最終章
「ま、負けた…。」
勝てると思ってたのに…。前回が奇跡だったのか…。
「…そういえば、言い忘れてたんですけど♥」
?
「チェックメイト♥」
!!!!?
「え、待って!なんで!?」
「キング、斜め前に進軍♥クイーンを取りなさい♥」
え?え!?なんで!?
「バカですねぇ♥あなた♥本当に♥」
「わかんない。どうして?なんで?」
「あんな資料、僕が用意したに決まっているでしょう♥あのバルコニーの♥」
「え…?」
あの、チェスの資料…。
「キングは前にしか進められない、でしたっけ♥んなわけないでしょう♥それじゃあ、最初のポーンよりも弱い♥キングはすべての方向に一マスまで進めることができるんです♥」
つまり、この出来事はバグでもイカサマでもなく…
「少しはご自分で調べればよかったのに♥なんておバカなのでしょう♥」
ああ、必然…必然だったんだ…。
終わった。私は…ハナミズキもミズキさまも失って…ミラも失うのか。ミラになにを命令されるのかもたしかに怖い。いや、ミラの命令は「国をよこせ」でほぼ確定だろう。その命令をしたあと…きっとミラは私のそばからいなくなる。私のことなんか見向きもしなくなる。…私はそれがなにより怖い。また、誰にも忌み嫌われ踏みつけられる日々が始まる。いや、これまでは一応女王だったから手加減されていた。女王でなくなった私は…きっと…。もしかしたら、スノウさんとスグリさんは…いや、大切なモクレンを、母国を、みすみす悪魔の手におとしてしまった私を軽蔑し、きっと離れていくだろう。
……ああ、寂しい。孤独だなぁ…。きっと世界は今よりももっともっと冷たくなって…。どうして、ハナミズキもミズキさまも死んでしまったのだろう…。なんで、メギとなんかと戦争を…。
「…国を、あげればいいんでしょ。私、今日の夜には…ちゃんとお城でるから。…バイバイ。」
涙がでないように耐えていると、冷たく突き放したような声が出てしまった。いや、これでいいのかもしれない。別れを私だけが悲しむなんてなんだか滑稽だ。
「……待ちなさい。」
「なに?」
ほっといてよ。ミラの声を聞くと…私私…。
「僕は命令をまだいってませんよ。」
「…そうだね。」
でも、結局内容は同じでしょ?
「…はぁい♥じゃあ、命令をくだします♥」
………。
「あ、その前に…
「……なに?」
「イイこと、教えてあげる♥」
目の前に一冊の日記が突如出現し、ぽとんっと私の腕の中におちた。そこには…
「木蓮華の日記…?」
モクレンゲって…ママの名前…?
「ええ♥これはあなたの母上の日記♥ここに、あなたの…真実が書いてあります♥」
* * * *
「…これ、ミラがいたずらでつくったんでしょ?さすがに趣味悪いよ。怒るよ?私。」
声が…震える…。
「いいえ。違います。これは間違いなくあなたの母上の日記。これが真実なのです。」
「嘘。」
「嘘なんかじゃありません。」
嘘だ。ママは…私に暴力なんて振るわない。ふるったことなんて…ない。いつも…いつも…
「ねぇ、どうしてあなたの記憶の中の母上はいつも泣きながらあなたを抱きしめているのですか?」
違う。そうじゃない、嘘だ。ママは、気が弱いから…
「あなたには本当に母上の記憶がありますか?泣いている母上以外を思い出せますか?」
……
「なにも、思い出せない。でも、ママを思い出そうとすると頭がガンガンして…。」
狂気に満ちた私と同じ色をした瞳。私をたたこうと大きく振りかぶる細い腕。きらきらと輝きながら私にむかってとんでくるママのお気に入りのブランドのワイングラス。
「……嘘、嘘、嘘だよ!嘘だ!!こんなの!こんなの…!!」
髪がぶちぶちと抜けていく嫌な感覚。冬に肌着一枚でベランダに放置されたときのあの寒さ。何日間もご飯を食べれないあの辛さ。ランプの光を反射してきらめくナイフ。
「…嘘、なんかじゃない…。こんなの…忘れられるわけないよ…。なんで、なんで私…忘れてたんだろ…。」
つらかった。でも、ママが大好きだった。
「ふふふ……。」
大好きで大好きで……
「…ねぇ、なぜ母上はなくなったのですか?」
「…それは、病気で…。」
ママは…病弱だった。
「へぇ。それ、本当ですか?」
「……うん。」
私は、見たから。
「なぜ、臣下たちは前女王が亡くなった直後に全員やめてしまったのですか?」
「それは…なんか、病気とかで…。」
「全員が?そんな馬鹿な。」
「…私の運が悪いのミラも知ってるでしょ。」
運が悪すぎるの。
「僕はね、こう思うんです。臣下たちはあなたの凶行をみてしまった。それで、
「凶行なんてない!!知らない!!!」
覚えてない!!
