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クリエイト!(その3)  作者: 大塚
新しい始まり
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笑顔

「それで、”あのこと”は言えたかい。」

 夜桜先輩は巧に視線を投げかける。

「あのことって…何ですか」

 投げかけられた視線。わかっているのに、わざわざ確認してしまう。こんな風に廊下を歩きながら、大切な話をしてもいいのだろうか。

 猫実さんはきょとんとしている。

「今日の昼休みに話したことだよ。」

 先輩は、何も特別なことではないように、さらりと言った。その穏やかな口調に巧は目が覚めるようだった。ただ、自分が猫実さんにしてあげたいことを、申し出るだけ。気負うことも、怖がることもない。ただ、先輩が自分たちにしてくれるように、自然に言ってみれば良い。

「あの、このあいだ、猫実さんが見せてくれたアイデア帳の小説、書いてみたいです。いや、書いてあげたいと思いました。」

 目が大きく見開かれる。猫実さんは突然、思いもしない話が始まったことに驚く。その目に向かってなるべく冷静に言葉を選んだ。原稿用紙に向かうような、静かな気持ちで。

「僕にとって、助けたい人は猫実さんだから。書くことで、猫実さんの役に立ちたいと思いました。よかったら、もう一度アイデア帳を見せてくれませんか。」

 猫実さんの目が揺れた。そして、立ち止まる。巧も、正面に立って立ち止まる。

「いいんですか。」

 絞り出すような声で、猫実さんは言った。

「はい。」

 巧はうなずく。今まで感じたことがないほど、柔らかい気持ちでいることに気がついた。猫実さんの目の動きや、息遣いまではっきりと感じられる。体が透明になって、目の前で起こっていることが、ありのまま通り過ぎていく。

「ありがとうございます。」

 猫実さんはまっすぐ立って笑った。その笑顔にまた巧は救われた気持ちになる。その笑顔さえあれば、何があってもきっと書ききることができるだろう。巧はそう信じた。

「よかったね。」

 先輩はそう言って、ゆっくりとまた歩き出した。猫実さんは「はい。」と元気に返事をして、弾むように歩き出した。

 その後ろ姿を見ながら、巧は先輩が自分にも笑いかけてくれていることに気がついた。巧は胸の中にあった重いものが、すっと軽くなったような気がした。いやでも嬉しさで浮き足立ってしまう。廊下を駆け出したくなった。

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