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16 遭遇

登城の日・・


私は侍従長に連れられ、1人で温室に来ていた。

ユーリは、登城するなり、仕事のことで呼びだされていた。

「絶対僕が戻るまで温室にいてよ!」

ユーリに何度も何度も言い付けられた。


もう!わかってるわよー!


でもね、これは、不可抗力というものよ。

温室にまさか先客がいるなんて思わないじゃない?


私は声をかけることも出来ず、頭を下げ続けていた。

だって、先客は、第一王子殿下のロザリオ様だったのだから。

頭をさげる私を興味なさそうに一瞥すると、

「君が噂のリルアーナ・アルフィルム侯爵令嬢?」

そう声をかけられ、私はようやく顔をあげる。

「はい。アルフィルム侯爵家の娘、リルアーナでございます。」

私が返事をすると、興味なさそうにゆっくり視線を外す。


パーティーの時思った通り、その視線は鋭利だ。

一瞥されただけなのに、自分の中まで見透かされているような気がする。


「君は父上の許可を得ている。僕のことは気にせず自由にしていいよ」

そういうと、さっさと、私から離れていった。


私はほぅと息を吐く。

あれが王族のオーラってやつなのかしら?

さすがに緊張して体が固まった。


とりあえずあんまり近づかないように。なるべく静かに。

そう心の中で呟くと、温室の中をゆっくり歩く。


あっ!鳥がいたわ。

お家の鳥と似ているかしら?ううん!やっぱり私の鳥達が一番可愛い!お家で留守番してる番いのガラスの鳥達の姿を思い出すと顔が緩む。

あっ!鳥の鳴き声!

いい声ねぇ。

あちこちから聞こえて、まるで、競いあっているみたい。

あら!

あのお花可愛い!

このお花はとてもいい匂い!

やっぱりこの温室はとっても素敵だわ!

ニコニコしながら夢中で温室の中を回っていると、


「君、噂と全然違うね。」


そう声をかけられ、ちらりと声の方ををみあげると、珍しく口角をあげて、興味深そうな表情のロザリオ様がそこにはいた。


ロザリオ様のこと、忘れてたー!

少し離れた位置から私を見つめるロザリオ様が、そう声をかけてきていたのだ。


慌てて、目を伏せて、お口を閉じて、礼をとる。


なんで、そんなに見てるんですかー?私は一貴族の令嬢ですよー。なーんにもおかしなところありませんよー。

必死に心の中で呟きながら、表情には出さないよう頑張った。


その時、


「おやおや。今日はお客さんがいっぱいだ。」

新たな人物が温室に入ってきた。

40代位の男性だ。

黒髪に、鳶色の瞳。黒の衣装を着ていた。


「ロザリオ様。」

そういうと、ロザリオ様の足元に膝をつく。

「ウインター。」

ロザリオ様は、つまらなさそうに新しく入ってきた人物の名前を呼ぶ。


「はじめまして。レディ?ここに入れるということは、貴女がリルアーナ嬢かな?」

ウィンターと呼ばれた人物は、私をみると、にっこり笑ってきた。

「はい。リルアーナ・アルフィルムと申します。」

丁寧な礼をとる私に、

「ああ。僕にそんな礼はいいよ。貴族じゃないし。」

そういいながら、手をふる。

貴族じゃないのに、温室に入れるということは、魔法使いの方かしら?

そう考えていると、じっと見つめてくるウインター様の視線を感じた。


何だろう?

なぜか、視線に嫌な気配を感じる。

私の中に入ってきてる?

いや!私の中を探っている?


