15 贈り物
私は目の前のプレゼントに呆然としていた。
「・・・リリィ?どうして?」
ユーリに聞かれたが、私こそ聞きたい。
結局、お父様の予想通り、アマリリス嬢への訴えは取り下げた。
けれど、思った以上に、エドワンズ侯爵家の対応は真摯だった。
きちんとした謝罪と申し分ない賠償金を申し出た上、アマリリス嬢は今後北の修道院で教育をやり直すらしい。あのアマリリス嬢が、清貧・質素の修道院でやっていけるとは思えないけど、それが嫌なら家を出るように言ったらしい。末娘であまりにも甘やかしすぎたと、侯爵家当主より直接の謝罪があり、当家もその謝罪を受け入れ、この事件は終息した。
しかし、社交界では、この暴行事件は今や誰も知らない人はいないほど有名で、今一番の話題だ。
だからだろうか。
私宛に、見舞いの品が届くようになった。
いくつかは、貴族子息から。これは多少下心がありそうだから、高価すぎる物はお返しし、遠回しなお断りと丁寧な御礼状を返した。
もう一つは、エリザベス様から。ユーリに恋するハンガリン家の公爵令嬢よ!
ハンガリン公爵家との仲は全く改善していないが、エリザベス様個人として、心から心配するお手紙とお見舞いの品を贈ってくれた。実は、今や文通する仲なのだ!
私と仲良くすることをエリザベス様の両親(特に当主)は快く思っていないようで、こっそりやり取りしている。
最後に、王家から。
王とアレクサス様のお名前でお見舞いの品が届いたのだ。
なっ!
なんでー?!
なんで、王家から!しかも王とアレクサス様から届くのー!
一応手紙には、アレクサス様の従妹の事を謝罪しお詫びとお見舞いだと書いてあるが。
「なんで、着々と婚約者候補への道を進んでいるの?」
頭を抱えたユーリに聞かれたが、私にもさっぱり分かりませーん!
「とりあえず、あけてみなさい。王家からのお見舞い品を送り返す訳にはいかない。中身を確認し、御礼状をしたためるしかないだろう。」
お父様の言葉に、私は、綺麗に包まれた包装紙をほどいた。
そこには、
「鳥篭?」
温室に似せた鳥篭と、鳥篭の中に、
「ひえええぇ!」
私は驚いて、落としそうになった。
それは、ガラスで作った番いの鳥だった。
ただし、羽の部分などに、美しくカットされた宝石がちりばめられた、それは見事に輝く素晴らしく美しい鳥だった。
手が震える。
これ、ものすごく手がこんでない?
使っている宝石が眩しいんですけどー?
呆然とする私の横で、お父様が難しい顔をして、ユーリが目を見開いている。
「なんだこれは。なぜこれほどの品が王家から届くのだ?しかも番いの鳥だなんて、求愛と取られてもおかしくないものだ。まさか王は本気なのか?本気でリリィを・・」
お父様はぶつぶつと呟きながら、歩き回っている。
「お父様」
私が声をかけると、お父様ははっとしたように私をみると、私の頭を撫でてくれた。
「リリィ。もしかしたら、王は本気でお前が気に入っているのかも知れない。これほどの品だ。御礼状で終わりとは出来ない。一度、私が王に謁見を申し込み、お礼と共に真意を探ってくるよ。」
不安げな私をみて、
「心配はいらない。そこで正式に申し込みがあれば、リリィの病を理由にお断りするだけだ。」
お父様の言葉に私は頷いた。
ユーリがお父様に疑問をなげかけた。
「それにしても、なぜ、アレクサス殿下のお名前が急に出てきたのでしょうか?」
「まぁ。アマリリス嬢はアレクサス殿下の従妹だということと、実はここ数日王宮の上層部で動きがあった。」
お父様の言葉にユーリが興味深そうに見上げる。
「ここ最近、会議や国政に少しずつアレクサス殿下が参加されているんだ。また、なかなか決まらなかったアレクサス殿下の20歳を祝う祝賀会も少し遅れたが正式に開かれることが決まった。2ヶ月後だ。勿論、ユーリとリリィも招待されている。」
「・・・王太子はアレクサス殿下で決まりということですか?」
ユーリの言葉にお父様は首をふる。