「思い出しなさい。はっきりと。あのとき、あの場所で、誰が、あなたの母上を殺したのか。」
「ママは…病気で…
そう、
「あの時、ママの部屋で、私がママを殺したの…。」
ナイフのきらめきは私に向かったんじゃない。ママに向かったの。ママが私に向けたナイフを私が奪って…勢いのまま…ママをさしちゃったの。
「私が…いけない子だからママは私を切ろうとしただけなのに…。」
なんで、忘れてたんだろう…。忘れちゃいけないことなのに…。
「あぁ、なんて悪い子♥そんな悪い子は…わかりますよね♥」
ミラに両手を包まれる。ミラの手が離れると、手の中には冷たい感覚が残った。
「…ちゃんと、地獄にいくから。ママ。そこで…罪はちゃんと償うよ。」
喉にナイフを突き刺すと、激痛とともに血が舞い散った。たっていられなくなって、地面でうずくまる。
…辛いけど、これがママの負った痛みなんだ。ちゃんとわかったよ。ママの痛み、わかったよ。
「そういえば、命令がまだでした♥」
めい、れい…?そういえば…
「では、命令します♥…死んだらすぐ、今日のできごと、 すべてを忘れなさい。」
え、それじゃあ私…地獄にいっても罪を償えないよ。地獄は、自分で罪を自覚して受ける罰を選ばなければ永遠に抜け出せなかったはず…。
「み、ラ……?」
ここであったこと、つまり…ママ殺し、自殺、それらの罪を忘れて地獄にいく…?
そしたら私、永遠に地獄にいることに…。転生もできないから、ママともハナミズキともミズキさまとも永遠に会えない、よ…。
「や、め…
「さよなら♥地獄で会いましょう♥」
その瞬間、私は意識を飛ばした。
* * * *
灼熱に焼かれたと思えば凍り付くほどの寒さ。化け物に追われて食われる。腕をもぎとられて瞳を抉られる。懺悔したくても、償いたくても罪がわからないからなにもできない。永遠に終わらない悪夢。いや、現実。
私はいつのまに死んでしまったのだろう。どうして地獄にいるの?なにもわからない。
「……地獄…。」
炎に焼かれながらふと気づく。そういえば、ここに別荘を持っているという男がいた。会いにいくと約束した。名前を呼べば、顔ぐらいには見にきてくれるといっていた。
「…ミラ!!!」
お願い!!!
「ミラビリス・ネペンテス!!!!」
宙に伸ばした手を冷たい手がつかんだ。
「のろまなんですよ。タウチさんは。いつ思い出すのかとひやひやしていました。」
なくなっていたもう一方の腕や瞳がもとにもどっていき、体中の傷口が癒えてゆく。
「本当に…きて、くれた…。」
「当り前じゃないですか。」
ミラは炎から私を引き上げると横抱きにした。
「私を…この地獄から助けてくれる?」
「もちろん。我が主。」
そっか。まだ、勝負はついてなかったもんね。契約は切れてないんだ。
「ありがとう…ほんとうに…ありがとう…。」
ずっと寂しかった。ずっと、怖かった…。みんな罪をつぐなって消えていく、なのにずっと一人取り残されて…自分がなにを犯したのかわからない、自分がなにを犯ししたのかが怖い…。
「ほら、泣かないでください♥ハンカチなんて出せませんよ♥」
仕方ないのでミラの服で拭く。
「…何気に鼻水つけてません?」
「あ、バレた?」
「…炎の中に捨てますよ♥」
「ごめん!!やめる!やめるから!つけないって!!」
ぽたん、とほのかなぬくもりのある水が私の頬に一滴おちてきた。
「ミラ…?泣いてるの…?」
「なにいってるんですか♥泣いてるのはあなたでしょう♥」
「いや…。……うん、そっか。そうだね!」
絶対に泣いてるけど…ここは黙っておいてあげよう。私はお姉さんだからね!!人の気持ちが…ちゃんと…わかるん、だよ…。そう、人の気持ち…ママの…
「では、行きますよ♥」
「うん!」
「結構なスピードで飛びますから、おちないでくださいね♥地獄に逆戻りですよ♥」
「絶対におちない!!!」
あわててミラにしがみつくと、ミラはにやりと笑ってスピードを上げた。
…この野郎!性格悪いぞ!!
「おーちーるー!!!!」
「あはは!」
なんだかなにか思い出しそうな気がしたけど…ミラと久しぶりに話せて楽しいし、頭も急に痛くなったし…どうでもいっか!
「これからは…毎日、一緒に笑って楽しく生きましょう。つまらないことは忘れて、おもしろおかしく」
「うん!!」
これからなにをしよう?ああ、楽しみだなぁ!!




