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12 リリィの狙い

再び蹴られそうになった瞬間、

ガサガサガサ!!

私は避ける振りをして、近くの植木に体を預けた。


凄い音がして、まさに蹴ろうと足をあげて私を囲んでいた3人の令嬢の動きが止まる。


同時に、

「きゃああああ!」

植木の音で近くにいた女性がこちらを覗きこみ、泥だらけの私をみて、叫び声をあげる。

その叫び声で、今回のお茶会に参加していた、老若男女の参加者全員が一気に集まってきた。


「何事です!」

今回のお茶会の主宰者である、ロココ伯爵夫妻が飛び込んできて私達の様子をみて顔を青ざめ、口をぱくぱくさせる。


「リリィ!」

そこへ、少し遅れてユーリが飛び込んできた。

私はユーリにしがみつくようにして、コソッと「仕上げよ」そう囁いた。ユーリは一瞬呆れたように私をみたが、直ぐに立ち上がると、3人の令嬢に向かって大声で叫ぶ。


「リリィに対し、3人で殴る蹴るの暴行を行うとは、淑女とも人とも思えぬ所業!!恥を知れ!」

そう言うと3人の令嬢を睨みつける。


アマリリス嬢達は、一気に人が集まった事に驚愕し顔を青ざめさせている。

それでも、アマリリス嬢が気丈にも

「ちっ!違うわ!リルアーナ様が勝手に転んだのよ!」

そう叫ぶ。

しかし、周りからは白い目でみられる。


だって、私の泥のついたドレスには、くっきり3人分の足跡が残っているもの。

それに、私の腕にも蹴られた痛々しい跡がある。

それ以外にも、地面をみれば私が転びながら逃げる跡と、追いかける3人の令嬢の痕跡が草の倒れ方や足跡で残っている。


すぐに人が集まってきたので、この場に私とこの3人の令嬢しかいなかったことは明白だ。


私は、瞳を涙で潤ませながら、

「いきなり少し離れた場所に連れてこられたかと思うと、聞くに絶えない暴言を吐かれ、いきなり3人で私を倒して暴行を・・!!」

弱々しくもはっきりと周りに聞こえるように、ユーリに訴える。


周りからは

「まぁ!信じられない」

「あれは、エドワンズ侯爵家のアマリリス様じゃない。そういえば、第二王子殿下の婚約者になりたがっているとか」

「まぁ!それじゃあ、王の覚えめでたいリルアーナ様を妬んであんな酷いことを?」

「信じられない!令嬢としてありえない行いだわ!」


「酷いことをする!あれが令嬢のすることか!」

「嫉妬は醜いというが、みろ!あの3人の令嬢の醜い姿。」

「エドワンズ侯爵令嬢だけじゃない。一緒にいるのは、マイラス子爵令嬢とミリオン男爵令嬢だろ?侯爵令嬢に手を出すとは。」

「エドワンズ侯爵令嬢の腰巾着ごときが、自分の身分も価値も勘違いしてるんだろう!身のほど知らずにも程がある」


周りが一斉に3人を白い目でみながら、その酷い状況を噂する。


ユーリが3人の令嬢に睨み付けながら向かっていく。

「リリィへの明らかな暴行の数々!これはもう一方的な暴行罪だ。正式に王宮へ暴行罪として申し出、処罰するよう訴えさせて貰う。また、エドワンズ侯爵家、マイラス子爵家、ミリオン男爵家にも、アルフィルム侯爵家として正式に抗議する!」


3人の令嬢の顔色が真っ青から真っ白になる。

高位貴族間の大きな揉め事や犯罪に関する事項は王宮へ通知し、正式な裁判の上、王家直々に沙汰が言い渡される。


「今回は、現場の様子、リリィの姿から、そこの令嬢達の関与は間違いなく、証人にも事欠かない。貴様達の有罪確定は間違いない。覚悟していろ!」

ユーリの怒り狂った様子から、本気だと受け取った、子爵令嬢と男爵令嬢がユーリの足元にすがりつく。


「申し訳ありません!アマリリス様に脅され、こうするしかなかったのです!許して下さい!」

「全てアマリリス様がされたのです!暴言も暴行もアマリリスが率先されていて、私達も同じようにするように脅され仕方なく行ったことなのです!私達も被害者なのです。」


まぁ。そうくるわよね。

有罪となり王宮から沙汰が下れば、犯罪者確定だ。

もう貴族令嬢としては終わりだろう。

また、侯爵家からの正式な抗議となると、いくらの賠償金となるのかしら?子爵家、男爵家ごときで支払えるのかしら?