「いや。アレクサス殿下は幼少の怪我が原因で、長時間の活動が厳しい旨も正式に発表された。完治の見込みはあるそうたが、まだもう少し先になるようだ。そのため、祝賀会も通常より早めに開始され、アレクサス殿下は早めに退出となるそうだ。」
「それは・・王家も思いきった発表をしましたね。」
「そうだな。一気に第二王子殿下派が盛り上がっている反面、第一王子殿下派も第二王子殿下の体調不良を責めの要因として激しさを増して来ている。アレクサス殿下も国政に携わりだしたとはいえ、まだまだ甘い部分が多く、第一王子殿下派に足を掬われないようにするのが手一杯の様子だ。もしここで第二王子殿下が明らかな失敗をすれば、一気に流れは反転し、第一王子殿下が王になるだろう。」
お父様は呟いた。
「逆に、アレクサス殿下がここで王の素質を示すことが出来れば...決まりだな。王は、多分今まさに、アレクサス殿下を試しているのだろう。」
「つまり、現時点ではまだまだ我が国は揺れていて、何故かリリィも巻き込まれていっているわけですね。」
ユーリが息をはいた。
「そして、ここで、アレクサス殿下の名前で贈り物だ。王は、多分アレクサス殿下の婚約者にリリィをと思っているのだろう。」
お父様の言葉に首を傾げる。
「でも、私は、アレクサス殿下にお会いしたことなどないわ。金色の髪と王様譲りの緑色の瞳だとは聞いているけれど、お顔だって知らないのよ?アレクサス殿下だって、私のこと何もご存知ないと思うのだけど。」
「確かにそうなんだよ。しかも、我がアルフィルム家がアレクサス殿下に与したとしても、政局が変わるようなことは一切ない。今の情勢で我が家と縁を結ぶ理由がないのだ。何故にリリィなのだろう?」
お父様はそこで悩む。
「王も自分の後継者で国が落ち着かない状況なのはよくご存知のはずだ。そろそろ、王太子を決め国を安定させるために動かれると思ってはいたが、なぜ、この局面でリリィが出てくるのだろうか。王は思慮深い方だから、王が気に入った娘を婚約者にするなどという単純なことでは絶対ないはずなのだ。何か思惑があるとは思うのだが、さっぱりわからない。」
さすがのお父様も肩をすくめた。
「まぁ。私達は、誠実に動こう。特にリリィ。少しでも隙をみせないように気をつけて。」
お父様の言葉に、ユーリが力強く頷いている。
「なによー!
ユーリってば弟のくせに、最近生意気よー!」
と叫ぶと、
「ほんの数分の違いで年上ぶって何いってるのさ。慌てん坊のリリィがちゃんとお腹から出れるか、見届けてたんだよ。」
ユーリはそう呆れたように返してきた。
お父様はそんな私達をほほえましそうに見守っていた。
夜、ユーリと打ち合わせをする。
そろそろ王宮の温室へ行こうと思うのだ。
あまり時間を開けるとよくないし、ユーリも登城し始めてから、もう幾日か経ち落ち着いてきたようだ。
「では、明後日リリィが行くと侍従長に伝えておくよ。」
ユーリの言葉に、うん!と頷く。
綺麗なお庭に、あの不思議な空間の温室のことを考えるととてもワクワクする。
実は、王家からの贈り物も、私の好みにドンピシャなのだ!
あまりの宝石の素晴らしさでちょっと恐れ多いけど、鳥篭も繊細な作りでとてもとても美しい。そして、なんといっても鳥達の表情や姿がとても凝っていて可愛いのだ。
いきいきと今にも歌いだしそうな、首を傾げた表情がなんて可愛いのだろう!
大切に部屋に飾って、ずっとニコニコと眺めている。
今にも動きだし歌いだしそうな美しい鳥達を眺め、その声を想像していると飽きることがない。
ひとりぼっちの鳥ではなくて、ちゃんと番いなのもとても嬉しい。
まるで、私のことをよく知っているかのような贈り物に胸が少しときめいた。
アレクサス様?
そっと名前を呟いた。
今まで、お名前は勿論知っていても、想像したこともなかったその姿を思い名前を呟くと少し胸がドキドキした。
貴方は私のことをご存じなのですか?
貴方はどんな方なのですか?
胸の中で問いかけながら、目を閉じ眠りについた。




