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19 罠

私は、ゆっくり起きあがった。

きちんと布団がかけられている。


昨夜お母様がきっと、布団をしっかり掛けてくれたのだろう。

そう思うと、子供のようにお母様に泣きじゃくった事が恥ずかしい。でも、昨夜よりも気持ちがすっきり落ち着いていた。


「ゆっくり、ちゃんと考える。」

私はそう呟いた。

アローの事、アレクサス殿下の気持ち、全てが思いがけない方向に動きだし、昨日は心が乱れに乱れた。

今も、自分の気持ちがわからない。

でも、アローはとても大切な人だ。それは、間違いない。

この気持ちが恋なのか、私はゆっくり考えようと決めた。

だってアローは待つといったもの。 ゆっくりでいいんだもの。

気持ちにしっかり向き合って、アローに私の気持ちを伝えようと思う。


やるべきことが決まると、とてもお腹がすいてきた。

きっと、ユーリが今頃私を心配しながら朝食をとっているだろう。

私も急いで行かないと!

慌てて身支度を整え、部屋を出た。


「リルアーナ様にお届け物です。」

そういって、執事が小さな荷物を持ってきたのは、お昼近く。

最近はあまり届かなくなっていたが、また、お見舞い品かと気軽に受け取って部屋に戻った。

あまりに高価なものなら、お返ししないと!

私は、包装をといて箱を持ちあげ、茫然とした。


中に入っていたのは、

ナイフを胸に刺された緑色の蛙のぬいぐるみ、、、。

それは、まるで、アローの胸にナイフを刺しているようで、

「やっ!」

私はぬいぐるみを床に放り投げた。

心臓がドクドクいっている。

手を胸にあて、何度も深呼吸する。

私は、覚悟を決めて、ゆっくりぬいぐるみを拾いあげた。

「可哀想に」

ナイフが深々と刺さり痛々しい姿の蛙のぬいぐるみをみると、アローがまるで傷つけられているようで胸が痛い。

そんなアローに似たぬいぐるみを放っておくことが出来ず、私はゆっくり、ぬいぐるみからナイフを抜き取った。

その瞬間、ほんの少し、ナイフで指を切ってしまう。

そのほんの僅かな傷口から私の中に何かが侵入した!


やだ・・・!

体の中を何かが這い回っている感じがする。


私は失敗したことを悟った。

怪しい物が届いたら、近寄らず、お父様に相談しなければいけなかったのに、アローに似たその姿を放っておけず、つい手を出してしまった!


私は、声も出せず、気を失った。


※※※


僕は最近、とても面白くなかった。

リリィが、アレクサス殿下と手紙のやり取りを始めた。

リリィは、ただの乙女の夢よ!そう笑っているけれど、その瞳の輝きは本当にそれだけなの?

手紙が届いたと聞くと、嬉しそうに手紙と贈り物を抱えて部屋に籠るリリィを面白くない気分で見つめていた。


なにより、父上が変だ。


明らかに、アレクサス殿下がリリィに近づいているのに、何もするな、何も言うなと僕を制するのだ。

このままでは、リリィは本当に殿下の婚約者になってしまう!

そんな事になったら、結局リリィが苦しみ悲しむだけだ。

結婚なんて出来ないんだから。


そこまで考えて、僕はため息をついた。


リリィの事を言い訳にしているけれど、本当は、リリィが僕から離れていっているのが寂しいのだ。僕の大切な半身。ずっと2人一緒だったのに、僕への隠し事がどんどん増えて、それなのに、リリィは蕾が花開くように綺麗になっていっている。

リリィは僕がいないと駄目なんだと思っていた。でも、逆だったんだ。僕こそがリリィがいないと駄目だったのだと気づく。

はぁ。こういうの、シスコンっていうんだけっけ?


とうとう、アレクサス殿下の祝賀会の日がやってきた。

僕には予感があった。

きっと今日、リリィは僕の手を離れる。今まで、固く繋いで一緒に歩いてきたリリィの手を、別の男に奪われるんだ。


そして、予感は的中した。

ダンスホールで、煌めきながら踊る2人をみていた。

金色の王子様と銀色の姫君。手をとりあい、ダンスを踊る様はまるでピタリとはまった絵画のようだった。

今日初めて会ったはずなのに、一緒にいることが当然のように同じ雰囲気を纏い、お互いしか見えていない2人の瞳。


会場中が、水をうったように静かなことに2人は気付いていないのだろうか?

