解除して欲しい。」
爺やは俺が知る中で一番の魔法使いで、一番信頼できる。
俺の言葉に爺やは頷いてくれた。
本当は今すぐリリィの元へ駆けつけたい。
しかし、婚約者でもない自分は今リリィの元へ駆けつけることは出来ない。
そして、そのことにグジグジ悩む時間があるのなら、リリィのために出来る事を1つでも行うべきなのだ。
それが、ずっと避けていた、兄上との対決であったとしても。
俺は覚悟を決めた。