また、侯爵家に暴行で仇なしたとすれば、爵位降格もあり得るものね。

それだけ、侯爵家・公爵家は格が違うのだ。

王族に次ぐ身分とはそういうものだ。


アマリリス嬢は、いきなり翻った2人を憎々しげに睨んでいる。

流石に、すがり付き許しを乞う真似は出来ないらしい。

それでも

「なっ!なによ!あなた達だって、リルアーナ嬢が生意気だ!身の程をわからせてやりましょうって言ってたじゃない。あなた達こそ、私を散々持ちあげて利用してきたくせに、なにを今更被害者ずらしているのよ!」

2人の令嬢に怒鳴り散らしている。


3人で罵り始めた令嬢達を、ユーリは一瞥すると、

「ロココ伯爵夫妻!申し訳ないが、リリィを休ませたいので、部屋を準備して貰えますか?」

そう声をかけられたロココ伯爵夫妻は飛んできた。

ロココ伯爵夫妻も主宰者として、こんな事態を起こした事に対する責任がある。

慌てて、ユーリの指示に従い私に部屋を準備してくれる。


後のことは、伯爵夫妻とユーリに任せて、私はこのドレスと汚れを落とすため、チラリと罵りあう醜い3人の令嬢をみてその場を離れた。


部屋に入るとため息をついて、清潔なタオルと着替えとお湯を頼む。証拠のためのドレスをそっと着替えると、

「まぁ!お痛わしい!」

そういいながら、せっせと私の汚れを落とし、身支度を整えてくれるメイド達に、潤んだ目で儚げに目を伏せてみせる。


私は心の中で狙い通りの結果に安堵のため息を漏らした。


先日の公爵家当主の睨みは本当に怖かった。あれが、きっと国を動かす人物の眼力なのだろう。しかも力ある男性だ。小娘に過ぎない私にはとても大きく感じ怖かった。

でもね。

つるむことでしか何も出来ない令嬢の悪意なんて、あの睨みに比べれば甘いわよ!


私がしたことは大きく3つ。

私は囲まれた時点で何かされることは覚悟した。格上のアマリリス嬢がいる以上、下手に手出しすると私が訴えられるもの。


だから、まず、離れた場所で暴言が始まると、人のいる場所の近くへ周りの気配を探りながら移動を開始した。ゆっくり後ずさったり、転んだ振りをしながら気づかれないように、人気(ひとけ)のある場所へ移動したのよ。だって、いざ私が行動した時、人のいる場所と離れていたら、人が来る前に3人の令嬢が逃げるかも知れないでしょう?

すぐに人が集まって逃げられないようにするために、目撃者をつくるために移動は必要だった。

次に、徹底的にドレスを汚すこと。

転んだ振りをして場所を移動するためと、地面に痕跡をはっきり残すため。そして、直接の暴行の跡をドレスに残すため。動かぬ証拠ってやつよ!

実際には蹴られたのではなくて、ドレスを踏まれたのだけど、本当に殴る蹴るの暴行があったように見えるでしょ?

そして最後は、本当に一度は暴行を受けること。

顔は嫌だから、腕に傷をつけさせるように腕をだした。

これは、これからのお楽しみ用!


そこまで予定通りに事が運んだことを確認して、私はわざと、目立つ音を立てて植木に倒れたのよ!

あとは、周りが勝手に動いてくれる。


そして、きっとユーリが私のして欲しいことをしてくれる。

私はそう信じていた。

その期待通り、まるで3人の令嬢が私に対して、殴る蹴るの酷い暴行を行ったのだと周りの人に信じこませてくれたわ。

しかも、3人の令嬢達は罪をなすりつけあい、あれだけの衆人の前で自白してくれた。

どれだけ権力があろうとも、もうもみ消すことは出来ないだろう。


それにしても、人を傷つける悦びに夢中になるあまり、まわりの様子に注意を向けられないなんて、なんてお粗末な令嬢達だったんでしょうね?


「リリィ!」

そこへ、ユーリが部屋に顔をだした。

私の腕を取ると、くっきり残る痣に顔をしかめる。

「あの令嬢達3人は、主宰の伯爵夫妻からの報告と苦情文を添えて迎えにきた馬車に放りこんだよ。すでに、父上には早馬を出したし、今日中には、正式にアルフィルム侯爵家として抗議を申し入れる。王宮へも暴行罪で訴えるよ」

ユーリの言葉に頷く。


ユーリが私を優しくトントンしてくれる。

「リリィ。そばにいなくてごめん。頑張ったね。怖かったし、本当に痛かっただろう。」

ユーリの優しい言葉に、張りつめていた緊張がとけ涙がこぼれる。


あんな令嬢なんて本当に怖くない!

でも、やっぱり囲まれて悪意を直接向けられるのは、とても嫌で悲しかった。

狙い通り出来ると信じて、周りの様子に意識を向けながら動いていたけど、心の中は不安だってよぎっていた。

なにより、たった一度とはいえ、蹴られた事なんて生まれて初めてのことだった。

本当に腕が痛かった。

そんな色々な思いが渦巻いて、ユーリをみると安心して涙が止まらなくなってしまった。


一通り泣いて落ち着くと、ユーリに宣言する。

「まだよ。あの令嬢達を徹底的に社交界から追い出すんだから。協力してね!」

ユーリは、ニヤリと笑うと私のおでこに自分のおでこにあててきた。

「当然だろ?リリィに傷をつけた落とし前はきっちり取ってもらうよ」


私の弟は本当に気が合うし頼りになる!

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