「ウインター!!」

激しいロザリオ様の言葉に、嫌な気配が霧散する。


顔をあげると、

ウィンター様を睨むロザリオ様の姿があった。

「勝手なことをするな!」

そうロザリオ様は吐き捨てるようにいうと、何も言わずに温室を出ていった。

ウインター様は、私ににっこり笑いかけると、

「またお会いしましょう?」

そう私に囁いて、ロザリオ様の後を追っていった。


私はずるずると、温室に座りこんだ。


なんだろう。あのウインターっていう人は、とても優しい顔をしていたのに、とても嫌な瞳をしていた。

私は、一瞬寒気を感じて自分の体を抱きしめた。



「リリィ?」

しばらくそうしていると、温室の扉があいて、大好きな声が聞こえる。

「ユーリ!」

私は飛び付いて、抱きついた。

ユーリは驚いた顔をした後、笑ってゆっくり頭を撫でてくれる。

そうされると、心が落ち着いてきて、ようやくいつもの自分に戻れた気がした。


今回も、庭園では、お茶会の準備がされていた。

前回と同じメイドもいてくれて、私をみると嬉しそうに笑って頭を下げてくる。

私もにっこり笑顔を返して、美味しいお茶をいただいた。

落ち着くと、内緒話のために、メイド達には、少し離れてもらってから、温室の中でのことをユーリに話した。


「嫌な気配?」

私の話しを聞いて、ユーリは考えこんでいた。


「ウインターか・・」

ユーリはその人物のことはわからないと頭をふる。


「ねぇ。リリィ。僕はね、登城してからずっと魔法使いの事を調べているんだ。はっきりいって、まだ登城して日も浅いし情報らしい情報は全然だ。でも、少しわかったこともある。」

真剣な表情で話を続ける。

「リリィ。魔法使いって何だと思う?」

私は、アローを思い出す。

「風を操ったり、不思議な力を持っていることでしょう?」

私の言葉にユーリは頷く。

「正確には、異能な力を持つ人達だよ。リリィがいうように、風や火や水を操る。これは、よく知られた魔法だよね?でも、それ以外にも、人の意識に関与したり、物に手を触れずに動かすようなよく知られていない能力もあるんだ。」

「また、魔法使いの人だって一枚岩ではない。全ての魔法使いが同じ思いでいるわけじゃないんだ。」


「でも、魔法使いは全員国が保護してるのじゃないの?」

私の問いに、

「僕達の国では基本的にそうだよね。でも、他の国では、魔法使いは迫害されたり、生き延びても流れの魔法使いになったりする人もいるんだ。そして、他の国では有力貴族に雇われていたりするそうなんだ。」

ユーリは一息はいた。

「この国では、どのような事情があっても、一貴族が魔法使いを使うことは何よりも固く禁じられているし、温室に入ってきたということは、国に属する魔法使いで間違いないと思う。国に属する魔法使いは国家に逆らえないようになっているともきくし、問題はないはずだ。ただ、全ての魔法使いが善であるとは思わない方がいいのかもしれない。気をつけていこう」

ユーリの言葉に私は頷いた。


※※※


次の満月。


私が草原に行くと、アローはいつもの岩の上にいた。

でも、ピクリとも動かない。

「アロー?」

心配になって急いで近づくと、アローは岩の上で眠っていた。


眠っているアローなんて初めてだ。

私もゆっくり隣で横になる。

少し風が出てきたから、私の毛皮でそっとアローを包みこんだ。


「アロー?疲れてる?」

いつもの偉そうな雰囲気はない。いつもは艶やかな皮膚も今日は艶がないように感じる。

声をかけてもアローは目をあけない。


そうとう疲れてるのね。

・・・今日、ウインターという魔法使いの事を相談したかったけど、また今度にしよう。

そう思うと私もゆっくり目を閉じた。


「リリィ?」

うーん?誰?私を呼ぶのは。

目をあけると、蛙が覗きこんでいた。


「アロー?」

「そうだ。ごめん。俺、寝てたんだな。もうそろそろ帰る時間だ。」

アローの言葉に飛び起きた。

ヤバい!急いで帰らないと!

しっぽをたてて、飛び起きた私に、アローが声をかける。


「リリィ。俺、、」

「なぁに?」

「・・.いや。しばらく、俺、こうして疲れて寝てしまうかもしれない。でも俺頑張るから。そうしたら、俺の話を聞いてくれる?」

そう見上げてくるアローに、私は目線を合わせた。


「勿論よ。私はいつでもアローの味方だもの。疲れたら、特別に私の毛皮を貸してあげるわ。今日もとても気持ちよかったでしょう?」

私が、おひげをピン!と張ってアローに告げると、アローは嬉しそうに笑ってくれた。


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