猫参上
「すみません、そうじ当番で遅れまして」
猫実さんが、テキパキと巧の横に座る。走ってきたのか頰が少し紅潮している。美しいピンク色が、わけもなく巧の心をそわそわさせる。
「なにを話してたんですか?」
巧は、助けを乞うように先輩の方を見た。やれやれといって、彼女が代わりに説明してくれた。
「哲学の話だよ。」
「て、てつがく?!」
新しい虫を発見した小学生(失礼)のように猫実さんが目を見開いた。
猫実さんは生まれて初めて哲学という言葉を、言ったのではと疑うほどだった。
「哲学ってあの、アリストテレスとかの、、、?」
この時点で、純粋かと思われた猫実さんに巧は知識で敗北してしまった。
「そうだよ。でも哲学の勉強をしていたわけじゃない。哲学そのものをしていたと言った方がいいかな。巧が、自分の人生論について語ってくれた。」
「なっ」
「へぇ」
猫実さんが横を向いて、小学生(失礼)が檻に入っていたウサギを取り出す時のような顔をした。その顔を見ても、なすすべがなく、丸まっていることしかできない。
「で、巧さんの人生論とは?」
もう、聞かないでくれ。猫実さん。
言わないつもりでも、さっきの自分の様子がフラッシュバックして、心が痛い。