皆が、2人にうっとりと見蕩れ、目を離すことが出来なかった。


僕は、リリィが遠くへいってしまったことを悟った。

あぁ。もう、僕だけのリリィはいないのだ。唐突にその事に気づき、まるで迷子になったかのような心細さを感じる。

そんな時、

「ユリウス様。」

そっと僕を呼ぶ声にはっとした。

僕を呼ぶ声に振り向くと、心配そうな顔をしたエリザベス嬢がいた。僕は、この令嬢が嫌いだ。

僕の顔から勝手に優しい王子様だと理想化し、ところ構わず押してくる令嬢だ。僕は、押しの強い令嬢も、僕の顔に寄ってくる令嬢も嫌いなのだ。

昔からそういう令嬢は多い。だから、そういう相手にはとことん冷たくする。

すると大抵、理想と違う姿に勝手に失望して去っていくのだ。


でも、このエリザベス嬢は、離れていかない。

「ユリウス様。」

僕を心配そうに見つめてきた。

僕は苛ついた。

「何?僕の名前を勝手に馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」

はは。こんなの八つ当たりだ。

それでも、エリザベス嬢は、

「はい!」

何故か嬉しそうに返事をするから、更に苛ついてくる。

「はっきりいって、僕、君の事嫌いなんだよね。僕は君が思うような優しい王子様じゃないから。」

そうはっきりと拒絶する。

それでも、エリザベス嬢は、

「はい!わかっております。それでも、ユリウス様はとっても素敵だと思います!」

そんな事を真っ赤な顔で、力説する。

僕は呆れた。

ああ。この令嬢は、バカなんだな。

僕はそう思うと少しだけ、可笑しくなった。

僕がくすっと笑うと、エリザベス嬢も何故かとても嬉しそうに笑った。

「君、バカだね。僕、バカな令嬢も嫌いだから。」

そう言うと、やっぱり、

「はい!」

そういってとても嬉しそうに笑って顔を赤らめる。

「ユリウス様が話しかけて下さるだけで、嬉しいです。」

そんな事をはにかみながら言うエリザベス嬢に心底呆れた。

「君、、」

あまりにもバカバカしくて、言葉が続かない。

でも、ニコニコと顔を赤らめて僕を見つめるエリザベス嬢をみていると、悔しくて寂しかった心が馬鹿らしくしくなってきた。

確かにもうリリィは僕だけのものじゃないかも知れない。

それでも、僕にとって何よりも大切な女の子がリリィなことに変わりはないし、きっとリリィにとっても僕は何よりも大切な弟だ。その関係は誰にも入り込めず、そして何も変わらないのだ。

ストンとその事実が僕の胸に落ちてきた。

ははっ。

僕は、踊り続ける2人を見つめていると笑いが込み上げてきた。

横のエリザベス嬢にチラリと視線を向ける。

この令嬢はやっぱり嫌いだけど、少しだけ感謝してもいいかもしれない。そう思った。


そして、2人は踊り終えると、バルコニーに向かった。

そこで何を話したのかは分からない。でも、リリィは驚くほど心が乱れていた。僕の言葉が全く届かない。

そんなリリィの手をとり、早目に帰宅する。


夜中、リリィの泣く気配がした。

心配で、部屋に行こうとする僕を止めたのは母上だった。

僕にしーっと指をあて、リリィの部屋に入っていった。

朝方まで母上はリリィの部屋にいたようだった。


2人がどんな話しをしたのか分からない。でも、朝食に現れたリリィはいつものリリィで、僕は安心した。


それなのに!


昼食に現れないリリィを呼びに部屋に行くと、リリィが倒れていた。呼んでも、揺すっても何をしても起きないのだ。

しかも、恐ろしく手が冷たくなっていた。

しかし、息はちゃんとしているし、具合が悪そうな感じもない。

それなのに、何をしてもリリィは目覚めない!


何かがリリィに起きたんだ。

僕は部屋を見回すと、みたこともないナイフと傷ついた蛙のぬいぐるみをみつけた。


そういえば、少し前に、執事がリリィに贈り物を渡していた。


贈り物に細工がしてあった?


僕はリリィの身に何かが起こったことを確信した。

ずっと心配していた、リリィへの本当の悪意が、今リリィに向かっている!

父上を呼ばなくては!


僕は、馬に飛び乗り、城へ向かった。



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